ただいま絶賛映画の撮影中である。髪の色が近年で一番明るい。
小規模な映画だけど、オファーを頂いた時、興味を持った理由は幾つかあって、まず役を監督があてがき(演じる本人を想定して脚本を書くこと)してくださったこと。監督が説明してくれたテーマが「日本におけるアイデンティティーを見つけることの難しさ」、いわゆる「没個性」だったこと。そして、性的なシーンに関する配慮が書面の契約によってきちんと提示された上、インティマシー・コーディネーターが導入されたこと。
インティマシー・コーディネーターについて、皆さんはどれくらいご存知だろうか。
私が毎週ナビゲーターを務めるJ-WAVEのラジオ番組「ACROSS THE SKY」で、西山ももこさんにお話を伺ったことがある。インティマシー・コーディネーターとは、インティマシーシーン(ベッドシーン、ヌードシーンなど俳優同士の性的な接触のあるシーン)に関して、監督/プロデューサーと俳優の間に入り、お互いの意見を十分に聞いた上で意見の調整を行い、俳優を精神的身体的にサポートしてくれる仕事だ。
改めて西山さんの会社のHPを見てみると、「セックスシーン、ヌードシーンだけでなく、洋服の上からの行為、オフスクリーンでのセックスシーン、 LGBTQ+やニューロダイバーシティーの俳優による性的なシーンの撮影現場に立ち会います」とも書いてある。
インティマシー・コーディネーターが話題になりはじめの当時は、「インティマシーなんちゃら? そんなものはいらん! どんなシーンだろうと俳優と監督がガチンコで向き合って撮影は進めていくものだ!」と憤っている監督たちの手記も見かけたが、日本には現在2人しかインティマシー・コーディネーターがいないこともあいまって大忙しであるという。
インティマシーシーンに関する入念な質問を受けて
今回の作品では、西山ももこさんでなく、浅田智穂さんがインティマシー・コーディネーターとして関わってくださった。
最初の対面はリハーサル後にセッテイングされた。マネージャーと浅田さんと3人で、準備稿と完成稿の違い・監督の希望演出をもとに、こちら側の希望も伝える。私はキスシーンが数回あるのみで特に露出があるわけでないのでそんなに話すことはないのかなと思っていたが、そのシーンの衣装、丈の長さ、服の種類や、例えば脚は見えて良いのか、背中は?、気にしている傷は?、そもそもインティマシーシーンへの抵抗はあるか、トラウマ等があるか、という入念で細かい質問をしてくださった。
その後、数回メールでのやりとりをし、監督の意見や現場の進捗状況を伝えていただいた後、いよいよインティマシーシーンの撮影当日。
現場に着くともう浅田さんがいて、すでに監督やプロデューサーと何か話をしていた。結果から言うと、浅田さんがいてくれて本当によかった。事前の約束通り、こちらが嫌がることは何もなかったし、肌が露出する相手役の方には女性スタッフ全員が一丸となって丁寧にケアをしていたと思う。男性スタッフは本番が始まるまで隣の部屋で待機していてくれた。それ以上に私が感動、うん、感動したのは女性だからこそ気づくケアの細やかさだ。人の肌はどんなに奇麗でも、光が少し硬かったりするだけで毛穴の凹凸が影になり目立ってしまう。他人は気にしなくても自分は気になるものだし、その映像は一生残る。浅田さんがいてくれたおかげで、おそらく浅田さんがいなかった時の100倍奇麗な画が撮れたと思う。何があっても、この人は絶対に私たちの味方なんだ、という安心感があった。

丁寧にケアされる相手役の方を見ながら、昔からインティマシー・コーディネーターの方がいてくれたら、あの現場の思い出もこの現場の思い出ももっと楽しいものになっていただろうな、と羨ましく切なく、そして嬉しい気持ちにもなった。
ネガティブなことが何かと話題になる昨今の映画業界だけど、同年代のスタッフさんと作品を作っている今の現場は楽しい。ちなみにこの現場は、22時完撤も公約に掲げている。完撤というのは完全撤収のことで、俳優だけでなくスタッフさんも片付けを終えて文字通り撮影現場から完全に撤収すること。おかげで朝の集合時間が繰り上がって眠いが、それでもまともな時間に寝られることの大切さとありがたみを実感している。
また、この作品が上映される時に、皆さんにお伝えできたらと思う。梅雨の時期、笑顔で過ごせますように。