今の仕事を続けるより転職を考えたほうがいいのか、今後どのようなキャリアを歩んでいけばいいのか、仕事と家庭を両立するには――。人材派遣を通じてキャリア支援を行っているリクルートスタッフィングのキャリアカウンセラーらが、働く女性たちの悩みや不安にアドバイスします。
企業が正社員を定年まで雇う「終身雇用」の崩壊が語られることが増えてきた昨今、今後のキャリアを考える上で「転職」という選択肢が当たり前の時代になってきました。転職をするにあたり、前職とは異なる業種や職種へ「キャリアチェンジ」する人が増えています。
リクルートスタッフィングが2021年に行った調査によると、2020年4月以降に転職した人のうち、半数以上が前職からのキャリアチェンジを果たしています。しかも、その中でも業種と職種どちらも全く新しいものに変わった人の割合が最も高くなっています。

この時の調査では、特にコロナ禍の影響を受けた旅行・宿泊・レジャー・小売・外食などの販売・接客職から多くの人がキャリアチェンジしている実情が、データに表れていました。
しかし、業種や職種に関係なく、キャリアチェンジする人が増えたのは、実はコロナ禍以降ではありません。
リクルートエージェントが2009~2018年度の転職者を分析したところ、前職と異なる業種への転職は7割近くに達していました。つまり、10年以上のスパンで見ても、キャリアチェンジが一般化しているのです。しかも、社会人になりたての20代前半でも半数ほどの人が、業種・職種ともにキャリアチェンジをしています。
自衛隊員や職人からキャリアチェンジの例も
キャリアチェンジの内容に目を向けてみましょう。コロナ禍に転職した販売・接客職の人の就職先はさまざまですが、比較的多いのが「営業職」「事務職」です。
IT・Web業界では「インサイドセールス」「カスタマーサクセス」など、新たな営業・マーケティング関連職が生まれ、ニーズが高まっています。前職で培った接客のスキルを生かし、これらの職種に転職する人も増えています。
事務職については、もともと人気があり、未経験からの転職はハードルがとても高いと言われています。厚生労働省によると2022年6月における全職業の有効求人倍率*が1.09倍に対し、事務的職業の有効求人倍率は0.39倍と、求人数が非常に少ないことがわかります。(*有効求人倍率:求職者1人に対して何件の求人があるかを示す数値)
しかし、諦めてしまう前におすすめしたいのが、「派遣」という雇用形態の選択肢です。未経験でも事務職になれるチャンスが上がります。派遣とは、派遣会社と雇用契約を結び、実際に働く派遣先の企業で就業する働き方です。事前に研修を行ってくれる派遣会社も多いですし、ひとりひとりに担当者が付きキャリアのサポートをするので未経験でも安心してチャレンジすることができます。
実際に、私が手がけている事務職未経験者向けの無期雇用派遣サービス「キャリアウィンク」では、約8割が事務職未経験ながら、事務職として就業しています。アパレル販売や飲食業出身者が多いのですが、中には驚くようなキャリアチェンジを実現している人もいます。
例えば、自衛隊員から事務職へ転職。「体力面や将来の結婚・出産を考えると長く続けていけるか不安」と、20代のうちにキャリアチェンジに踏み切り、派遣先では「ガッツがある」と高評価を得ていました。そして3年後、キャリアコンサルタントの資格を取得し、さらなるキャリアチェンジを実現しました。
また、アパレルの「パタンナー」から事務職にキャリアチェンジした事例もあります。パタンナーとは、デザイナーが描いたデザイン画から型紙を起こす専門職です。
転職理由を聞けば、「メーカーの指示通りに作業するのではなく、自分で考えたり工夫したりする仕事がしたい」とのことでした。会った当初はいかにも職人さんらしい寡黙な印象でしたが、事務職として働き始めてからは、元来の豊かなコミュニケーション能力を発揮し、就業先からも好評を得ています。

「キャリアチェンジして良かった」約7割
リクルートスタッフィングの調査には「転職理由」を聞く質問があり、20代の回答で多くを占めたのが「自分が成長できる環境で働きたいと思ったから」「成長企業・業界で働きたいと思ったから」。全年代を通じて7割近くが、「キャリアチェンジをしてどうだったか」という質問に「良かった」と前向きにとらえています。
私自身もアパレル業界から人材サービス業界へキャリアチェンジしました。転職した当初は、前職とはまったく異なる価値観を持つ仲間に囲まれ、これまで経験したことがない役割や業務を担い、縮んでいたバネが一気に伸ばされるような感覚を味わいました。
筋トレを始めたばかりの頃は筋肉痛に苦しむけれど、着実に鍛えられている喜びがありますよね。それと同じで、転職前の自分よりも成長し、「人生が変わった」「人生のクオリティーが上がった」という実感を得ました。
転職市場は、緊急事態宣言の影響もあり求人数が一時は落ち込みましたが、現在はコロナ禍以前の活況を取り戻してきています。キャリアチェンジのチャンスは拡大していますので、何かを「変えたい」という思いを抱いているのであれば、行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
しかし、未経験の仕事に応募するにあたり、「何をアピールすればいいのかわからない」「これまでの経験をどう生かせばいいのかわからない」という悩みを抱えている人は多いようです。次回は、未経験からのキャリアチェンジを成功させるためのポイントをお伝えします。