【国際女性デー】「あなたのいばしょ」大空幸星が思うチャット相談で大切なこと

死にたい、苦しい、つらい……どんな悩みも24時間365日受け付けるチャット相談窓口「あなたのいばしょ」。開設から2年で、年23万件もの相談が寄せられています。運営するNPO法人の理事長、大空幸星さんが目指すのは、どんな世の中なのでしょうか。

10歳に満たない子どもから90代の高齢者まで、1日1200人、1か月2万件以上の相談が寄せられます。DVや虐待、自殺の危険のある相談など、緊急性の高いものも少なくありません。

大空さんは、小5で母親が家を出るなど、複雑な家庭環境で育ってきました。高校時代は昼夜アルバイトに明け暮れ、生活は困窮し、心身共に限界でした。ある日の真夜中、高校の先生に「しんどい。もう学校をやめたい」とメールを送ると、翌朝、先生が大空さんの住むアパートの下に立っていました。「過去を悲観するな。今何ができるかを考えなさい」と諭され、その言葉は大空さんの人生を大きく変えました。

「自分のような問題を抱えている人が、確実に誰か頼れる存在にアクセスできる環境を作りたい」と、大学進学を決意。大学に入ると高校時代からの友人に声をかけ、2020年3月、無料・匿名のチャット相談窓口「あなたのいばしょ」をたった2人で立ち上げました。

SNSは54分、電話は0.6分

「子どもを虐待しそうなほど、命を絶ちたいほど、追い詰められているんです」

2年前、設立当初に対応したシングルマザーからの相談が、大空さんの心にはずっと引っかかっています。「そのとき僕は相談者としてお母さんと話さなければならないのに、どうしても子どものことが気になった。お母さんは相談窓口につながることができたけれど、その子どもは、頼れる人にちゃんとアクセスできるのだろうか、と」

モニターに向かう「あなたのいばしょ」代表の大空幸星さん
モニターに向かう大空さん(東京都中央区のオフィスで)

「あなたのいばしょ」が電話ではなくチャットなのは、子どもや若者のためです。総務省の調査によると、10代の平日の平均的なSNS利用時間が54分であるのに対し、携帯電話の利用時間は0.6分。日常生活で電話を使わない子どもが、相談のために電話をかけるとは思えません。相談員の採用・研修、相談を全てオンラインにし、海外在住のボランティアが日本時間の夜間に対応することで、24時間365日の相談窓口を実現しました。

LGBTQは統計に上がらない

厚生労働省の自殺対策白書によると、日本での若い世代の自殺は深刻な状況にあります。15~39歳の死因では、自殺が1位。男性では15~44歳において第1位が自殺、女性でも10~29歳で1位となっています。

ただ、国の自殺統計にはLGBTQの欄がありません。「そもそも男性でも女性でもない人間は想定されてないから」と大空さんは肩を落とします。「でもね」と大空さんは続けます。「僕たちの相談窓口で消えたい、死にたいという気持ちが強いのは、性別欄でその他と答える人たちなんです」

「あなたのいばしょ」によると、2021年3月1日~2022年2月28日の1年間で寄せられた相談件数は23万7402件。そのうち、性別で「その他」を選択しているのは2万8240件で、全体の約12%を占めます。そこで、国の自殺防止対策補助事業として相談内容を報告する際には、独自に「性別:その他」の欄を設けて提出しているそうです。

苦しいときには、この言葉を胸に

午後10時頃から増え始めるチャット相談は、午前2時頃にピークを迎え、明け方まで続きます。人が孤独になりやすい時間帯といえるでしょう。

大空さんは、今も寝るときにラジオが欠かせません。「無音だと余計な事を考えたり、苦しくなったりする。人と人との会話が必要なんです。だから、つけっぱなしです」

「なるようになる」。大空さんが自分で見つけた、人生を生きていく上で必要な言葉です。
苦しいときにこの言葉を心の中でつぶやくと、「今起きている苦しみからちょっと目を背けられる」と気が楽になり、前を向ける。「自分の生きる意味ってなんだろうって昔は考えていたけれど、過去を見ていたら、一生、その苦しみから抜け出せないって気づいたんです」

「本気の他人事」

活動について、大空さんはいいことをしているつもりもなく、「人を助けたい」なんておこがましすぎると言います。「苦しみを抱えている人は、今この瞬間もいる。何もしないことに僕自身が耐えらなくて、自分のためにやっています。そうじゃないと続かない」と、語気を強めます。

現在、相談員の数は世界中に500人。過去に誰かから手を差し伸べられた人や、自死遺族、医師や主婦など様々です。真剣に傾聴するあまり、共感したり、自分の過去を思い出したりして相談員自身がつらくなってしまうこともあります。

だから相談に対しては、「本気の他人事」という方針を掲げています。「冷たいように聞こえるかもしれませんが、相談って他人事です。万一、相談者を助けられなくても、それは相談員の責任ではない」と言い切ります。

インタビューに答える「あなたのいばしょ」代表の大空幸星さん
信頼できる人に確実にアクセスできる社会を目指す大空さん

活動の継続には課題が山積みだと感じています。相談員が高齢化し、新たな担い手になる若者がいません。「もうからないのに他人のために活動する高尚な人の集まり」「当事者でないと参加してはいけないもの」といったNPO法人に対する世間のイメージが、大空さんたちのような活動への参加の敷居を高くしているように思うといいます。「30年後には、セーフティーネットなき社会になるのでは――」。大空さんは強い危機感を抱いています。

(読売新聞メディア局 渡辺友理)

3月8日の国際女性デーに合わせ、女性の活躍やダイバーシティー&インクルージョンの推進に大切なことは何か、Z世代と呼ばれる若い起業家やリーダーたちに聞きました。次世代を担う彼らが、人生をデザインする上で大切にしていることとは――。

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大空 幸星 (おおぞら・こうき)
特定非営利活動法人あなたのいばしょ理事長

1998年生まれ。愛媛県松山市出身。慶應義塾大学総合政策学部在学中。「信頼できる人に確実にアクセスできる社会の実現」と「望まない孤独の根絶」を目的に、2020年、NPOあなたのいばしょを設立。孤独対策、自殺対策をテーマに活動している。

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