辛酸なめ子 AI、サブスク、妄想力を駆使して時代を斬る

エッセイストの辛酸なめ子さんが、読売新聞で2014年から2021年まで連載したコラムを1冊にまとめた「辛酸なめ子の独断! 流行大全」(中央公論新社、税込み1320円)を出版しました。「YouTuber」「プレミアムフライデー」「ぴえん」「地雷女メイク」「Clubhouse」など、時代を彩ったキーワード250語を収録。ありきたりでない視点で読み解きます。7年半を振り返って思うこと、いま注目していることなどを聞きました。

――連載期間を振り返って、どのように感じていますか? 

私くらいの年代になると、7〜8年前のことも、つい最近のように感じるものです。でも、あらためて振り返ってみると、さまざまなブームが情報という名の大海を浮かんでは消えていったことがわかりますし、ニュースの新陳代謝の速さに驚きます。

「コールドプレスジュース」なんてちょっと前に流行はやった感覚ですが、2015年のことですね。タピオカミルクティーにしろ、バナナジュースにしろ、飲み物の流行り廃りのサイクルはとても速い。いつの間にか時間がっていることに諸行無常を感じずにはいられません。

年配の方が読まれたら、最近の事象の一端に触れていただけますし、20代の方でしたら、「ああ、学生時代に友達と写真を撮る時に『虫歯ポーズ』やったな……」と懐かしく振り返っていただけるかもしれません。

――年末の風物詩になっている「新語・流行語大賞」の審査員を務めていらっしゃいます。どのように情報収集していますか?

日々気になる言葉をメモに打ち込んでいます。話題のトピックは各ニュースサイトやツイッターのトレンドを見たり、テレビの旬の話題のコーナーをチェックしたり、まとめサイトを常に見ている友人に教えもらったり。イベント会場で仕入れることもあります。

最近の音楽もチェックしているつもりでしたが、年末に紅白歌合戦を見ていて、私の中ではBUMP OF CHICKENがまだ新しめのバンドという認識だったことに気づかされました。大ヒットした「天体観測」がリリースされたのは2001年。もうデビューから20年以上経っています……。以前読んだ雑誌に、30代から新しい音楽を取り入れなくなると書いてあったのを思い出し、焦りを感じて音楽ストリーミングサービスのSpotifyに加入しました。時代に取り残されないようにアップデートしていきたいですね。

女子校で育まれた批評精神

――丁寧でおっとりとした文体でありながら、アイロニーと自虐を効かせたエッセイで人気を集めています。物事を冷静に観察する視点はどのように獲得されたのでしょうか?

大人になってから、普通に話しているだけなのに、怖いとか、きついと言われることが多く、なんでだろうと思いました。ある時、知人男性に「女子校出身の人は、可愛かわいいとか素直な感想が言えない」と指摘されたことがありました。中高一貫教育の都内の女子校に通っていましたが、確かに生徒たちは可愛いものを可愛いと素直に言えず、何かとツッコミを入れたがる人が多かったです。私が女子校で身につけた、そういうところが威圧的に映ったのかもしれません。一方で、思ったことは自由に言ったり表現したりしていいんじゃないの?とも思うんです。

小学生の頃から漫画を描くのが好きでした。高校時代は、友人たちと新聞を作っていましたね。文化祭のパンフの絵も描きました。また当時、父が仕事でけがをして、見舞金でMacintoshのパソコンを買ったおかげで、当時は目新しかったパソコン通信などに触れることができたのがよかったです。創作意欲が刺激され、美大時代はソフトを使って簡単なインタラクティブなゲームやアニメーションを作り、フロッピーに入れてミニコミを扱っている店やイベントに持ち込んで1枚500円くらいで販売しました。

親は普通の大学に行って、普通の仕事に就いてほしいと思っていたようです。うちは祖母も母も女子校出身で、母には男性は狼だと教えられて育ちました。娘が変な男にひっかかるんじゃないかと、やたら心配していましたから。テレビドラマは禁止、週刊誌の性的なページは黒塗りかホッチキス留め。かえって恋愛や男女関係に関する妄想力がたくましくなったのは、その影響かもしれません。

漫画家でエッセイストの辛酸なめ子さん
日々移り変わる流行に諸行無常を感じるという辛酸なめ子さん

「データ・サイエンティスト」に憧れて

――ステイホーム期間は「AIスピーカー」に話しかけることが増えたそうで。それ以外に生活の変化はありましたか?

近所の公園ではとと触れ合ったり、ぼーっとしたりするなかで、今までアウトプットばかりでインプットする時間が足りなかったなと気づきました。

「データ・サイエンティスト」という肩書に憧れていたので、コロナ給付金10万円を使ってデータ・サイエンティスト講座を受けました。途中で高校生の数学の知識が必要だと言われてやめてしまいましたが、人工知能やビッグデータについて学べたのはよかったです。

今年は、たまたまネットで見つけたフィリピンのサブスク英会話オンライン講座も受講しました。若いフィリピン人講師がおすすめ観光地などについて英語で教えてくれるんです。ボホール島にはターシャという、手の平サイズの繊細でかわいい動物がいるのだそう。ブラックコーヒーにカラマンシージュースを混ぜるとおいしいと、しきりにレコメンドされました。あと、黒いキリスト像を祀るお祭りとか、お葬式でビンゴで盛り上がるとか、レアな風習をいろいろ聞けて、半分行った気に。

また、日々の習慣としては、心身の健康のために毎日瞑想めいそうしています。相川圭子先生というヒマラヤでヨガを極めた方に教えていただいて、12年くらいになるでしょうか。おかげで前より厭世感に襲われなくなりました。病院は苦手なので、検査はあまりしていなくて。でもアメリカ人のサイキックには、君はだいたい健康だと言われたので信じています。サイキックや気功の先生に見てもらうのが健康診断代わりです。

――2022年、注目していることは?

Z世代の間でポーカーが流行っているそうで、先日ポーカールームに行ってきました。バーチャルゲーム全盛の今、あえてアナログなトランプゲームですが、YouTuberが始めた店だということで、ネット配信もされているそう。一日を通してトーナメント戦が行われて、ファイナルステージでその日の勝者を決めるんです。勝ち上がった人だけが座れるテーブルがあって、イカゲームみたいでした。お客さんの8割以上が20代男性で満席。若い男性ばかりに囲まれて動悸が激しくなりましたが、またZ世代のエネルギーを吸収しに行きたいです。

デジタルネイティブの世代は逆にアナログな文化や昭和のエモさに惹かれるのかもしれませんね。昭和生まれとして何か役に立てれば良いのですが……。メタバースにも興味ありますが、デジタルなものとアナログなものを行き来する時代になりそうです。

(聞き手・読売新聞メディア局 深井恵 撮影・八木沼卓)

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家・エッセイスト

1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。人間関係から、恋愛、アイドル、皇室、セレブリティ、スピリチャルまで幅広いテーマで執筆。著書に「女子校育ち」「大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ」「おしゃ修行」「魂活道場」「新・人間関係のルール」「女子校礼賛」「電車のおじさん」などがある。

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