入社後すぐに妊娠した社員は周囲の迷惑か、どう考えたらいい?

企業は有能な人材を採用しようと懸命ですが、採用した女性がキャリアを積まないうちに出産や育児で仕事を休むケースもあります。読売新聞の運営する掲示板サイト「発言小町」には、「入社後2か月で妊娠、産休だけでなく育休まで取りたいと…」と題する投稿が寄せられ、人事担当者の苦しい胸の内がつづられています。この問題、どう考えたらよいのでしょうか。

トピ主「悩めるS」さんは、中小企業の人事担当者。昨年採用した後輩の20代女性社員のことで頭を痛めています。彼女は、入社2か月で妊娠を報告。その時点では「産前産後休暇だけ取って、すぐ仕事に復帰する」と言っていたのに、あと1か月で産前休暇に入るというタイミングになって、育児休業を1年取りたいと申し出てきました。

4月の法改正で「1年以上雇用」の条件撤廃

「1年以上雇用されていないと育休は取れないのでは」と疑問を伝えると、本人から「今年4月から法律が改正されて、取れるようになったので、取らせてほしい」と返事がありました。調べてみると、育児・介護休業法の改正で、4月1日から有期雇用者で「1年以上雇用されている」としていた育児休業の取得条件は撤廃されていました。彼女はすでに試用期間を終えて、正社員に登用されたばかり。労使協定でとくに定めていないため、彼女の育児休業の申請を拒むことはできないことがわかってきました。

「うちの会社では、今まで産休をとった社員がいなかったので育休に関する規定はありません。でも、(妊娠報告の時点で)試用期間で解雇を検討していた上層部に、彼女は『復帰後、頑張る』と言っているからと雇用継続を進言した私の面目もつぶれました」「産休直前になって、育休を言い出すなんて、新しい人に引き継ぎもしないで去るつもり? と思ってしまいます」「産休期間14週間だけならなんとか既存社員で仕事を回せると考えていたのですが、1年も抜けるとなると正社員を採用しなければなりません」と、トピ主さんはモヤモヤした気持ちを打ち明けます。

この投稿に、60件近くの反響(レス)がありました。

同じような体験を持つ人の書き込みが目立ちます。

「不誠実・迷惑・非常識」と見るか、冷静に見るか

「私の職場でも、以前、同じような方がいました。中途で採用した20代女性。入社して3か月かけて入社研修と前任者からの引き継ぎを済ませたタイミングで『妊娠しました。体調が悪いので休ませてほしい』といって、欠勤続き。安定期に入ってようやく毎日出勤できるようになるも、どうせ数か月で休暇に入る人にお願いできる仕事もなく……」(「ともじ」さん)

「私の会社にもいます。入社2年目で“出来ちゃった結婚”した女性が。まだまだ半人前の状態で、育休から帰ってきても時短勤務。指導した2年を返してほしいと思ってます。でも、どうにもならないのです」(「ここあ」さん)。

新入社員を指導・育成する立場だと、予想外に早い現場からの離脱につい愚痴を言いたくなってしまうのかもしれません。それに期待していた働き方をしてくれないと、同僚などもしわ寄せを受けがち。「不誠実」「迷惑」「非常識」などの言葉で、後輩の女性を非難する声も多くありました。

一方で、冷静な視点での意見も寄せられています。

妊娠した女性社員
写真はイメージです

「長い目で見れば、仕事ぶりが優秀な社員が辞めていくデメリットよりは、育児しながらでも優秀な社員がとどまる方がメリットも大きいかと思います。その間の代替要員を募集するなり、今のうちにできることをするしかないでしょうね」(「生春巻」さん)。

「私は小さい会社で人事を担当していますが、やはり社員の妊娠出産は大変なんですよね。でも、きちんと仕事してくれる社員なら、復帰後も、長く働いて会社に貢献してくれるはずですよ」(「総務担当」さん)。

「その後輩は仕事への意欲があるから、退職ではなく育休取得を望んでいるのではないですか? 妊娠すると仕事へのやる気がないかのような表現をされると、私は同じ女性としてトピ主の後輩に同情しますし、とても不快に感じました」(「ねこまんま」さん)。

