30歳になった小原ブラスが「ただの人間なんだな」と安心した日

先月、僕は30歳になった。10代の頃、30歳を「おっさんやん」としか思ってなかったし、30歳になる頃なんて、自分が生きてるかどうかも分からない遠い未来の話だった。精神的にも大人になって、さぞご立派になるのだろうと思っていたけれど、実際に30歳になった僕の中身は子供のままだ。

びっくりするぐらいしょうもないことで怒り、ワガママで傲慢ごうまん、アホなのである。そして、ささいなことで傷つく心も相変わらずだ。大人の男というのは、決して泣かないし、つらいことがあっても乗り越えられる精神力があると勘違いしていた。実際、そうした振る舞いに男女差も年齢差も関係ない。あるとすれば、「立場」だけだ。

以前は、僕も弱い自分をさらけ出すのをいとわなかったが、自分の会社を持って頼られる立場になると、さすがにそうはいかない。弱みを見せることは、周囲を不安にさせることにつながる。表では堂々とした態度をとり、笑顔を見せ、全てが順調で余裕があるように振る舞うことは、ある意味で仕事の一部になりつつある。

あらゆる人に共通する「大人になる」こと

最近はメディアに出ることも増え、自分の意見を発信する機会が多くなった。よく、「ブラスさんのコメントは、いつも芯が通っていてすごいなと思います」なんてメッセージをもらう。メディアを通して見える僕を、堂々としていてブレない意見の持ち主だと思っている人もいるようだ。でも実際は、話している間も「誰かに批判されないかな」「誰かを傷つけてないかな」「間違ってないかな」と不安ばかりが頭をよぎる。コメンテーターとして出演した番組が終わると、いの一番に「なんもやらかしてない? 批判されてない?」とマネジャーに声をかける。SNSをチェックして、厳しい指摘があれば「うわぁ」と落ち込む。

中身の成長が伴っていないので、自信なんてないのに責任ばかりがのしかかるのは、表に立つ仕事をしている人に限った話ではない。僕の場合は自分の言動に対する不安が大きいが、経営者であれば経営の判断が誤っていないか、育児中のママなら子育てを間違っていないか、人それぞれがなんらかの不安と一緒に生きているのだろうと思う。ただ、立場上その不安は表に出さない――というのが、あらゆる人に共通する「大人になる」ということかもしれない。そして、それは想像するよりも苦しいものだった。

そうした不安をうまく隠しているつもりでも、つい態度に表れてしまうことがある。ここ最近忙しくなるにつれて、近しい人の失敗や遅刻に激しくキレてしまったり、一人でいる時間をお酒に頼ったりするようになった。幸いなことに仕事の仲間がいち早く、落ち着かない様子に気づいて指摘してくれた。自分ではうまくやっていると思っていても、心のキャパは知らない間にいっぱいになっていたのだろう。

うさんくさいと思っていたメントレに挑戦

「なんか最近キレやすいんだよね」と相談した知人から、「メンタルトレーニング」をすすめられた。スポーツ選手がトレーニングの一つとして取り入れているのはよく知られている。基本的には、心のバランスをプラスに保って自己実現や目標達成に必要なメンタルを鍛えるというもの。ここ最近、経営者界隈でもはやっているらしい。その手のものは、「どうせ意識高い系のやるきれい事ばかりだろ? うさんくさい」と身構えていたが、ZOOMで1時間トレーナーさんと話すだけという手軽さと、話のネタにしてやろうという好奇心に背中を押され、挑戦することにした。

「私は素晴らしい」と口に出して100回言うとか、心を操ってくるのではないかと心配したが、女性のトレーナーさんはいい意味で普通の人だった。たくさんの質問に答えるわけでもないし、説法のように理論を言い聞かせることもない。驚くほど緩い会話が続く。トレーニング内容は人によって異なるため、どんなトレーニングが必要かを会話を通して見極めるそうだ。

