谷均史医師、発達障がいの子には…叱らず待つ、そしてほめる

ある幼稚園の入園児向けの春の相談会でのことです。すでに発達障がいと診断されているTちゃんのお母さんが個人面談を希望して来園されました。診断されたショックもあったけれど、日常の対応で気がめいっているようで、こう話し始めました。

「自分の思い通りにならないといつまでもごね続けるので毎日毎日困っています。こだわりが強いのでしょうか。幸いここの幼稚園が入園を認めてくれて感謝しています。それだけに皆さんにも迷惑かけないように家でできることがあればと思っています……」

その時、Tちゃんの大きな声が聞こえ、他の子が持つおもちゃを引っ張って取ろうとしていました。「やめなさい! あなたのおもちゃじゃないでしょ!」。お母さんが注意すると、Tちゃんはあちこちをたたきながら「ばかーばかー」と泣き始めました。「先生いつもああなんですよ」。お母さんはあわててTちゃんに近づいて行こうとしましたが、私はこうお願いしました。「待って、お母さん。そのまま見ていて」

大手小町の人気連載「子育て応援団」医師の谷均史さんが子育て親子にエール
(c)いわみせいじ

しばらくあちこちたたき、時に自分の頭をたたきながら泣き叫んでいるTちゃんを2人で見守りました。5分ほどたった頃、Tちゃんは泣き疲れたのか、じっと天井の扇風機を見つめ始めました。「Tちゃんえらいね。お利口だね。たたくのをやめられたね。自分で泣きやめたね。すごいね!」。私はこう言いました。お母さんにも合図して同じようにほめるようにお願いしました。「本当だ。今日はえらいね。お利口さんだ!」。頭をなでながら、お母さんもほめました。Tちゃんは少し照れながら運動場に出て行きました。

行動療法で前向きに改善

お母さんにはこうお声がけしました。「発達障がいは対応の仕方で必ず変わっていきます。大変でしょうが、今みたいにやめるまで見守って、やめたらほめてあげてください。そうすれば、やめることが正しくて、ほめてもらえることが理解できていきますよ。これからスタートしましょう!」。数日たってお母さんから連絡がありました。「怒るのをやめたら私もすっきりして、ほめることでTは色々分かってきたようです。私も頑張ってみます」

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(c)いわみせいじ

Tちゃんへの対応は「行動療法」といい、好ましくない言動を改善する方法です。発達障がいの子どもだけではなく、どんな子どもにも使える前向きな手段です。子どもを叱ることは親もエネルギーを使い、疲れてしまいます。

後日、Tちゃんの幼稚園の担任の先生から「Tちゃん変わってきました。面白いことにクラスの子の頭をなでてお利口だねとほめたり、にこにこしたりしている時間が多くなった気がします」と連絡がありました。それを聞いて、お母さんが家で頑張っている姿が浮かんできました。

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「子育て応援団」のコーナーでは、子育て支援の専門家や医師、タレントらがリレー方式で、働きながら子育てをするママやパパに向け、元気が出るメッセージや日々の暮らしに役立つ知識を盛り込んだコラムを掲載します。

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子育て相談アドバイザーの谷均史・淀川キリスト教病院医師
谷 均史(たに・ひとし)
淀川キリスト教病院医師

1956年、大阪市生まれ。12歳の時、腎炎で入院中に、小児科がない鹿児島県・徳之島から入院していた5歳児と出会い、医師になる決心をした。新潟大医学部卒業後、徳之島徳洲会病院を経て、91年から淀川キリスト教病院に勤務。現在も徳之島と大阪を行き来し、発達障がいの子どもを支援するボランティアや講演活動に励む。朝日放送のバラエティー番組「探偵!ナイトスクープ」の医学顧問を務めるなど、テレビへの出演も多数。

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