柔軟な働き方、障害児を育てる親を支援

待機児童対策などの両立支援が進み、子育て世代の共働きは珍しくなくなったが、病気や障害を持つ子どもの親の就労にはまだ様々な壁がある。障害児を育てながら働く親の現状を考える。

テレワークで子育て時間を捻出

「じゃあ、あとでね」

そのまま近くのカフェに移動。リュックからパソコンを取り出し、メールをチェックした。長男を預けている2時間半の間に次々と仕事を片付ける。これに先立ち、午前中は、保育園を休んだ長男を別の療育施設に預け、その間、シェアオフィスで社内のオンライン会議にも参加した。

東京都杉並区のコクーンペアレンツスクエアに長男を預ける女性。その日の子どもの様子をスタッフに伝える
長男を預ける際に、その日の様子をスタッフに伝える美佳さん(右)(東京都杉並区のコクーンペアレンツスクエアで)=奥西義和撮影

障害がわかったのは3歳のとき。当時、通っていた保育園は障害児に対応できる職員がおらず、4歳で退園を迫られた。別の園に移ったが、預かり時間が短くなり、定時退社では迎えに行けなくなった。

ちょうどその頃、コロナ禍で会社がテレワークを認め、迎えに行けるようになった。食品会社勤務の夫(47)もテレワークを始め、以来、夫婦交代で長男と、違う園に通う長女(4)の送迎を続けている。

週に1度、美佳さんの両親が手伝いに来る日は、夫は出社して深夜まで働く。美佳さんも、会社に事情を話し、リモートでできる業務だけ担当するなど働き方を工夫する。「しんどい時もあるが、転職も難しい年齢だし、家のローンもある。これから障害児を育てる母親が希望を持てるよう働き続けたい」と話す。

厚生労働省の雇用均等基本調査によると、2020年10月1日時点で、障害児・健常児にかかわらず育児のための在宅勤務・テレワーク制度を導入している事業所は10%。18年の4・2%からは倍増したが、依然、低い状況だ。

コロナ下で在宅勤務を実施している企業も、コロナが収束すれば、出社を増やす可能性がある。美佳さんの会社も、今後もテレワークを続けるかどうかは不透明だ。

キャリアアップに壁

世田谷区のフードプランナー、野々村真貴子さん(43)は自閉症の小学6年生の長男(12)を育てながらカフェ「PEGO&CO.(ペゴあんこ)」を経営する。

元は洋食レストランの共同オーナー兼シェフだったが、出産で退職。長男は1歳半で障害がわかり、2歳半で療育施設に通い出した。

長男が4歳になり、自分の時間ができた野々村さんは、自家製のあんことソフトクリームを組み合わせ、自宅の敷地に屋台を出して売り始めた。週2日、1日5時間の営業だったが、近所の小学生らが訪れ、「息子と同年代の子や母親たちと仲良くなれた」と話す。その後、人を雇い、別の場所にもカフェを開いた。

PEGO&CO.の店頭に立つ野々村さん(東京都世田谷区で)
PEGO&CO.の店頭に立つ野々村さん(東京都世田谷区で)

玩具デザイナーの夫(51)も子育ての時間が必要なことなどから、会社を辞め、共同経営で起業した。

「普通は小6にもなれば一人で留守番ができ、塾や習い事もある。でも、息子がそうなることはないんだと、最近、実感した」と野々村さん。高校卒業後は作業所などで1日6時間程度過ごす支援に限られてしまうという。「自立できない子どもを育てながらキャリアアップを考えるのは難しい。今の働き方を続けるために、もう少し家族への支援がほしい」と話す。

京都教育大准教授の丸山啓史さん(障害児教育)は「障害児の親が就労で不利にならないためには、柔軟な働き方が広がることが必要。社会全体で標準的な仕事量を減らし、誰でも無理なく働けるようにすることも重要だ」と指摘する。

育児向け時短導入68%…厚労省調査「フレックス」は15%

育児のための制度の導入状況

厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、フルタイム労働者の総実労働時間の年間平均はコロナ禍前の2019年で約1977時間。1990年代半ばの2000時間超と比べて、長期的に見ると減少傾向が続く。

同省の雇用均等基本調査では、20年10月時点で、育児のための短時間勤務制度を設ける事業所は68%で、所定外労働を制限するのは64・3%だった。また、勤務時間を柔軟に決められるフレックスタイム制度を育児の場合に利用できるのは15%だった。(読売新聞生活部 樋口郁子、伊丹理雄)

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