【国際女性デー】ショパンコンクールの“サムライ”反田恭平がオーケストラを起業した理由

乱れた長髪を手早く束ねると、独特のちょんまげスタイルでスタインウェイに向かい、可憐かれんなメロディーを奏で始めた――。2021年10月、ワルシャワで開催された「ショパン国際ピアノコンクール」で多くの聴衆を沸かせた“サムライ”こと反田恭平さん(27)。取材場所のミニホールで記者の要望に応え、ゆったりと丁寧にショパン作曲「ラルゴ」を“歌い”あげました。

コンクールの3次予選で披露したショパンの遺作の一つ。「こんな曲もあるんだよと知っていただけたら幸いです」。2019年8月、反田さんが自身のツイッターで、演奏する様子とともに投稿した思い入れのある一曲です。

反田恭平さんの演奏するショパン作曲「ラルゴ」の動画はこちら!

ピアノを演奏するピアニストの反田恭平さん(東京都港区の「スタインウェイ&サンズ東京」で)
ピアノを演奏する反田さん(東京都港区の「スタインウェイ&サンズ東京」で)

伝統の音楽技術を次の世代へ

「2016年の夏でした。留学先のロシアで印象的な夢を見たんです」。今後の活動について尋ねると、反田さんはこう切り出しました。

「僕が学校の中で子供たちと触れ合って、世界にはピアノを知らない子もいるんだろうなと考えているんです」。目が覚めると、涙を流している自分に気づいたといいます。「自分が将来、生涯をかけて行うことは、伝統の音楽技術を次の世代へバトンタッチさせるため、何らかのコミュニティーを作ることなのかなと」

大手レーベル「日本コロムビア」との契約が終わると、2018年に個人事務所「NEXUS(ネクサス)」を設立。アーティスト活動を持続可能にすべく「ジャパン・ナショナル・オーケストラ(Japan National Orchestra、以下JNO)」(旧:MLMナショナル管弦楽団)の株式会社化へつなげました。

将来を嘱望され、研鑽けんさんを積むピアニスト自身が旗振り役となって音楽キャリアの課題解決に乗り出すことは、これまでのクラシック音楽の常識では考えられません。反田さんは「素晴らしい演奏技術を持ちながら、チャンスに恵まれない演奏家が多いのが日本の現状。アーティストの立場も、そして、舞台の裏側で支える人たちの意見も分かる人間でありたい」と力を込めます。

「それは、都市伝説じゃなく本当です」

JNOは中核を担う18人を軸に、団員を70人に増やした特別編成で活動することもあります。気になるバイオリニストなどがいれば、反田さんが自らコンサートに足を運び、「メンバーにならないか」とスカウトします。インターネットで若手の有望株を探すこともあれば、YouTubeで音源を聞いて電話で誘うことも。

結成からわずか2年にもかかわらず、JNOの入団希望者は後を絶ちません。ただ、オーディションの有無を尋ねられても、団員は「反田からの電話を待て」と答えるのみ。いつしか、若手音楽家らの中で「腕を上げれば、いつか反田から電話が来る」という都市伝説が広まっているとか。「でも、それ本当なんですよ」と反田さんは無邪気に笑ってみせます。

インタビューに答えるピアニストの反田恭平さん(東京都港区の「スタインウェイ&サンズ東京」で)
インタビューに答える反田さん(東京都港区の「スタインウェイ&サンズ東京」で)

中心メンバーのおよそ3分の1が女性。ただでさえ、音楽家として生計を立てていくのは容易ではありません。出産や育児で演奏家の道を断念せざるを得ない女性も少なくありません。反田さんは団員の顔を思い浮かべ、一瞬考えると、「結婚するメンバーも増えつつあります。出産や育児ができる態勢を備えたほうがいい」とひらめいたように語ります。

「弾けない」「歌えない」という期間は、音楽家としてのキャリアの不安要素の一つです。ただ、反田さんは「妊娠や出産を機に女性演奏家は音楽が変わります。女性ならではの芯の強さがあります。男性はそんなにパッと音楽を変えることはできません」と話します。

人生をデザインする上で大切にしていること

演奏家、とくにピアニストは孤独な戦いです。たった一人で多くの聴衆が待ち受ける舞台に足を踏み出し、時には数時間にも及ぶプログラムを演奏します。そこには強靱きょうじんな精神力と体力を要します。

反田さんがステージに立つのは年間40~50回。1週間に1度は緊張している計算です。精神面でも肉体面でも常にベストな状態を心がけているそうですが、疲れがたまってつらいときもあります。それでも、「なんとかなるっしょ」と思うことで乗り切れるのだとか。

「それが正解かどうかは後々わかること。でも答えを知るために、まぁ面白そうだからやってみようって、なんだかわからないけれど自信をもって門の前に立てば、思い切って扉をたたけると思う。そういう直感を信じて生きています」

(読売新聞メディア局・渡辺友理)

3月8日の国際女性デーに合わせ、女性の活躍やダイバーシティー&インクルージョンの推進に大切なことは何か、Z世代と呼ばれる若い起業家やリーダーたちに聞きました。次世代を担う彼らが、人生をデザインする上で大切にしていることとは――。

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反田 恭平(そりた・きょうへい)
ピアニスト

1994年生まれ。札幌市出身。2021年10月、ポーランドのワルシャワで行われた第18回ショパン国際ピアノコンクールで、日本人として51年ぶりに2位を受賞。2018年、株式会社NEXUSを起業。2019年、レーベルNOVA Recordを立ち上げ、2021年、交響楽団Japan National Orchestraを設立。

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