スポーツ選手が最高のパフォーマンスを出すためには何が必要か。心や感情がプラスになっていることは大事だが、戦術や技術がなければ話にならないし、身体の状態も大切だ。自分の感情や心は、メンタル面だけでコントロールできるわけではない。おなかが減ればイライラするし、体調が悪ければマイナスな気持ちになる。親戚のおばあちゃんが「落ち込んだ時はまず飯を食え」と言っていたのを思い出す。あながち間違いではないかもしれない。

さらに、根幹から必要になるのが「大義」と呼ばれるものだ。自分はなんのために今の活動をしているのか、どうなるためにつらい練習をしているのか、そして、それはきれい事ではなく真に自分がなりたい姿なのか――。この点をしっかり認識しておくだけでも、自分の行動に自信が付きやすくなるというのだ。もちろんそれはお金を稼ぐためであってもいい。

人によって「感情」「戦術」「技術」「身体」「大義」のどれを鍛えるかでトレーニングの内容が変わるのだが、これ以上の詳しいことは素人の僕が語れることではない。スポーツ選手ではないので、僕は「最終的にどうなるために今の活動をしているのだろう?」という「大義」について考えるところから始めた。

ロシア出身関西育ちのタレント小原ブラスさん
ロシア出身関西育ちのタレント小原ブラスさん(東京都内で、木田諒一朗撮影)

ダサい本音をぶちまけたら気持ちが楽になった

なりたい自分について、格好つけずに自問自答してみると、それが本当に「自分のなりたい自分」なのだろうかと考えてしまう。何に悩み何に困っているのかもわからなくなってくる。「何が分からないのかも分かりません」と数学の授業で答えたのを思い出す。そこで、まずは頭の中を整理しようということになった。

今、思っていること、腹が立つことなど、矛盾があっても構わずになんでも言葉にしていく。トレーナーさんがホワイトボードに、口にしたキーワードを書き出していく。「◯◯さんはつまんないのに顔がいいから売れててムカつく」「どんなにがんばっても◯◯さんは褒めてくれない」……。普段であれば恥ずかしくて口にできない本音が、次々と文字になっていくのは快感だった。

「テレビではきれい事を並べて賞賛されたけど、本音はそれと真逆のことを思っている」という自分の秘密をさらけだす。書き出された言葉を目の前にして、自分の悩みの根底にあるのが子供っぽいワガママや傲慢さということに気づかされる。ホワイトボードを撮った写真を見返してみると、いい意味でも悪い意味でも、自分ってただの人間なんだな、とちょっと安心した気持ちになった。

最初はあなどっていたメンタルトレーニングに、すっかりハマってしまい、定期的に受けるようになった。そのおかげか、気持ちが荒ぶることが減り、冷静に対処できる場面が増えた気がしている。格好つけずにダサい本音をぶちまけることで、こんなに気持ちが楽になれるとは思わなかった。

大人になると「正しい人間」とされる姿に気づくので、子供っぽい恥ずかしい部分を隠そうと振る舞う。幼稚な自分にあらがい強がっていれば、知らないうちに苦しくなる。海外ではカウンセリングが盛んに行われ、弱い自分をさらけ出す場となっている。精神科やカウンセリングというと、ハードルが高いと感じる人でも、「メンタルトレーニング」なら格好いい習い事感覚でトライできるのでは。一つの選択肢として、ぜひ知ってほしい。

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小原ブラス顔写真
小原 ブラス(こばら・ぶらす)
タレント・コラムニスト

1992年、ロシア・ハバロフスク生まれ。6歳から兵庫県姫路市で育つ。「見た目はロシア人、中身は関西人」として、テレビのバラエティー番組やYouTubeで「ピロシキーズ」として活躍。コテコテの関西弁で政治や社会問題を鋭く斬るコメントで注目を集める。コラムニストとして様々な媒体で執筆、ロシア人の目から見た日本の疑問点や違和感を率直につづる。

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