「死にたい」「消えたい」から大切な人を救う言葉、言わないほうがいい言葉

コロナ禍で迎える2回目の年末年始に、急拡大するオミクロン株が影を落としています。コロナの影響で仕事を失い、経済的な苦境にあえいでいる人もいます。大阪のクリニックで起きた放火殺人事件は25人もの犠牲者を出しました。女優の神田沙也加さんの急死にショックを受けた人も少なくありません。希望を抱けずに将来を悲嘆したり、死の恐怖に囚われたりし、身近な人が絶望の淵で迷っていたら、どんな言葉をかけ、どのように接すればいいのでしょうか。

政府の自殺対策白書によると、2020年の働く女性の自殺者数が、前年までの5年間(20152019年)の平均値と比べて約3割増えました。20年の無職女性の自殺者数は5240人で過去5年間の平均値(5268人)と比べて微減でしたが、働く女性の自殺者数は1698人に上り、平均値(1323人)と比べて28%増えました。

「職場の人間関係」「職場環境の変化」を動機とする自殺が増えており、厚生労働省は非正規雇用の割合が多い働く女性が失業や減収、労働環境の悪化など、コロナによる影響を受けたことが背景にあるとしています。

勇気を出して声をかける

自殺防止に取り組むNPO法人Light Ring.代表理事の石井綾華さんは、「例年、年末にかけて『死にたい』という声が多く届きますが、今年はひときわ多い傾向が見られます。みんながつらく苦しい時期を過ごしているのです」と話します。

家族、恋人、親友などの身近な人の異変に気づいたら、「どうしたの?」「大丈夫?」と気軽に声を掛けていいのでしょうか。それとも、踏み込みすぎないように距離を置くほうが望ましいのでしょうか。石井さんは、「もし、だれかのSOSに気づくことができたなら、勇気を出して声かけをしてほしい」とアドバイスします。

接し方の注意点や心構えについては、「りはあさる」という五つのステップを紹介します。

「り」…リスク評価

悩みを抱えている人が、〈1〉自殺の方法について計画を練っているか〈2〉自殺を実行する手段を持っているか〈3〉過去に自殺未遂をしたことがあるか――の3点について確認します。「消えたいと考えていますか」「死にたいと思っていますか」などと、自殺の企図についてはっきりと尋ね、自殺の危険性を測ります。

「は」…判断・批評せず、聞く

相手がどんな気分なのか、状況を聞きます。「今、どんな気持ちですか」と問いかけるよりも、「死にたいほどつらいんだね」「眠れないほど悩んでいるんだね」と相手の気持ちを理解しようという姿勢を示します。

悩み苦しんでいる人の役に立ちたいと懸命になるあまり、アドバイスをしようとしたり、解決策を探ろうとしたりする人が多くいますが、それよりも、相手の気持ちをただ聞くことが大切です。

支援者が家族や親友の場合、「弱い自分を見せたくない」「恥ずかしい」と口を閉ざしてしまうケースも珍しくありません。悩みを打ち明けてもらえないからといって、不信感を抱いたり、自らを責めたりせず、「ほかに話せる人がいたら相談してみて」「専門の相談窓口があるから利用してみたら」と次へつなげましょう。同時に、「元気になったら、また楽しい話をしよう」「友情はずっと変わらないよ」などと言い添え、2人の関係が揺るがないことも伝えます。

「あ」…安心と情報を与える

「眠れない」「死にたい」「消えたい」という気分になるのは、弱さや性格の問題ではありません。心の病は珍しいことではなく、医療的な支援が必要かもしれません。状況に応じて、医療機関の受診を勧めます。

その際、「この状況は一生続くわけではなく、専門家の支援で改善や解決する」こと、「病院を受診しても、2人の関係は何も変わらない」ことの二つを伝え、安心してもらいます。

病院や相談機関を勧めると、「手に負えずに突き放された」と戸惑う人もいます。家族や親友との関係性が途切れ、ひとりぼっちと感じてしまうと自傷や自殺のリスクが高まります。自分は一人じゃない、と思える存在がいれば思いとどまることができます。関係性が続くことを伝えるのは、このためです。

「さ」…サポートを得るように勧める

若者の相談内容はここ数年、「なんとなく死にたい」という原因がはっきりしないケースから、「家庭の経済状況が厳しいので進学を諦めた」「父親の母親への暴力に何もできずつらい」など、背景に具体的な問題を抱えているケースが目立ちます。 

