働く女性の増加で解消される「M字カーブ」、改善されない男女格差

共働き世帯と専業主婦世帯の数が逆転したのは1990年代のことです。社会に出て働く女性が増えてきました。ただし、就業の「中身」についてはもっと検討が必要だという声を労働関係の専門家から聞くことがあります。どういうことでしょうか。

女性の働き方についてよく聞く言葉に「M字カーブ」があります。出産や育児を機に一度仕事をやめて、再び働き始める――。そんな女性の働き方を表す用語として広く知られています。20代に上昇した労働力率が出産・育児期にあたる30代に落ち込み、再び上がる様子が「M」の字に似ていることから、M字カーブと呼ばれてきました。長年、女性の継続就業を阻む壁の解消が課題とされてきましたが、働く女性の増加などでM字の谷が浅くなってきました。近年、M字カーブは徐々に解消されつつあります(図表参照)。

男女共同参画白書で示されたM字カーブの推移。M字の谷が浅くなっている
M字の谷が浅くなっている(令和4年版男女共同参画白書より)

 新たに登場した「L字カーブ」とは?

代わって最近、登場したのが「L字カーブ」という言葉です。2020年に、政府の文書(政府の有識者懇談会「選択する未来2.0」中間報告)に初めて登場しました。女性の正規雇用率が20代後半に5割を超えてピークに達した後、一貫して下がり続ける様子を指した言葉です(図表参照)。

女性の就業率は全年齢を通じて上昇している一方、正規雇用率には年齢による偏りが見られる。赤字のカーブが「L字カーブ」(「選択する未来2.0」中間報告より)

 内閣府の担当者は「保育の受け皿の拡大などで『M字』は解消されつつあるが、出産後、非正規雇用の選択肢しか事実上残されていないのは問題だ」とした上で、「こうした状況をわかりやすく伝えたいと、担当大臣と相談して『L字』と名付けた」といいます。ちなみに、この時の担当大臣は西村康稔経済再生担当大臣です。

このL字、正直、M字のようにわかりやすくありません。年齢別の正規雇用率を線で結ぶと、への字形のカーブが表れます。への字の頂点にくるのが20代後半で、以降、正規雇用率は年齢とともに下降します。この「へ」の字形のカーブを左に90度回転させた形が「L」の字に似ていることから「L字カーブ」と名付けたようです。しかし、個人的には「への字カーブ」と言った方がピンときます。

女性の経済的自立や社会での活躍、人口減社会における労働力確保の点などから、女性の就業率が各年齢層で上がり、M字カーブが解消の方向にあるのを歓迎する声は強いのですが、「M字が解消されたからといって問題解決というわけではない」という声を聞きます。就業率が上昇したといっても、その中身は「非正規雇用」が中心で、非正規雇用は前回コラムでご紹介した通り、低賃金で不安定な働き方となりやすいからです。

L字カーブは「極めて特殊」

さて、このL字カーブ、専門家にいわせると、「極めて特殊」な形であるようです。就業率が増えていて、正規雇用率が年齢とともに下がるということは、逆から見れば、年齢とともに非正規で働く人が増えることを意味します。

「他の先進国では、女性の非正規雇用労働者の割合は、中年期に低下する男性と同じ形を描くのに、日本の女性の場合は年齢とともに上昇する。だから特殊なんです」と亜細亜大学の権丈英子教授(労働経済学、社会保障論)が説明します。

ここでもう一つ図表を見てみましょう。日本の非正規雇用比率を男女別・年齢階層別に見たグラフです。男性の場合、非正規雇用の割合が多いのは若年期と高齢期で、中年期は正規雇用が主流であるのに対して、女性は年齢とともに非正規雇用割合が上昇しているのがわかります。権丈教授はこの図を「胃袋型」と呼んでいますが、まさに胃袋の形をしています。

総務省「労働力調査」。「役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合。15-24歳は在学中を除く」
(権丈英子教授作成。データは総務省「労働力調査」。役員を除く雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合。15-24歳は在学中を除く)

「柔軟な働き方」か「正社員」か

「L字カーブ」にせよ、「胃袋型」にせよ、なぜ日本の女性の働き方にはこんな特徴があるのでしょうか。

「正社員の短時間勤務や在宅勤務などが進まない中で、柔軟な働き方をしたくとも正規で働く選択肢があまりないという現実が『L字カーブ』や『胃袋型』を生み出していると思います」というのが権丈教授の分析です。

出産後も働き続ける女性は増えており、第1子出産後の継続就業率は約53%(2010~2014年に第1子を出産した女性の場合。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」)にまで上昇しました。2005~2009年の第1子出産女性の統計では約40%でしたから、育児休業や保育所の整備・拡充などで、就業を継続する女性が増えてきたことがわかります。

しかしながら、半分近い女性が辞めているのも事実です。辞めた理由は人によって様々でしょうが、離職した女性が再び働こうとした時、残業もあるフルタイムの就業は難しく、結果的に働き口としては非正規雇用が多数を占めるという状況がうかがえます。

こうして見てくると、〈1〉労働時間や勤務場所の選択肢を増やし、正社員の働き方をもっと柔軟にする〈2〉正規と非正規の不合理な格差をなくし、非正規雇用の待遇を改善する――といった政策が必要なことがわかります。出産のほか、現実問題として育児や介護などの家庭責任を担いがちな女性が働き続けることができ、また、再就職する場合も不利にならない労働環境を早急に作ることが求められています。

【参考】
女性の年齢階級別労働力率(M字カ-ブ)の推移(令和4年版男女共同参画白書、126ページ)
女性の就業率と正規雇用率(М字カーブとL字カーブ)(「選択する未来2.0」中間報告、23ページ)

女性は長生きなのに、低賃金・低年金になってしまいがちです。コラム「働く女性と社会保障」は、超長寿時代を生き抜く上で必要な社会保障の知識や仕組みを、読売新聞の猪熊律子編集委員が解説します。非正規雇用という働き方、出産や育児に関する制度、老後の年金保障など、働く女性に知っておいてほしいテーマを順次、取り上げていきます。

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猪熊律子編集委員
猪熊 律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社編集委員

新聞記者になって30年以上。年金、医療、介護、子育て、雇用分野での取材が長く、社会保障部部長を経て、2017年より現職。社会保障に関心を持つ若者が増えてほしいと、社会保障教育にも力を入れている。著書に「#社会保障、はじめました。」(SCICUS、2018年)、「ボクはやっと認知症のことがわかった」(共著、KADOKAWA、2019年)など。

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