ミステリー界の新星・結城真一郎 令和ならではのトリックが満載!

2018年、「名もなき星の哀歌」で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、作家デビューを果たした結城真一郎さんは現在31歳。会社員として働きながらコンスタントに作品を発表し続け、2021年には短編小説「#拡散希望」で、平成生まれの作家としては初めて日本推理作家協会賞を受賞しました。6月に待望の最新刊「#真相をお話しします」を刊行すると早くも重版が決定するなど、その勢いは止まりません。デビューまでの道のりや、“令和ならでは”と評させる作品が生まれた背景について聞きました。

発売前の全文公開から火がついて

4作目になる短編小説集「#真相をお話しします」は、発売前にプロモーションの一環として、収録作の一つ「#拡散希望」をWEB上に無料公開しました。すると、ミステリーファンや書店員の方々が感想をSNSなどに次々に投稿してくださったんです。口コミが広がっていく様子を見て、その熱量に手応えを感じています。

なかでも驚いたのが、それらの反響が海を越えて韓国の出版社の編集者の目にとまり、翻訳出版が決定したこと。韓国で結城真一郎を知っている人なんていないはずなのに、作品を読んでオファーをいただけたことがうれしくて。自分の作品が、国を超えて人の心を動かすことができたんだと自信につながりました。ネットの拡散力をまざまざと実感し、望外の喜びをかみしめています。発売前に翻訳が決まるのは異例のことなのだそうです。

今作では、YouTuber、マッチングアプリ、精子提供、リモート飲みなど、現代的なテーマやアイテムを取り上げています。それは、新しい技術の登場、世の中の価値観の変化のなかで生まれる「日常のゆがみ」や「新たな動機」にひかれるから。当たり前に見えることにも意外な側面があるんじゃないか? 便利な技術や道具を悪用するとしたら? 考えうる最も異常な動機、とっぴな行動はなんだろう? そんなふうに考えることが好きなんです。

たとえば迷惑系YouTuberと呼ばれる人たちは、視聴回数を稼ぎたくて犯罪行為に及ぶことがあります。10年前には考えられなかった「新たな動機」です。そして、悪いことだと知っていても、そうした犯罪行為の動画を見たいと思ってしまう人もいる……。今まで認識されていなかった人間の欲求が、新しいプラットフォームを介して目に見えるようになった、と言えるのではないでしょうか。

現実ではありえないようなハッピーエンドだったり、後味の悪さだったり、そういうのはフィクションだからこそ受け止められるし、楽しめるものです。今作は、信じていた日常が崩れ去るような物語ばかり。伏線がきれいに回収され、結実し、最初に見ていた景色とはまったく違う結末に連れていかれる面白さを、ぜひ皆さんに味わってほしいです。

ミステリー界の新星 結城真一郎さん
小説家を志した頃に読んでいたのは、伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」、宮部みゆき「模倣犯」、東野圭吾「容疑者Xの献身」とミステリー尽くし(東京・神楽坂の新潮社にて)

中学の卒業文集に寄せた初作品は

将来作家になろうと、狙いを定めたのは中学3年の時です。中高一貫の男子校に通っていたので、中学を卒業して高校に行ってもメンツは同じ。だから卒業文集の制作時期になってもみんな真面目にやらなかったんですよ。でも、せっかくなら何か面白いことをと思い立って。「バトル・ロワイアル」をまねて、自分が所属していたサッカー部の実在の生徒たちが高校進学の一枠を懸けて殺し合うというパロディー小説を、原稿用紙600枚くらい書いて掲載するという、常軌を逸した行動に出たんです。1限から6限まで、ほぼ授業を聞かずに書き続けて、1か月かからないくらいで完成させました。その年の卒業文集は前代未聞の2冊分冊でしたね(笑)。

母校は自由な校風ではあるものの、さすがに内容がけしからんと怒られるかなと思ったんですが、先生たちは掲載を許してくれました。それに、同級生だけでなく、お母さんたちも家事の合間を縫って読んでくれたと、母が保護者会で聞いてきて。「〇〇君が死ぬシーンはカッコいいけど、うちの息子は情けなかった(笑)」とか、好意的に感想を寄せてくださった方も。