「うれしいのに絶望…」の体験談

「私は後輩の立場です」と書いてきたのは、「652」さん。妊娠しづらい体で婦人科通いを続けていたそうで、心機一転、仕事を頑張ろうと思い転職。ところが、転職先での勤務が始まる1週間前に妊娠していることがわかったそうです。

「うれしいのに絶望でした。中絶しようと病院へ行くと先生もビックリ。『(赤ちゃんを)欲しがっていたのになんで!?』と産むよう説得されて、やっと夫にも打ち明けることができて、転職初日には管理職に泣きながら謝罪……。産休のみで復帰すると宣言したものの、1年間の育休を強く勧めていただき図々しくお休みしました。現在復帰目前です。皆さんの2倍働く気でいるので許してください」と書き込みました。

こうした体験談が寄せられること自体、仕事の継続と妊娠・出産、育児の間で揺れ動く女性が多いということなのかもしれません。

「マタハラ問題」の著者で、企業向けにマタハラ・パタハラ防止などの研修を実施している株式会社 natural rights 代表取締役の小酒部おさかべさやかさんに聞きました。小酒部さんは、自身の経験からマタニティーハラスメントの問題に取り組み、2014年に被害者支援団体であるNPO法人「マタハラNet」を設立しました。

「妊娠のタイミングは、人それぞれです。入社してすぐは非常識だという考え方は、女性から妊娠の機会を奪う人権侵害になりかねません。ただ、妊娠した女性社員の周囲の人々が、その人をフォローするために残業や勤務交代をせざるを得なくなって疲弊してしまう“逆マタハラ”問題も起きているので、こうした投稿につながるのかもしれません」と小酒部さんは話します。

小酒部さんは、最初に産前産後休暇だけで復帰すると言っていた後輩女性が「1年間の育児休業」を申し出てきたのは、事情があるかもしれないと考えています。「地域によっても異なりますが、まだまだ保育園の待機児童問題は深刻です。年度途中での新規入園の枠が絶望的な地域もあり、ゼロ歳児といっても、生後5か月以上でないと預かってもらえないケースも多いです」と話します。

預け先がなければ長期の育児休業を取らざるを得ません。「なぜ1年間の育休が必要なのか、取得する女性は丁寧な説明をする必要がありますし、投稿した方も女性の育児環境を把握する必要があるように思います。その上で、どんな施策をすれば、早期復帰ができるのか、互いに解決策を話し合うことのほうが大事だと思います」と小酒部さん。例えば週に数日だけ在宅ワークができないかなど可能性を探ったほうがいいとアドバイスします。

また、国に対して、育児や介護で休業する人を支える企業への助成金を充実させることを求めることのほか、企業単独でも、福利厚生制度を充実し、早期復帰を促すようにベビーシッター代を補助するようにしたり、一つの職場での専門職の欠員をカバーするために同業同士での社員トレード制を導入したり、工夫できることはあると小酒部さんは考えています。

「法改正で、女性も男性も育休を取りやすくなったのは大きな前進ですが、育休中の人の仕事をカバーできる体制に転換していかないと、問題は解決しません。個人の問題、企業の問題ではなく、みんなで考えるべき問題だと思います」と小酒部さんは話します。

解決の糸口を見つけるのはなかなか難しいですが、何に困っているのか、休む人も、休まれる人も、本音を出し合うことから始めてみる必要はありそうです。

(読売新聞メディア局 永原香代子)

【紹介したトピ】
入社後2か月で妊娠、産休だけでなく育休まで取りたいと…

小酒部さやか
小酒部 さやか(おさかべ・さやか)
株式会社natural rights代表取締役

1977年生まれ。自らマタニティーハラスメントを受けた経験から、2014年に被害者支援団体であるNPO法人「マタハラNet」を創設。マタハラ防止の義務化を牽引してきた。2015年に 米国務省の「国際勇気ある女性賞」を受賞。著書に、「マタハラ問題」 (ちくま新書)、「ずっと働ける会社 マタハラなんて起きない先進企業はここがちがう!」(花伝社)がある。株式会社natural rightsのHPはこちら

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