テレワーク中に「中抜け」、夜遅くまで仕事したら残業代は出るの?

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、オフィス以外の場所で通信機器を使って働く「テレワーク」が急速に広まりました。時間や場所にとらわれない柔軟な働き方は、仕事と私生活の調和を図りたい働き手にとって、魅力的な選択肢の一つといえるでしょう。ただ、長時間労働になりやすいデメリットも指摘されています。テレワークでも残業代は出るのでしょうか?

残業代を受け取れない人は?

もしあなたが、雇われて働いている労働者なら、労働法の保護を受けるため、要件を満たしていれば残業代は支払われます。

「雇われて働く」とは、使用者の指揮命令下で労務を提供し、それによって賃金を得ている状態を指します。この場合、自宅でも、自宅近くのサテライトオフィスでも、車中でも、働く場所がどこであれ、あらかじめ残業の許可・承認を得ているなど、要件を満たしていれば残業代は受け取れます。

同じようにテレワークをしていても、他人の指揮命令下で働いていないことが明らかな場合は、残業代を受け取れません。労働法の保護の対象になっていないからです。

請負契約や委託契約を結んで、仕事の完成に応じて報酬を受け取って働いている人などがこれにあたります。こうした人たちは「労働者」ではなく「自営業者」と呼ばれます。

残業代を請求するために知っておくポイント

労働者を保護する法律の一つである「労働基準法」は、労働時間を18時間、140時間(従業員10人未満の飲食サービス業などは144時間)と定めています。これを「法定労働時間」といいます。

使用者は原則として、法定労働時間を超えて労働者を働かせてはならず、これを超えて時間外や休日、深夜に労働させる場合は労使協定を結び、割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金は、例えば時間外労働の場合は「1時間あたりの賃金の25%以上」など、労働基準法で定められていますから、それに従って請求すればよいのです。

ただし、特定社会保険労務士の旭邦篤さんは「請求するにあたっては、事前に知っておいた方がよいポイントがあります」と言います。

在宅勤務で深夜遅くに仕事をする女性
写真はイメージです
【1】使用者側に事前に残業の許可を取っておく

仕事が時間内に終わらなかったからといって、勝手に労働時間を延ばし、その分を請求しようとしても、使用者側からすれば本当に必要な残業だったのか判断ができません。

そもそも、労働時間の把握がオフィスで働く時より難しいのがテレワークです。そこで厚生労働省のテレワークに関するガイドライン(指針)では、使用者はパソコンの使用時間の記録などから始業や終業の時刻を確認することや、それが難しい場合は労働者の自己申告により労働時間を把握すること(パソコンの使用状況と著しく違いがある場合は労働時間の見直しが必要)などが挙げられています。

労働者側は仕事の進捗しんちょく状況を上司と共有し、残業の必要性を労使がともに認識しておくことが大切です。始業・終業時刻や時間外労働の許可・承認の仕組みなどが、あらかじめ就業規則などに定められているかについても確認しておきましょう。

旭さんは「最終的には労使の信頼関係がカギを握るので、日頃から円滑なコミュニケーションを心がけておくことが大切です。そうでないと、四六時中オンライン上で監視し、説明を求めるといった『リモハラ(リモート・ハラスメント)』がおきかねません」と警鐘を鳴らします。 

【2】「中抜け時間」の取り扱いを知っておく

在宅勤務の場合、仕事の途中で家事をしたり、保育所へ子供のお迎えに行ったり、老親の世話をしたりと、公私の区別をつけるのが難しくなりがちです。

一定時間、労働者が業務から離れる「中抜け時間」について、厚労省のガイドラインは、使用者が「中抜け時間」を把握する場合は〈1〉休憩時間として扱い、その分、終業時刻を繰り下げる〈2〉時間単位の年次有給休暇として扱う――ことや、使用者が把握しない場合は、始業と終業の間の時間は定められた休憩時間を除き、労働時間として扱う――ことなどを挙げています。就業規則などで、自分の会社の取り扱いを知っておくことが必要です。

【3】「法定労働時間」と「所定労働時間」の違い

労働時間の話をする時に忘れてはならないのは、「法定労働時間」とは別に「所定労働時間」があることです。所定労働時間は会社の就業規則で規定された労働時間で、労働契約もこれにのっとって結ばれます。

午前9時始業、1時間のお昼休みを挟んで午後5時終業の会社の場合、テレワークで1時間残業する必要性が生じ、「今日は午後6時まで働きます」と会社に告げても、「残業は了解しましたが、残業代は出ません」と言われる場合があります。

会社の時間で見れば1時間の「残業」でも、この会社の1日の所定労働時間は7時間で、もともと法定労働時間の8時間より少ないため、会社は1時間分の賃金は支払うものの、残業代(割増賃金)を支払う義務はないのです。

もっとも、就業規則で法定内の残業であっても、残業代を支払うとしている場合は別です。自分の会社の所定労働時間や、就業規則での扱いがどうなっているかを確認しておきましょう。

これまで説明してきたように、テレワークの残業代は「労働者」に適用されます。近年、「午前9時から午後5時まで」といった定型的な働き方ではなく、「変形労働時間制」や「裁量労働制」など、多様な働き方が広がっています。こうした働き方についても残業代は支払われるのでしょうか。この点については、次回、ご説明したいと思います。

なお、テレワークに関して、人事評価で不利にならないか、孤独を感じてメンタル不調になりそうな時はどうしたらいいのか、テレワーク中にけがをした時には労災が適用されるのかなど、いろいろな疑問や不安があると思います。それらの相談先も含めて役に立ちそうなサイトを下記に掲げましたので、参考にして下さい。

【参考】
◇厚生労働省・テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
◇厚生労働省・テレワーク総合ポータルサイト

女性は長生きなのに、低賃金・低年金になってしまいがちです。コラム「働く女性と社会保障」は、超長寿時代を生き抜く上で必要な社会保障の知識や仕組みを、読売新聞の猪熊律子編集委員が解説します。非正規雇用という働き方、出産や育児に関する制度、老後の年金保障など、働く女性に知っておいてほしいテーマを順次、取り上げていきます。

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猪熊律子編集委員
猪熊 律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社編集委員

1985年、読売新聞社入社。年金、医療、介護、子育て、雇用分野での取材が長く、社会保障部部長を経て、2017年より現職。社会保障に関心を持つ若者が増えてほしいと、社会保障教育にも力を入れている。著書に「#社会保障、はじめました。」(SCICUS、2018年)、「ボクはやっと認知症のことがわかった」(共著、KADOKAWA、2019年)など。

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