ラッパーAwich、ヒップホップのクイーンへ「道を切り開く」

思いの丈をはき出すように力強く言葉を刻み、つややかな歌声を響かせるラッパーのAwichさん(35)。2020年に大手レコード会社からデビューし、今春には初となる日本武道館公演を成功させた。「日本ヒップホップ界のクイーンとして道を切り開いていく」と決意を新たにする。

須藤菜々子撮影

自分を俯瞰

30歳を過ぎてから、自分をよく理解できるようになってきました。昔は、感情と自分が同化していたのに、今は、その時の感情を自分で感じられる。「苦しいんだね」「怒ってるな、自分」って、 俯瞰ふかん して自分を見られるようになりましたね。

そこで気付いたのが、相反する思いが私の中にあるということ。夢に向かう時も、ここまで出来ると思ったり、こんなこと出来ないと思ったり。それからは、「本当は、どうしたいの?」と、自分と対話するようになりました。

詞を書き始めたのは9歳の頃。夜が怖くて、眠れなかった時、モヤモヤする思いをつづりました。世の中でラップがはやり始めて、詞を書くスキルは持ってるし、歌うようなしゃべるような形なら、私にも出来るかもって、14歳でラップを始めました。ビジネスを学ぶため20歳くらいで渡米、結婚して娘を産んで。夫と死別後、帰国して音楽活動を本格化させました。

決意表明の責任

ずっと「クイーンになりたい」という思いはあったんです。でも、言えなかった。本当のクイーンって、ラップが上手だから、かわいいからってなれるわけじゃない。ヒップホップ界の将来を考え、日本に必要なものなんだと、しっかり伝えていかなくてはいけない。今思えば、恐怖があったんです。決意を表明する責任は、大人になればなるほど分かります。

3月に「Queendom」というアルバムを出したのですが、その制作中、あるラッパーに言われたんです、「姉さん、ラップやんないすか」って。色々な人が聴きやすいように、アルバムには歌中心の楽曲を盛り込んでいました。でも、その言葉で気付いた。私はラップが好きだし、ラップを日本でもっと親しみある表現にしたいって。そのキープレーヤーとして、ラップを突き詰めるべきだ、と。

そこから、自分としっかり向き合って内容を見直し、ラップがメインの曲を足して、足して。やっと今、「私、クイーンになるよ」って、現実味をもって表明することができます。

まだまだ「あ~、無理」ってなることもあるけど、そんな時は、中学2年の娘・ 鳴響美とよみ を頼ります。彼女は戦友というのかな。もう、鳴響美の方が強いかも。彼女には、自分のペースでやりたいことを見つけてほしいし、私自身も一生何かを学び、得ていきたいです。

◇  ◇  ◇

【取材後記】

先日行われた、Awichさん初の日本武道館ライブに取材で訪れた。おしゃれで色気があって格好いい、エネルギッシュなパフォーマンス。一人、ステージに立ち、力強く言葉を刻む姿は気高く、そして、頼もしい。その姿は、やはり、「クイーン」という言葉がとても似合っていた。

Awichさんは、インタビュー中、「いいシナリオに、悪いシナリオは勝てないでしょ?」と話した。人は、様々な経験を重ね、安定した生活を送っていくうち、何か新たなことに挑むとなると、つい悪いシナリオを思い描く。想定される悪い結果を見越し、チャレンジには及び腰になる。だが、Awichさんは、「死ぬ時のことを考えるんです。色々なことをやり、やらかした方が笑って死ねると思う。やらなかった時の方が微妙な気持ちになるはず」。やった方がいいにこしたことはないと、いいシナリオとなる選択肢、つまり、挑戦の道を選ぶのだ。例えば今後、「クイーンなんかじゃなかった」と世間に言われたとしても、「クイーンだと言ったことで、ファンのみんなに大きい夢見せられたじゃん」と笑う。

どこか、とんちが効いてるよう。挑戦することにひるんでしまう時が来たら、この言葉で自らを奮い立たせたい。(読売新聞文化部 池内亜希)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

あわせて読みたい

Awich(エイウィッチ)

1986年、沖縄県生まれ。2020年にメジャーデビュー。「GILA GILA」、「口に出して」などの楽曲で話題に。新曲「TSUBASA feat.Yomi Jah」を配信でリリース。

Keywords 関連キーワードから探す