「母健連絡カード」とは? 妊娠中の女性社員にとっての意味

働く女性が妊娠したとき、つわりや立ちくらみなどで体がつらい場合は、母性保護の観点から、通勤時間をずらしたり、在宅勤務に切り替えたりするなど、さまざまな配慮を職場に求めることができます。そのときに役立つと言われているのが、厚生労働省が推進している「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」。いったいどんなものなのでしょうか。

読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、「母健連絡カード」についての投稿が寄せられています。今年2月、投稿してきたのは「平和が1番」さん。妊娠8週の女性で、事務職員として働いていますが、つわりが始まり、早退しなければならない日が出てきたため、婦人科で「母健連絡カード」に「自宅安静指示」と書いてもらって、会社に提出したそうです。

ところが、会社側では「しばらく様子を見たい」とカードを受け取ろうとせず、次のような条件を提示されてしまいました。

・毎日半休を使うなど、まずは有給休暇で対応してほしい
・10時~16時など、決まった時間に出社してほしい(勤務時間の短縮)
・勤務時間を短縮した場合は、つわりが治まっても、産前休暇に入るまで、その分の給与は減額する

「私は産休育休をもらって復職を希望しているので、今いつまで続くか分からない、つわりに有給休暇を使うのではなく、しばらくお休みしたいです。そのために母健連絡カードを書いてもらったのに……」とトピ主さん。「そもそも母健連絡カードを拒否するのは法律的に大丈夫なのでしょうか?」と発言小町で問いかけました。

「母健連絡カード」は診断書と同じ扱い

産業医として、数多くの女性たちの相談に乗っているフェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所代表の石井りなさんに聞きました。石井さんの事務所では、精神科医、内科医などの女性産業医が所属し、企業が労働衛生体制を構築する際の支援など、健康管理サービスを提供しています。働く女性の増加とともに、母性保護の労働法制も変わってきており、産業医が労働者と企業との間に入って様々な調整をすることがあります。

石井さんは、「事実を確認しなくてはなりませんが、この投稿にあるように母健連絡カードに『自宅安静指示』と書かれたのに、それを会社が取り合わずに出社させるというのは、問題があると思います」と話します。

胎児の様子の説明を受ける女性
写真はイメージです

男女雇用機会均等法で、事業主には、医師や助産師から指導を受けた女性労働者による申し出があった場合、業務上の措置を講じる「母性健康管理」が義務づけられているためです。「妊産婦の方が医師から自宅安静などの指導を受けた場合、その指導内容を事業主に的確に伝えるためのツールが『母性健康管理指導事項連絡カード』です。女性労働者からこのカードが提出された場合は、事業主の方はカードの記載内容に応じた適切な措置を講じる必要があります。母健連絡カードは、一般の傷病での診断書と同等に取り扱っていただく公的な証明書類なのです」と話します。

では、どうすればいいのでしょうか。石井さんは、上司に相談するだけでなく、人事担当者や衛生管理者、産業医に相談することを考えてほしいと言います。「産業医は、労働者が傷病によって業務に困難を感じている場合、必要な配慮や措置を評価し、その意見を会社へ提供する立場にあります。妊娠に伴う体調不良も配慮の対象になりますので、産業医が本人と職場との調整役になります。また、人事担当者へ相談することで、会社の制度や姿勢など、過去のエピソードを含めて、母性健康管理の対応がどのようになっているのか確認することもできるでしょう。まずは自分が困っていることを率直に話してみましょう」と石井さんは強調します。「それでも解決しない場合は、社外の公的機関に相談して助言してもらいましょう」と言います。

「発言小町」の中には、「母健連絡カード」について、こんな投稿もありました。

「母健カードでのつわりによる休業指示はできないもの?」(「双子ママ候補」さん)。双子を妊娠中の女性。つわりがひどく、休職したいと考えていますが、主治医に「母健連絡カード」を依頼したところ、「勤務時間短縮の指示」しか書いてくれなかったと嘆く投稿です。

ときにセカンドオピニオンも必要

石井さんによると、「つわり」は、妊娠したことに伴う生理的変化。これに対し、つわりのなかでも症状が重く、重症化したつわりのことを「妊娠悪阻おそ」と呼びます。「妊娠悪阻」は、食事や水分がほとんど摂取できないほど重症化し、入院加療などが必要となる状態を指しています。「つわり」と診断した主治医にとっては、休業指示まではということだったのかもしれませんが、石井さんは「カードに書かれた内容に納得いかない場合には、まずは記載した主治医に、休みたいほど自分の症状がひどいことなどをしっかり伝えましょう。それでも主治医と意見が折り合わない際は、セカンドオピニオンを求めて、他の医師に意見を求めることも選択肢です」と話します。

母性健康管理指導事項連絡カード
「母性健康管理指導事項連絡カード」の一部

さらに、「カードや診断書の提出がない場合でも、妊娠に伴う不調を本人が申し出て、医師の診断を伝えた場合、事業主は必要な措置を講ずる必要があります。だから、上司や人事担当者、産業医などに状況を相談してみてはいかがでしょうか」と石井さんは提案します。

会社側では、本人の言っている内容を確認するために、本人を介して主治医と連絡をとって判断を求めることもありますが、「たとえ具体的な指導内容が確認できない場合であっても、会社としては、通勤事情や作業状況を勘案するなどして適切な対応を図ることが望ましいので、自分の状態を伝えておくのが大切です」と石井さん。

「母健連絡カード」は、厚生労働省の委託する母性健康管理サイト「妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ」からダウンロードできます。

石井さんは「コロナ禍になってから、働く妊婦さんを社会全体で守っていこうという機運が高まっています。妊娠はプライベートなことですし、職場にいつ報告したらいいのかと迷っているうちに、つわりが始まり、つらい思いをしている女性も少なくありません。妊娠中の女性が働きやすい職場は他の社員にとっても快適な環境となります。働きやすい職場環境を整え、人材を確保するという点でも、母健連絡カードの活用は、会社にとっても意味のあることです。時差通勤や在宅勤務、短時間勤務など、いろいろと選択肢はあるかと思いますが、どんな選択をするのが適切か話し合うきっかけにできるといいですね」とアドバイスします。

(読売新聞メディア局 永原香代子)

【紹介したトピ】
会社に母子連絡カードを拒否されました。
母健カードでのつわりによる休業指示はできないもの?

【紹介したHP】
妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ

石井りなさん
石井りな(いしい・りな)
フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所代表

 千葉大学医学部卒。順天堂大学大学院医学研究科 博士課程(衛生学)修了。精神科医・産業医・労働衛生コンサルタントとして活動し、2011年にフェミナス産業医事務所を設立。企業から頼りにされるプロフェッショナル産業医の育成、産業医間の互助連携、働く女性の健康サポート、大人の発達障害の就労継続支援などに取り組んでいる。HPは、https://feminus-sangyoi.com/

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