行政機関には、家庭内暴力、経済的困窮、育児などの相談窓口や支援制度があります。精神的な苦痛の原因がはっきりしている場合は、問題やトラブルを解消することが自殺予防につながります。 

「る」…セフヘ

悩みを抱える相談者と支援者が、双方ともに気持ちが楽になるサポートを心がけます。悩みを聞くことは、支援者もストレスや心労を抱えます。軽い運動や快適な睡眠、リラクゼーションで自らをケアします。

精神的に追い込まれていても「助けて」と言えずにいる人も少なくありません。また、自分自身のストレスに目を向けず、気づかないうちに危険な状況に陥ってしまうことがあります。

身近な人や自分自身の異変やリスクに気づくために、次の「六つの変化」に注目してみてください。

〈1〉外見の変化(体に不自然な傷、服装の乱れ、毎日同じ服装など)
〈2〉表情・口調の変化(感情の激しい変化、たどたどしい話し方、まったく話さなくなるなど)
〈3〉言葉の内容・量の変化(SNSで他者へ不満や攻撃、「死にたい」「やめたい」「消えたい」などネガティブな言葉の増加、発言内容がコロコロ変わる、SNSの投稿・口数の減少など)
〈4〉行動の変化(急に怒ったり泣きだしたり感情が激しくなる、行動が遅くなる、コミュニケーションが少なくなる、一人になりたがる、遅刻やトラブルの増加など)
〈5〉食生活・持ち物の変化(未成年者の飲酒や喫煙、香辛料が多いものや濃い味を好むようになる、過食や拒食など)
〈6〉睡眠の変化(深夜に起きている状況は一緒に暮らしていないと分かりませんが、ネットワークへのログインやSNSの投稿時間などから異変に気づくことも)

絶望する女性
写真はイメージです

相手がどんな言葉を必要としているか?

身近な人のSOSのサインに気づいたら、「自分本位なアドバイスはしないほうが望ましいでしょう。自分の価値観で支えようとしてもうまくいきません。相手がいま何を求めているか、どんな言葉を必要としているか、それだけを考えることです」と石井さんは助言します。

「あなたなら、もっとがんばれる」「もっといい点数が取れるはずでしょ」という親の励ましや期待が、子どものプレッシャーとなって苦しめてしまうことがあります。若者とその親の相談を受けている中で、「自分の子どもは大丈夫だろう」「ここを乗り越えればもっと伸びる」と考えていたケースが自殺未遂者の親に多く見られたそうです。

そこに踏み越えてはいけない境界線があることに気づくのは、たやすいことではありません。

「家庭、学校、職場、恋人、どんな人間関係にあっても、限界だと思ったら『つらい』『助けて』と言えるようにしておかなければいけません。最後の最後にSOSを受けとめてくれる誰かが必要とされているのです」

ニュースなどで多くの被害者が出る事件を目の当たりにしたり、突然、有名人の訃報に触れたりすれば、原因や背景を知りたい衝動に駆り立てられます。興味本位で情報に触れ続けることで、恐怖や悲しみがストレスとなって積み重なっていきます。つらいと感じるときは、意識的に情報を避けることです。テレビやスマホの電源を入れず、しばらく情報を遮断するのも効果的です。

「目標を達成できなかった」「何もやり遂げられなかった」「思うように前へ進めなかった」――。今年1年を振り返り、こんなはずじゃなかったと落ち込んだり、努力が足りなかったと自らを責めたりするかもしれません。

石井さんは「コロナ禍の今は、生きづらさを感じて誰もが悩んでいる。そして、自分自身も悩んでいる。どちらか一方が支え手ということではなく、誰かを救うこともあれば、自分が誰かに救われていい」と説明。そして、閉塞感漂う年の瀬に、こんなメッセージを送ります。

「困難なコロナ禍の一日一日を生きていることが、それだけで大成功です。うまくいかないことがあっても、この一年をなんとか乗り越えることができたことに、『おつかれさま、自分』と労ってあげてほしい」

(読売新聞メディア局 鈴木幸大)

石井綾華
石井 綾華(いしい・あやか)
NPO法人Light Ring.(ライトリング)代表理事

1989年福島県生まれ。精神保健福祉士、若者自殺対策全国民間ネットワーク共同代表発起人。2010年に前身の団体を設立し、2012年にLight Ring.として法人化。10 代~20代を対象にしたゲートキーパーの養成を行っている。

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