「アートも起業も、社会を変えたい」スプツニ子!の出発点

ジェンダーやテクノロジーを題材に、常識を揺さぶるような作品を生み出してきたアーティストのスプツニ子!さん(37)。起業家として、4月から女性の健康を後押しする企業向けサービスの提供にも乗り出した。「アートも起業も、社会を変えたいという思いは同じ」と語る。

スプツニ子!さん
吉川綾美撮影

性別の格差

いつも自分の体と向き合って、作品づくりに没頭してきました。例えば大学院の卒業制作では、男性が機械で生理を疑似体験する様子を表現した映像作品を作りました。人類の半分が体験しているのになぜタブー視されるのか。そんな疑問が出発点でした。

大学進学先の英国で、驚いた経験があります。生理痛がつらくて受診すると、低用量ピルがぽんと無料で処方され、痛みはすっかり解消されました。そんな選択肢があるとは知りませんでした。

こんなにすごいものが日本で知られていないのは、なぜだろう。調べてみると、ジェンダーギャップの問題が見えてきました。ピルが日本で承認されたのは、比較的遅い1999年。決定権を持つ層に男性が多いと、女性の課題は追いやられてしまいがちです。

大学院修了後は、現代アーティストとして国内外で作品を展示したり、米マサチューセッツ工科大(MIT)の助教になったりと、がむしゃらに働きました。

社会変えたい

ところが30歳を過ぎると、モヤモヤした気持ちに苦しみました。仕事は楽しいけれど、本当にやりたいことは何か。今後のキャリアと、出産のタイミングはどうすればいいのかと悩みました。

そこで目を向けたのが、将来の妊娠に向けた卵子凍結でした。MITで働いていた頃、米国では卵子凍結が広がっており、アップルなど大手企業が福利厚生として凍結費用の補助を始めていました。パートナーはおらず、出産予定もなかったので33歳で思い切って東京で卵子凍結をしました。お金はかかりましたが、心に余裕が生まれました。

起業を考え始めたのはこの頃です。社会を変えたい思いで作品を作ってきたけど、アートの枠を超えて、人々の生き方に寄り添うサービスを作ろうと決めました。

こうして設立したのが、「クレードル」、英語でゆりかごの意味です。企業の社員向けに生理や更年期、男女の不妊治療に関するオンラインセミナーなどを提供しています。

女性は生理や出産など、体と向き合いながらキャリアを考えることが多い。だからこそ個人の問題ではなく、会社や学校、社会で支える文化をつくりたい。私自身、あんなに出産のタイミングを考えていたのに、起業の準備中に自然妊娠しました。かつての自分には、「あまり自分を責めないことが大事。何でもやってみるうちに、前に進んでいくよ」と伝えたいです。

◇  ◇  ◇

【取材後記】

毒のあるユーモアと言えばいいのだろうか。医学部入試での女性差別を風刺した作品や、心拍数が上がると男性器のような機械が立ち上がる作品など、痛烈な作品を手がけてきたスプツニ子!さん。ゆっくりと言葉を選びながら話す姿が、印象的だった。

女性の健康やキャリアを後押しする会社を起業したことについて、「アートの延長と言うと、チャラいと思われるかも。でも作品も会社も、すごく真剣に向き合ってきた」と語った。 サービス開始に向けた企業への営業では、よく人事担当者から「女性だけを支援するのはちょっと…」と難色を示されたそうだ。女性が構造的に不利な立場に置かれていることを説いた上で、「平等と公平は違う」と言い続けたという。

たしかに、企業の健康指導で肥満や禁煙はおなじみのテーマなのに、生理や不妊治療、更年期はなかなか語られにくい。今ある差異に配慮しながら、それぞれに合った支援をするのが「公平」だという説明に、大きくうなずかされた。(読売新聞経済部 青木佐知子)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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スプツニ子!(すぷつにこ)

1985年、東京都生まれ。インペリアル・カレッジ・ロンドン卒業後、英国王立芸術学院で修士課程を修了。2019年から東京芸大准教授。同年、多様性を支援する会社「クレードル」を設立。

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