「マミートラック」は女性だけの問題!? 初の報告書まとまる

産休や育休から復帰してきた女性社員が陥りがちな「マミートラック」という問題。周囲が仕事の負担を必要以上に軽減した影響で、キャリア形成が遅れてしまう現象で、企業にとっても改善が必要と言われています。「マミートラック」について初の報告書をまとめた21世紀職業財団(東京・文京区)で、対策について聞きました。

同財団が2022年2月にまとめた「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」の報告書。2020年に予備調査として、1980年から1995年生まれのミレニアル世代67人(このうち夫婦は33組)のインタビューを実施。2021年には、同居している子どもがいて、本人・配偶者とも、従業員31人以上の企業に勤めている正社員・正職員で、26歳~40歳の男女4106人を対象にアンケートを実施し、その結果をまとめたものです。

仕事の難易度・責任低く、キャリアの展望もない 46%

現在の仕事や今後のキャリアについて1421人の女性に聞いたところ、「仕事の難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない」と答えた人は46.6%もいて、「難易度や責任の度合いが妊娠・出産前と変わらず、キャリアの展望もある」は40・5%、「難易度や責任の度合いが高すぎて、荷が重い」は12・9%でした。これは、総合職の200人に限ってみても、39.0%が「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない」という選択肢を選んでいました。

現在のマミートラックの状況=グラフ
現在、どのように感じているかを聞いた。赤色部分が「マミートラック」に相当するという(報告書 P.134から)

調査にたずさわった同財団事業推進部の上席主任・主任研究員、山谷真名さんは「私たちはマミートラックを『出産から復帰したものの、難易度や責任の度合いが低い仕事を与えられ、キャリアの展望もない』ことと定義づけたのですが、さまざまな法整備で女性の就業が継続できるようになったミレニアル世代でも、この問題に悩む女性がこれほどいるのかと驚きました」と話します。

しかも、マミートラックは一度はまってしまうと、7割の人がなかなか抜け出せないという実態も浮かび上がってきました。第1子出産後に「展望もない」と感じていた女性の7割が、現在も「展望もない」と答えたためです。その一方で、「展望もある」と答えた女性の8割は、現在もそのキャリア展望を持ち続けているという結果でした。「第1子出産後に復帰する女性を受け入れる側の、職場のあり方、仕事の難易度や責任の度合い、キャリアの展望を低下・縮小させないことが、その後の、女性のキャリア形成には極めて重要なんです」と山谷さんは指摘します。

マミートラック脱出には何が必要か

マミートラックを脱出したと答えた女性103人には、その理由を複数回答で聞きました。「定時退社だけでなく、必要な時は残業するようにした」(30.1%)、「時短をやめて、フルタイムで働くようにした」(25.2%)、「上司から働きかけがあった」(24.3%)、「上司に要望を伝えた」(23.3%)に続いて、「自己啓発した」(13・6%)、「異動、社内公募、転職など、働く場を変えた」(7.8%)がありました。また、「夫に働きかけて、夫の家事・育児分担を増やした」(16.5%)、「親族・知人のサポートを増やすことにより、家事・育児の負担を減らした」(13.6%)など、家庭での変化をあげる声もあったそうです。

「もちろん、この調査は個人の経験について聞いているので、ご自分の中での比較ということになりますが、職場でどうやって責任ある仕事をまかせられるような体制を整えていけるのか。本人の意識と、上司や周囲の働きかけも大きな要素なのだと思います」と山谷さん。

報告書をまとめた和田みゆきさん、山谷真名さん、本道敦子さん
報告書をまとめた21世紀職業財団・事業推進部の和田みゆきさん、山谷真名さん、本道敦子さん(左から、東京・文京区の同財団で)

報告書では、子育てを通して、妻の側に「キャリアロス」(キャリア形成のロス)があるなら、夫の側には「プライベートロス」(家庭から得られる幸福のロス)が生じていると指摘。企業への提言として、マミートラックに入らないための施策について、次の3点をあげています。

<1>仕事免除型から仕事(キャリア)支援型の取り組みへ
・フルタイム勤務でも無理なく仕事と育児の両立を可能とする働き方改革
・在宅勤務など柔軟な働き方を可能とする制度の導入
・復帰後の仕事やキャリアについて上司とのキャリア面談
・将来のキャリアを改めて考える機会の提供
・復帰後の子育ての分担を夫婦で考える機会の提供

<2>第1子出産後復帰時にマミートラックに入らない取り組みの推進
・女性がキャリア展望を持てるよう管理職の適切な対応
(時間制約のある中でも仕事の難易度を下げずに成果を出せるような支援)
・部下の仕事復帰時のマネジメントに苦慮している管理職に、会社から情報を提供するなどの支援

<3>マミートラックから脱出させる取り組みの推進
・キャリアに関する上司の前向きな支援
・柔軟な働き方の実現
・妻の負担が大きくなりがちな家事・育児の分担を夫婦で見直すこと

また、配偶者(夫)が「保育園や幼稚園のお迎え」を週1回以上している場合、まったくしていない場合に比べて女性がキャリアアップできていると考える割合が高いことなどをふまえ、子育てをしながら働く夫婦への提言の一つとして、次のように「夫婦で望ましい制度利用のあり方を選択する」ことをあげています。

・女性だけが育児休業を取ると夫婦の役割分担を強める
女性だけが育児休業を取得したことで夫婦の役割分担が固定化し、育休や短時間勤務制度の長期間の利用などで妻の側のみにキャリアロスが生じ、その結果、夫婦間の昇進・昇格や給与に差をもたらし、夫婦の役割分担を強めてしまうことがある。
・夫婦にとって望ましい制度利用の選択を
女性のみが育児休業や短時間勤務制度を利用するのではなく、夫婦が半年ずつ交互に取得するなどの方法を視野に入れ、中長期的な観点からどのような形が夫婦のウェルビーイングの実現にとって最も望ましいかを考えて選択することが大切。

産後パパ育休制度などを創設した改正育児・介護休業法が2022年4月から順次施行されています。共働きの夫婦が子どもを持って、同時に互いのキャリアも高められるようにするには、社会の変化を待つだけでなく、まずは「マミートラック」という問題があることを知っておくことも大切かもしれませんね。

(読売新聞メディア局 永原香代子)

【参考資料】 21世紀職業財団の報告書「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」

Keywords 関連キーワードから探す