3月8日の国際女性デーに合わせ、女性の活躍やダイバーシティー&インクルージョンの推進に大切なことは何か、Z世代と呼ばれる若い起業家やリーダーたちに聞きました。次世代を担う彼らが、人生をデザインする上で大切にしていることとは――。
東京・天王洲アイルのカフェのデッキに腰かけると、ひんやりした海風を感じながら「考えごとをするときに、よくここに来るんです」という榊原華帆さん(25)。2021年2月、「宇宙を全人類の遊び場にする」との壮大な夢を実現するため、Space Entertainment(スペース エンターテイメント)株式会社を設立しました。
小学1年のころから、父が好きで録画していたSFドラマ「スタートレック」を見て、「自分が宇宙に行ったら何しようかな」「宇宙に暮らす人たちに会ったらどうしよう」と考えていました。小学高学年になると、下校中にふと空を見上げて月を見つけてはその場で立ち止まり、そのまま30分ほど、ぼおっと眺めていたそうです。

「あそこに何があるんだろう・・・・・・」。妄想の世界に入り込むのにためらいはありません。「どんどん好きになって、宇宙が、というより、答えのない神秘的で自由な空間にワクワクしていました」。家路を急ぐ人たちは、そんな榊原さんに一瞬目をやり、不思議そうに行き過ぎていきます。
会社で何をするか決めるのはいつも上司
女性アイドルグループやディズニーリゾートも大好きといい、中学・高校時代はアーティストを目指して芸能事務所の養成所でダンスレッスンも。中川翔子さんのステージでバックダンサーとして立ったこともあります。
大学への進学を考えたとき、アーティストではなく宇宙飛行士になりたいと思った榊原さんは、「宇宙飛行士の山崎直子さんをリスペクトしていたんで、山崎さんと同じ東大工学部に入って、航空宇宙工学科を目指したんです。結局、宇宙工学は難しくてダメでした」と振り返ります。
アーティストの道も宇宙飛行士の夢もあきらめ、大学3年で就職活動を始めました。金融、商社、コンサルタント、ベンチャーなどさまざまな企業でインターンを経験。ビジネスの経験や社会勉強が必要と考えて三菱商事へ入社。海外で活躍する姿にカッコイイとも思いました。
ただ、実際に働き始めると現実に直面します。「何をやるかを決めるのは、いつも上の人なんです。会社の方針やビジョンも全部決められています。自分では決められないんです。分かってはいても、それが、どうしても合わないと明確に気づきました」と榊原さん。2020年末に退社を決断しました。

エンタメの力でハッピーな「明日」を
「いままで25メートル泳げなかったけれど、明日はきっと泳げる」。小学生の頃、榊原さんは、ディズニーランドへ行くと楽しくて笑顔になり、前向きな「明日」を考えている自分を思い出しました。子ども時代の「これが好き」「あれやりたい」「これ嫌い」はなんの制約もない真の姿。自らの「好き」にまっすぐ向き合うことにしました。
「どんなに物理的に満たされていても、さまざまな理由で心が悲しんでいる人は少なくないと思う。これからの宇宙時代に向けて、精神的な幸福が求められている。エンタメの力で人をもっとハッピーにしたい」
宇宙エンタメの足がかりとして、すでに取り組んでいるのは「アート衛星」の制作です。衛星の色、デザイン、機能などをオーダーメイドで作り、宇宙へ打ち上げる「インスタレーション作品」。ニューヨークを拠点に営業活動を行っており、新たな表現手法に、個人や企業、美術館などが関心を寄せているそうです。
日本国内でも、「宇宙エンタメ」のイベントなどを開催する準備を進めているほか、将来的には月面テーマパークのオープンも視野に入れています。
「失敗しても、次にがんばればいいかなって思っています。アイドルも言っているじゃないですか『失敗の数だけ強くなれる』って。妄想にはリスクがありません」と無邪気に笑う一方、「でも、難しいことを実現する上で大切なのは熱量です。なぜ自分がそれをやるのかという理由を、心の底から湧き上がる感情を、まっすぐに持ち続けることが大事」と真剣な表情になりました。
(読売新聞メディア局 鈴木幸大)