小学生の頃から漫画を描いたり、まねごとのように物語を書いたりはしていましたが、長編を完結させ、人前に出したのは初めてでした。皆さんが時間を割いて読んでくれて、リアクションをいただいて、楽しくてうれしくて。その瞬間、小説家になりたいと明確に思ったんです。

“辻堂ショック“に打ちのめされ

と言うものの、その後は「いつか小説家になる」「本気出したらすごいものが書ける」と思っているだけで何もしなかったんです。そして東大法学部在学中に、同じ学部の同級生だった辻堂ゆめさんが、「このミス」(『このミステリーがすごい!』大賞)を受賞して作家デビューするのを目の当たりにすることに。鼻っ柱を折られましたよ。吹いているだけじゃなく、文学賞に応募して受賞しなくちゃダメだと焦りました。

在学中に書き上げて応募した作品は箸にも棒にも引っかからず、2作目は会社勤めをしながら少しずつ書き進め、2年半かけて仕上げました。その作品で、2018年の新潮ミステリー大賞を受賞することができたんです。同じく東大法学部の一つ先輩の、2020年に「元彼の遺言状」で「このミス」大賞を取って作家デビューした新川帆立さんも、この“辻堂ショック”に衝撃を受けて、本気で小説家を志したそうです。それくらいショッキングな出来事でした。辻堂さんと新川さんとは、在学中は知り合いではなかったんですが、それぞれがデビューした後に飲みに行く仲に。辻堂さんのデビューがなかったら、いまだに書いていなかったかもしれない。スイッチを入れてもらったことに感謝しています。

現在は、会社勤めをしながら執筆しています。デビュー前は、いつどれくらい書こうが自分の自由でしたが、今は締め切りがありますから、仕事とのやりくりが結構大変です。でも、兼業のメリットも大きいと思っています。金銭的なことばかりでなく、働いていることで会うはずもなかった人と出会うことができるし、本来なら能動的に動かなければ得られないような情報が無償で手に入ることも。また、世の中の多くの人はサラリーマンですが、その経験を自分もしたことがある、苦労や悲哀を知っているということは、創作活動をするうえでプラスになります。実際、自分の経験は作品に生かされていますよ。今作に、家庭教師をあっせんするアルバイトをする大学生が登場しますが、まさしく自分が経験したこと。友人たちとの旅行や飲み会の描写もそうです。

ミステリー界の新星 結城真一郎さん
東大法学部で学んだことが作品に生かされているかと問うと、「ほとんど生かされていません(笑)、でも出会った人との繋がりからえた経験は、現在進行形で生かしています」と結城さん

いたずら心と悪ガキ気分

子供の頃から、誰かを笑わせたい、面白がらせたいという思いが人一倍強かったと思います。古い倉庫の屋根に登って飛び跳ねたり、友達と一緒に森の中に入って、拾ったライターでマシュマロをあぶって食べたり。悪ガキでした。ミステリーを書くうえでも、そういういたずら心、悪ガキ気分を持って、自分が楽しみながらみんなも楽しませることをすごく意識しています。

現在文芸誌で連載しているのは、ウーバーイーツの配達員を題材にしたミステリー。ネット上に店舗名はあるものの実体のないゴーストレストランを経営するオーナーが、配達員を使役しながら安楽椅子探偵のように情報を集めて謎を解いていく……そんなストーリーです。それに、次回作は青春ミステリーにしようと、ストーリーを練っている最中です。 

将来的には、学生時代に夢中になった伊坂幸太郎さん、宮部みゆきさん、東野圭吾さんのように、読書好きの人でなくても1冊は読んだことがあるというような作家になりたいです。一朝一夕では到底かないませんが、自分がその時一番面白いと思ったことを、クオリティーの高い作品に昇華させながら着実にやっていくしかありません。結城真一郎の作品を読めば必ず、貼り巡らされた伏線が一気に回収されてスカッとする。その点だけは外さないように、強みにしていきたいと思います。

(聞き手・読売新聞メディア局 深井恵)

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結城真一郎(ゆうき しんいちろう)
作家

1991年、神奈川県生まれ。開成高校を卒業後、東京大学法学部に進学。2018年、「名もなき星の哀歌」で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に「プロジェクト・インソムニア」を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー「本格王2020」(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、3冊目の長編作品である「救国ゲーム」を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。

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