映画「東京2020」ママアスリートの涙と河瀬監督が歩んだ茨の道

東京五輪の公式映画「東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B」が公開中です。選手を中心に据えた「SIDE:A」と、開催までを追った「SIDE:B」の2部作で総監督を務めたのは、「萌の朱雀」「朝が来る」などで知られる河瀬直美さん。「SIDE:A」で、乳幼児を連れて出場したママアスリートに向けたまなざしには、子育てをしながら映画界の第一線で活躍する河瀬さんらしさがにじんでいます。河瀬さんに、映画に込めた思いや、仕事と子育てを両立する秘訣ひけつを聞きました。

映画「東京2020オリンピック」の一場面
(c)2022-International Olympic Committee- All Rights Reserved.

コロナ禍に翻弄ほんろうされた選手

――今大会は、参加アスリートの約49%が女性でした。東京2020オリンピック組織委員会は、当初コロナ禍の防疫対策として選手に家族の同伴を禁じていましたが、抗議を受け、乳児などを育てるケースに限り家族の入国を認めました。映画では、授乳しながら出場した選手も取り上げています。

女性ディレクターから、「ママアスリートを取り上げたい」と提案がありました。出場全選手を調べて子育て中の選手をピックアップし、女子マラソンのアメリカ代表、アリフィーン・トゥリアムク選手ら取材対象を決めました。

――一方で、出産後に日本女子バスケットボール代表に復帰した大崎佑圭選手は、大会が延期されたために子育てとの両立が難しくなり、代表を退く決断をしました。大崎選手が、史上初の決勝進出を果たした元チームメイトの雄姿を観客席から見つめながら、涙を流すシーンが印象的でした。

あの場面には、自分自身をすごく投影していましたね。あの涙は、悲しさでも悔しさでもないのでしょう。ただ、無情に過ぎていく時間がある。時は止められない、という感覚です。というのも、私自身もバスケットボールの選手でしたから。国体にも出場したんですよ。でも、引退後のセカンドキャリアを描けず、選手を続けていても将来どうしたらいいか不安だった。20代で、全く畑違いの映画の世界に飛び込みました。それも無謀でしたけどね(笑)。

河瀬直美
「2021年の日本では女性はこうだったという記録です」と河瀨直美さん(読売新聞写真部・米田育広撮影)

「しんどい」って素直に言っていい

――男性が圧倒的に多い映画業界でキャリアを積むのには、相当な困難があったのではないでしょうか。

死ぬ思いでした(笑)。もう、いばらの道ですよ。(男性のプロデューサーや監督からのセクハラ被害を告発する)「Me Too」運動も起きましたが、映画業界は男性優位の傾向がありますから。

――「肩肘張って」という意識もあったのですか。

そうですね、20代の時は「全部一人でやってやる」って思っていました。仕事をしながら子供を産み育て、家庭と仕事を両立する――と。だけどできない。本当にできないです。魔法でも使わない限り、一人で全部なんて無理なんです。子供は突然、熱を出します。体調が悪ければ「そばにいてやりたい」というのが親心ですよね。表では肩肘張っていても、裏ではすごくストレスを抱えていました。その反動で、子供にあたってしまうこともありました。こんなに望んで授かった、かけがえのない存在なのに、ひどいことを言ってしまい、自己嫌悪に陥るんです。「全部はできない」、というのを大前提にしないといけないです。

――映画の撮影は、長時間に及ぶこともありますよね。できなくても「仕方ない」ということですか。

できないです。できないから、みんなに頼るしかありません。強がる必要なんてないんです。私なんかは、スタッフみんなに育ててもらいました。撮影現場に子供を連れて行き、おむつもいろいろな人に替えてもらいました。「現場に赤ちゃんを連れていけるのは河瀬さんだからでしょ」と言われるかもしれません。仕事場に連れていくのが難しければ、地域のサポートとかをどんどん利用すればいい。一人で抱え込んでいるお母さんは、どうか旦那さまと話し合い、一番いい方法を探ってください。決して、一人じゃないから。

――仕事と子育てを頑張っている女性と、将来そうしたいと思っている女性にメッセージを。

映画の中で、トゥリアムク選手は「(子育てと選手生活の)どっちも選びたい」と言いました。彼女はレースを棄権してしまうのですが、沿道で応援していた旦那さんと子供に近づき、「明日があるわ」と話しかけます。そう言ってくれると、旦那さんも安心するのではないでしょうか。「棄権しちゃった、残念」と落ち込まれたら、どう励ましていいか分からなかったかもしれません。彼女が、「明日があるわ」と前向きな言葉を言えたのは、肩肘張っていなくて、素直だからではないでしょうか。素直に自分の気持ちを周囲に伝えられたら、必ず誰かがサポートしてくれると思います。我慢せず、「しんどい」「大変なの」って、素直に言っていいと思うんですよ。

 (聞き手・読売新聞文化部 大木隆士)

映画「東京2020オリンピック SIDE:A/SIDE:B」

総監督:河瀬直美
制作・著作 International Olympic Committee
企画:東京2020組織委員会
配給:東宝
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