虎屋 和菓子に込める真心と季節…パリ目指す職人は紅茶で気分転換

ポジティブな気持ちになれたり、仕事の役に立ったり。自分らしく、生き生きと働く女性たちの「ハッピーアイテム」を紹介します。

和多利 めい(26)
東京工場製造課生菓子係

季節の生菓子を1日に約1000個を作る工場で働いています。入社して6年目です。

先輩の動きと姿勢、常に観察

入社1年目は、菓子を作る前の準備作業をみっちり学びました。30キロの砂糖の袋やあんがつまった約20キロのバットを運ぶ筋力もなければ、職人が体に染みこませる動きの一つひとつがたどたどしく、大変でした。

あんをこす作業も1年目の試練の一つです。手のひらの腹の部分を使って、目の細かい網を使ってこします。気が付いたら、手のひらはマメだらけ。マメが破れて、またマメができる、というのを繰り返して、右手の皮が随分と分厚くなりました。

職場では約半数が女性です。最初の頃は「私、こんなにへなへなで大丈夫なんだろうか」と思っていましたが、今では重いものを持てなくて苦労している後輩に「こうしてみたら」とアドバイスできるようになりました。

力が弱い分、どうしたらより効率よく作業ができるか、先輩の動きと姿勢を常に観察しています。求肥ぎゅうひをねる時は、「えんま」という全長約90センチの巨大なしゃもじを使います。力のある職人は難なく扱いますが、私は肘や肩を痛めそうだったので、体全体を使ってねるように考えました。まんじゅうの生地も一度にもむ量を減らし、その分スピードを上げて人並みの仕事をこなせるように、自分なりに工夫をしています。

自分の体力の限界を考えず、がむしゃらに仕事をしていた3、4年目の頃、体調を崩しやすくなりました。「このままでは体を壊して仕事ができなくなる。仕事の仕方を見直そう」と心に決めました。いい意味で「あきらめ」を学んだことで、私なりのスタイルを作れるようになりました。

虎屋で和菓子職人として働く和多利明さん
「江戸時代から受け継がれている菓子もあります。伝統のある店で働くことの重みを日々感じています」と話す和多利さん

元々はパティシエ志望

高校卒業後、製菓の専門学校に入学するときは、パティシエに憧れていました。小学3年の時、母と一緒にスノーボールという粉糖をまぶしたクッキーを焼き上げ、お菓子作りの魅力にはまりました。人に食べてもらうものを作る喜び、焼き上がるまでのワクワク感、粉糖をクッキーにまぶすときのお化粧をするような楽しさ……。「夢の国みたい」と感激したことを今でも鮮明に覚えています。

高校の料理部部長を務めたときは、顧問の先生に「料理部なのにお菓子のレシピが多すぎる」と苦言を呈されたほど(笑)。進学校だったので、専門学校に進んだ卒業生は数える程度でした。親にも先生にも言い出せず、一応、大学受験をしました。第1志望は残念な結果となり、浪人という話になったときに、思い切って両親に「専門学校に行ってお菓子の勉強をしたい」と打ち明けました。驚かれましたが、最後は背中を押してもらいました。
 
専門学校で1年目に和菓子作りを習い、衝撃を受けました。手仕事の繊細さはまさに「真心を込める」作業でしたし、四季を表現する美しさにも感動しました。虎屋への就職を希望したのは、2年生の時にフランス旅行で訪れた虎屋のパリ店で食べた和菓子が、日本で慣れ親しんだ味と同じだったことに感激したからです。環境が違っても同じ味を提供する老舗の底力に「すごい!」と心から思いました。

虎屋の季節の生菓子「向日葵」をつくる作業
季節の生菓子「向日葵(ひまわり)」は花弁を黄色のそぼろで表現。「バランスの良い丸い形にします」と和多利さん

念願かなって職人になったものの、失敗もあります。仕事に慣れてきた3年目のこと、寒天を使ったお菓子を任されたのですが、寒天が溶けきっていないことに気付かず、商品を型から出す段階になって、ミスが発覚したことがありました。たくさんの材料を無駄にしました。

今は、仕事が立て込んで焦っていても、一つひとつの作業で確認を怠らないように心がけています。「あれ? なんか変だぞ、大丈夫かな」という疑問が頭をかすめたら、一度手を止め、周囲に聞くことを徹底しています。違和感を覚えた自分の「勘」を大事にし、大丈夫だろうと決めつけて先を急ぐことがいかに危ないかということを痛感しました。

和菓子は、寒天や葛など天然の素材を使います。そのため、「今年の寒天は吸水が早い」「この葛は粘りがある」といった具合に、年や産地で性質が異なります。ばらつきのある素材を使って、常に一定水準の品質を維持し商品に仕上げる難しさを日々感じています。

例えば、薯蕷饅頭じょうよまんじゅうは、生地にすりおろした山芋を入れます。規定の分量はありますが、芋をすったときに、こしの強さ、水分量をチェックして砂糖や粉の分量を微調整します。これは経験がものをいいます。生地を触って、割合が違うと気が付き、失敗を防いだこともあります。たくさんの失敗があったからこその成長です。

虎屋には何十年も職人として経験を積んだ先輩がいます。「赤飯をトン単位で炊いたことがあってな」「東日本大震災の時はな」などと、先輩職人たちの経験談は勉強になります。過去を知ることで、未来をより良くできると思っているので、積極的に先輩と話しています。

紅茶の文化と世界観に夢中

仕事の時に欠かさないのが、紅茶です。自宅でお茶をいれて持っていきます。和菓子はどちらかというと香りがあまりない世界で、紅茶は香りの世界。休憩中にふっと紅茶の香りをかぐと、オンとオフの切り替えができます。

パリの老舗紅茶店「マリアージュフレール」のお茶が大好きで、給料の大半をお茶に費やしたことも。お店で香りや味わいのブレンド手法などを聞いていると、和菓子にはない感覚や文化を感じられるので勉強になります。イギリスの紅茶で、白、赤、青の菊の花びらが入ったアールグレイも優しい澄んだ香りが気に入っています。

先日、仕事で和菓子教室の講師を初めて務めた際、参加した小学生から「職人さん、すごーい」と言われました。普段、何百もの和菓子をひたすら作っていると、つい見失いがちになる職人という自分の立場を改めて実感しました。

美しいことはもちろんですが、本質はおいしさだと考えています。おいしい和菓子を作り続け、将来、フランスで働くことを希望しています。甘い豆を食べる習慣がないヨーロッパで、和菓子の文化を普及させているパリ店は職人として、また違う世界を見られると夢を膨らませ、精進しています。(読売新聞メディア局 野倉早奈恵)

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