アキュラホーム 世界を広げた「木のストロー」の芽と華

ポジティブな気持ちになれたり、仕事の役に立ったり。自分らしく、生き生きと働く女性たちの「ハッピーアイテム」を紹介します。

西口彩乃(32)
広報課・SDGs推進室長 

それは、2018年8月のお盆休みのときでした。一本の電話がありました。

「木のストローを作れないかな?」

木造住宅メーカーに就職し、大阪支店の営業から東京本社に異動。都内の路線図も広報の仕事も分からなかったころから、親切に接してくれた環境ジャーナリストの女性からでした。

広報課に配属されて間もないころは、国土交通省の記者クラブで新商品や会社の取り組みをPRしても、だれも相手にしてくれませんでした。各メディアがどんなネタを求めているか、リリース資料の書き方など、広報のいろはを教えてくれたのが、その女性でした。

唯一の理解者が異動

木のストローの提案があっても、その時は、できるかどうかは分かりませんでした。「お世話になった恩返しをしたい。彼女の相談にできる限り応えたい」という思いだけで、すぐに上司に電話をしました。当時の課長は、止めてもムダだろうと思ったのでしょう。あっさりと認めてくれました。

ところが、いざ役員に説明すると、これまでに聞いたこともないような罵声が飛んでいました。その1週間後、唯一の理解者だった課長が異動となり、四面楚歌そかの状態に。

大阪の営業時代に知り合った大工さんに、木のストローの試作品をお願いしたり、取引のある建築業者に相談したりしました。会社に認められた企画ではないので、プライベートの時間を使って。当然、予算なんてないので、「これが実現すれば、すごいことになる」と熱意を伝えるだけ。鼻であしらわれることもありましたが、協力してくれた人もいました。

試作品の「木のストロー」を手にする西口さん(東京・新宿のアキュラホーム本社で)
試作品の「木のストロー」を手にする西口さん(東京・新宿のアキュラホーム本社で)

動きはじめてから約3週間後、試作品が手元に届きました。それは、真ん中に穴を空けただけの直方体の木。その“ストロー”を口に含み、飲み物を思い切り吸い込んでみると、むせって顔がビシャビシャに。このほかにも、溝を掘った二つの角材を組み合わせたもの、木のスライス材を巻いて筒状にしたもの。これら3種類は、いずれも製品としては課題がありましたが、ストローらしい形をしたサンプルでした。

作るのは「木のストロー」じゃなかった

木のストローを提案した女性ジャーナリストにサンプルを見せると、「これじゃダメだね。木のストローを作って、それで終わりになってしまう」と言われました。廃プラスチックによる海洋汚染、間伐材の有効活用による森林保全、持続可能な社会・・・・・・。だれもが、なにげなく手にとるストローだからこそ、さまざまな環境問題の気づきとなり得る存在です。

「ストローっぽく、何か吸えればいいのかなって思っていました。でも、私が作らなきゃいけないのは木のストローではなくて、木のストローのビジネスモデルだったんです」

カンナで削った後に残る薄いスライス材は「削りばな」と呼ばれています。木材の表面を滑らかに仕上げる職人業です。建築現場で削り華は通常廃棄されますが、社内では社長の名刺や入社式の辞令にも使用されています。

「キリンさんと暮らせる家」と広々した居住空間をアピール
アキュラホームは「キリンさんと暮らせる家」と広々した居住空間をアピール(東京・新宿で)

この削り華を活用して、木のストローを作ろうと仕切り直しました。そして、ストロー開発について役員へ直談判することも決意。「住宅メーカーが木のストローを作ったと、ちょっとした話題にとりあげてもらえる」「海洋プラスチックごみが問題になっている今、環境に配慮した取り組みとしてニュースになる」と広報の視点から訴えました。

すべての始まりは「やってみよう」

電話を受けてから4か月後、木のストローが完成しました。反響は大きく、20191月、ザ・キャピトルホテル東急(東京都千代田区)で導入。6月に大阪市で開催されたG20 のすべての会合で使用され、ドバイ国際博覧会(万博2021101日~2022331日開催)の日本館VIP向け記念品にも採用されました。

開発の経緯は書籍化され、堀田真由さんや鈴木保奈美さんが出演するドラマ「木のストロー」(フジテレビ系)にもなりました。高校や大学に招かれ、キャリアデザインやSDGsについて講演する機会も増えました。学生たちに必ず伝えるようにしていることがあります。

「チャンスやラッキーは、みんなに平等にあると思う。3年前に、木のストローをつくれないかと電話があり、『やってみよう』と思ったことですべてが始まりました。失敗は全然OKなんで、チャレンジすればきっと世界が広がります」

(読売新聞メディア局 鈴木幸大)

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