両立支援からこぼれる障害児家庭、共働きに壁

待機児童対策などの両立支援が進み、子育て世代の共働きは珍しくなくなったが、病気や障害を持つ子どもの親の就労にはまだ様々な壁がある。障害児を育てながら働く親の現状を考える。

もっと働きたい。でも先が見えない…

「4月から勤務日を週2日に減らしてほしい」。東京都港区のパート薬剤師、明子さん(仮名、45)は昨年暮れ、勤め先の上司にこう言われた。コロナ禍で売り上げが伸び悩んでいることが理由だった。

障害のある長女(右から2人目)と公園で遊ぶ明子さん(東京都内で)
障害のある長女(右から2人目)と公園で遊ぶ明子さん(東京都内で)=奥西義和撮影

知的障害のある小学1年生の長女(7)を育てている。出産後、正社員として再就職するつもりだったが、生後8か月で障害がわかった。何とかして働きたいと、長女が1歳10か月のとき、会社員の夫(52)が休みの週末、夫に娘の世話を任せ、週1日でパートを始めた。今年度から週3日に増やしたばかりだった。

夫の収入で生活はできるが、家計に余裕はない。娘の将来のために貯金もしたい。夫も明子さんが働くことを望み、2人で方法を模索してきた。

長女が障害のある幼児の発達を支援する療育施設に通い出すと、自費で送迎ヘルパーを頼んだり、休憩時間に明子さんが昼食を抜いて迎えに行ったりした。

明子さんが仕事中に抜けることをよく思わない同僚もいるが、「我慢、我慢、と思って続けてきた」と明子さん。「本当はもっと働きたい。でも先が見えない」

所得や母親の就業率、平均より低め

自身も障害児を育てる昭和女子大学現代ビジネス研究所の美浦幸子研究員(51)は、昨年、東京都立特別支援学校在籍の児童・生徒の母親を対象にアンケートを実施。255件の回答結果から、母親の就業率は、パート勤務が約30%、フルタイムが約25%の計約55%だったという。

一方、厚生労働省の国民生活基礎調査(2019年)によると、18歳未満の子どもがいる家庭で母親が就業している割合は72.4%だ。

 

美浦さんは「女性活躍と言われ、全般的には両立支援が充実してきたものの、障害や病気がある子どもの親たちはそこからこぼれ落ちている」と指摘する。

国民生活基礎調査では、子どものいる世帯で18年の所得額が550万円未満は約35%。一方、美浦さんの調査では、回答した世帯で年収550万円未満は約54%と、相対的に年収が低い結果だった。共働きが主流の時代に、片方の親が働き方を制限せざるをえないことも影響しているようだ。

世田谷区の女性(49)は出産後、自閉症の中学生の息子の世話に専念してきた。

女性は中高一貫の女子校から大学に進学。卒業後は商社で貿易実務を担当した。夫の海外勤務で退職したが、帰国して出産し、息子が2歳になったら再就職しようと思っていた。

ところが、2歳のとき息子の障害が判明。当時はまだ少なかった療育施設探しに奔走。ようやく見つけたが、母親がいないとパニックになるため、小学校に上がるまで母子で通った。

小学校から放課後にデイサービスを利用するようになり、やっと時間ができた。だが、平日は息子がいない間に家事があり、週末に夫が面倒を見ようとしても、息子が母親から離れない。

「あんなに頑張って勉強したのに働けないなんて」。ずっと心が晴れなかった。長年のストレスから一昨年、大病を経験。「仕事はもうあきらめた」と話す。

厚労省によると、全体の出生数が減るなか、障害児支援サービスを利用する子どもは、障害の認知の高まりなどを背景に、19年度までの5年間で約2倍の約40万人に増加。医療的ケアを受けながら生活する子どもも増加傾向にある。

美浦さんは「障害や病気のある子は毎年生まれている。『親だから仕方がない』ではなく、社会全体で家族の支援を考えるべきではないか」と話している。(読売新聞生活部 樋口郁子、伊丹理雄)

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