宇井吉美さん「においセンサーで排せつを感知」テクノロジーで介護支える

介護テック企業「 abaアバ 」代表の宇井吉美さん(33)は、今注目される起業家の一人。においセンサーで排せつを感知する「ヘルプパッド」で、多忙な介護現場を支える。自分の人生を諦めなくてもいい――。目指す介護に自身の生き方を重ねる。

宇井吉美さん
ベッドに敷かれた『ヘルプパッド』の傍らで笑顔を見せる宇井さん(須藤菜々子撮影)

ロボット工学

高校2年の時、大学のオープンキャンパスで介護ロボットを知りました。高齢者の遠隔見守りロボやアザラシ型の癒やしロボなど、人を助けるため、こんなに真正面から取り組む技術があるのかと興味を持ちました。

介護は人の手だけでするのは大変だと、実感していました。中学生の頃、祖母がうつ病になり、家族がまいってしまった経験があったからです。テクノロジーで人を助けたいと思い、ロボット工学を専攻しました。

大学の実習先で、介護施設職員の方に「おむつを開けずに中が見たい」と言われたことが、ヘルプパッド開発の契機です。入居者のおむつ替えは、空振りも多く、負担が大きい作業ですが、放置すると肌かぶれや漏れの原因になってしまう。在学中からにおいセンサーの開発を始め、機能を確認するため、自分でおむつもはきました。起業したのは卒業の少し前です。

諦めなくていい

宇井吉美さん
宇井吉美さん

独身の時は、会社に寝泊まりして働きましたが、結婚、出産後はそうもいきません。2人目を妊娠した30歳の頃は、まさに製品化目前で出資契約を結ぶ時期。アクセルを踏まなきゃいけないのに、会社の代表なのに、全力で事業に関われない。みんなに迷惑がかかると、罪の意識を感じました。

怒られる覚悟で投資家の皆さんに伝えると、体を気遣ってくれる人もいて驚きました。目先の利益ではなく、長期的な視点で事業を評価してくれているのだと、感激しました。妊娠や出産によるスローダウンを「誤差」と思える社会になればいいと感じます。

介護も子育ても、自分の人生を犠牲にする感覚がありますが、それは楽しむ余裕がないから。介護者、ママになっても、自分の人生を諦めなくてもいいと思う。

私は家事や子どもへの目配りといった「ママスキル」が高くありません。その分、子どもを近所の人や土曜保育に預けたり、職場に連れてきて見てもらったりと、周りに協力を仰ぎ、働く時間を捻出しています。限られた時間を仕事や育児、自分のためなど、どう配分するか、日々調整しています。

ベッドメーカーと開発したヘルプパッドは全国約100か所の介護施設で導入され、喜ばれています。

理想は、戦場で看護にあたったナイチンゲール。裕福な身分でしたが働き続け、女性も挑戦していいことを体現しました。私も起業家として挑戦し続けたいと思います。

◇  ◇  ◇

【取材後記】

出産、子育てをしながらばりばり働く女性起業家。強固な意志を持つ超人のイメージを抱いて取材に臨んだが、宇井さんは会社のユニホームのポロシャツ姿で、両立の苦労について気さくに語ってくれた。

「出産はいつかは…と考えてもタイミングが難しい。経営が安定しない女性起業家ならばなおさらだった」。世のキャリア志向女性と重なる悩みも漏れた。「子育てが苦手」と語り、万事に完璧を求めるわけではない姿にも親近感がわいた。

投資家からの温かい反応、子連れ出勤など、必ずしも万人がとれる策ではないだろう。ただ宇井さんは、介護者、ママも挑戦できるという前例になろうとしている。女性の進学、勤労は既に珍しいものではなくなっている。日々の小さな挑戦こそ「当たり前」を変えていく一步なのだと、改めて気付かされた。(読売新聞科学部 山波愛)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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宇井吉美(うい・よしみ)

1988年、千葉県生まれ。千葉工業大在学中の2011年に創業。働きながら博士号を取得。19年に科学技術・学術政策研究所「ナイスステップな研究者」に選定された。

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