「競争の番人」「元彼の遺言状」作家・新川帆立が読んでほしい人

小説家の新川帆立さん(31)は、作品が相次いでテレビドラマ化されるなど、今、最も勢いのある若手の一人だ。「30代は修業」と話し、「同世代の女性に喜んでもらえるものを」と創作活動に意欲を燃やす。

「元彼の遺言状」「競争の番人」作家・新川帆立さん
吉川綾美撮影

まず弁護士に

中学校まで宮崎県で育ちました。田舎独特の雰囲気や集団生活になじめず、周りから少し浮いているような子でした。小学2年の時、「ハリー・ポッター」シリーズの面白さに衝撃を受け、海外ファンタジーやミステリーを読み、「遠くに行きたい」と思っていました。

父の仕事の都合で高校からは茨城へ。作家になりたいと思ったのは16歳の時です。夏目漱石の「吾輩は猫である」を読み、筆の乗り具合に「書いていて楽しかっただろうな」と感じたのです。初めて書く側に興味を持ちました。

デビューできる人は一握り、さらに生活の糧を得られる人は数えるほど。粘り強く書くために、まずは国家資格を取り、食いぶちに困らないようにしようと思いました。医学部には落ちましたが、法学部に受かったので司法試験に挑戦し、合格しました。

同世代へ刺激

25歳から東京都内の法律事務所で働き始めました。激務が続き、右耳が一時的に聞こえなくなったり、血尿が出たりと、体が悲鳴を上げました。休職中にふと、「私は小説家になりたかったはず。書く時間が取れないのは本末転倒」と思い、26歳の時、小説の教室に通い始めました。

融通が利く職場に転職し、働きながら執筆しました。楽しくて書くたびに上達するようでした。ただ29歳でデビューした後は、苦しいと感じることも多かった。

目指したいレベルに筆力が追いつかず、書き方が分からない。でも、出来る範囲で商品にしなければならない。読者は自分の成長を待ってくれないからこそ、試行錯誤を続けています。

今月、放映が始まったテレビドラマ「競争の番人」は公正取引委員会が舞台。初めて取材をもとに書いた小説です。働く人の志が正確に伝わるよう注意を払いつつ、気楽に読める作品にしました。私には「世のため人のため」という精神がなく、弁護士には向いていないと思います。でも、自分の小説で「面白かった」「元気が出た」と言われると、「誰かの役に立てた」とうれしいものです。

私にとって30代は「修業」。仕事の量が仕事の質を高めてくれると信じて、とにかく多くの作品を生み出すようにしています。手に取ってほしいのは、同世代の女性たちです。ある意味、別の人生を歩み、刺激のない毎日に 鬱屈うっくつ していたかもしれない、もう一人の自分に向け、書いているのかもしれません。

◇  ◇  ◇

【取材後記】

東大法学部卒業、弁護士をやめて華々しく小説家デビュー。テレビドラマ化された「元彼の遺言状」の主人公であるエリート弁護士・麗子のように、バリバリと仕事をこなす強い女性なのか――と身構えて取材に向かった。

何本も取材予定がある中で、「色々と調べてきてくれてありがとうございます」「記者さんって大変ですよね」と、こちらを気遣ってくれた。「麗子のモデルは新川さんですか」とぶつけると、「いつも、書きたいストーリーに合った主人公を後から決めるので、モデルは私じゃないんです」とほほえんだ。一つ一つの言葉を、間違いのないように、丁寧に紡ぐ姿が印象的だった。

「一か八かの賭けが嫌いで、勝てる道筋を考えてきた」という戦略家の一面も見せるが、作家として軌道に乗ってきた今の心境は、「遠くの目標に向かって必要なことを考えるより、足元のことを一個ずつ拾っていって、どこまでいけるかという気持ち」だという。修業の成果を、同世代の読者として心待ちにしている。(生活部 山田朋代)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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新川帆立(しんかわ・ほたて)

1991年、アメリカ生まれ、宮崎県育ち。東京大を経て弁護士に。元プロ 雀士じゃんし 。2020年、「元彼の遺言状」が第19回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞。

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