年の瀬に思い出す、一人旅で出会ったラオスのジャイアン

誕生日の時期になると毎年思い出す。9年前のちょうど今頃、私は台湾を経由しラオスのルアンプラバン空港に降り立った。それまでの一人旅はもっぱらヨーロッパが多く、初めての東南アジア。縁もゆかりもないラオスを目的地に選んだのは、当時一緒に作品を撮っていた映画監督が薦めてくれたから、というシンプルな理由だった。

こんな小さい飛行機と空港があるのか、と思うほど全てがミニマムで、12月もまっただ中というのに、そこは真夏の陽気だった。ルアンプラバンは、ラオスの旧首都。日本で例えるなら京都といった感じ。少しだけ都市化が進んだ現在の首都、ビエンチャンに比べ、緑や自然が豊かに残っているということで、目的地に選んだ。

私の記憶では、本当に自然以外何もないところだったのだが、今写真を見返してみるとタイの街並みによく似ている。この数年後、ロケで2か月ほどバンコクに滞在するのだが、その時の写真を交ぜられたら区別できないだろう。道路にずらっと並ぶカラフルな屋台と三輪車タクシーのトゥクトゥク。熱帯地方独特の植物。朝ごはんに食べるバインミーによく似たバゲットサンドがおいしかった。料理は手で食べるし、竹筒とか笹の葉に包まれたジャスミンライスが付いていて、食事はベトナム料理に近いのかもしれない。町のどこからでも見られる大きな川は、インドの北部をほうふつとさせる。

じゃあ、ラオスオリジナルのものは何ですかというと、ほぼ1分歩くごとに現れる立派な寺院とオレンジ色の大きな布をまとった若い僧侶たちだろう。ラオスの男性の多くは、頭を刈って一時的にお寺に入ると聞いた。そのせいか、町の人が本当に穏やかで優しい。子供や動物がいっぱいいて、道端で怒っている人もいない。買い物で法外な料金をとられることもなかった。言葉が分からない国ではボディランゲージや、無意識に目で相手の意思を読み取ることが多い。「目が、綺麗だな」。それが今でも覚えているラオスの人たちの印象だ。

大手小町の人気連載オピニオン、玄理さんがつづるラオスの思い出。写真は玄理さん撮影
ルアンプラバンの街並み(玄理さん撮影)

ひときわ記憶に残っている少年がいる。確か、ルアンプラバンの川でボートに乗れるというので行ってみたら、ドラえもんに出てくるジャイアンみたいな男の子が船頭さんだった。少し英語が話せて、乗客は私一人だったのでいろんな話をした。お寺に入って出てきたばかりと言っていて、髪は坊主より少し伸びていた。

私が一人旅とわかると、次の日も観光に付き合ってくれるという。ガイドブックにも乗っていない道を通って、高い木々に囲まれたエメラルドに輝く滝つぼを見せてくれた。とっておきの場所らしい。

はしゃぎまくる私を見て面白かったのか、今度は夜に行われる地元民族のお祭りに招待してくれたのだった。どこか懐かしい派手な歌謡曲が流れる中、何を焼いているのか分からない屋台があり、見たこともないアイドルの写真がところ狭しと売られていた。地元の人でごった返していて、外国人はおそらく私一人。船頭さんは昼間の時の半ズボン姿とは違い、革の黒いライダースジャケットを着て少しおしゃれをしていた。友達だという女の子2人を紹介してくれる。職業を聞かれ、俳優だと答えると、近くに座っていたおじさんが話に割り込んできて、一緒に写真を撮る。

おかゆの味とそれぞれの当たり前

各自屋台で買ったものを持ち寄り、簡易テントに並べられたテーブルで食べた。いくらおなかが丈夫な私とはいえ、屋台の油が限りなく茶色いのを見て不安になる。かといって勧めてくれた食べ物を断るのは失礼だ。生ものと揚げ物だったら、揚げ物の方がまだ死なない、と判断した私は鶏の足先の揚げ物をかじった。タッパル、といって韓国にも似た食べ物もあるし。味は覚えていない。絵が描かれたおの揚げ物は食感がおいしかった。

翌日の昼過ぎ、私は見事に腹を下し、ほぼ寝巻きみたいな格好でホテル近くのおかゆ屋に足を運んだ。具合が悪すぎて席にたどり着くまでふらふらしていると、店員と間違えられて近くの人に注文を頼まれた。いよいよ地元民になじんだかー、と思いながら食べたおかゆの味が優しかった。

そうこうしているうちに出発の日が近づき、船頭さんが見送りにきてくれた。お礼もしたいし、もう友達だし、連絡先を聞くと、携帯電話を持っていないという。そういえば、待ち合わせはいつも私のホテルのロビーだった。メールアドレスはおろか、手紙が届くような住所も特にないと聞いて、異国の“当たり前”に、改めて面食らう。どうにかこうにか、叔父さんのメールアドレスというのをメモしてくれたが、後にメールを送っても返事はなかった。折しもフェイスブックの全盛期。海外の仕事仲間や留学時代の友達は毎日楽しそうな顔でタイムラインに出てきていた。それもまた私たちの“当たり前”だった。

あの船頭さんは、元気だろうか。もう30歳くらいになって、結婚したり、違う職業についていたりするのだろうか。もしこれから機会があって同じ町に私が行って、どうやって彼を捜したらいいのだろう。もしかしたら、毎日観光客を船に乗せていて私のことは覚えていないかもしれない。

あの頃は、気軽に旅をして、いろんな人と握手をした。来年こそは、そんな生活に少しでも近づけるのだろうか。年の瀬は誕生日も重なって、新たな抱負を考えるのに忙しい。みんなが幸せでありますように。もっと人に優しくなれますように。

大手小町の人気連載オピニオン、玄理さんがつづるラオスの思い出。写真は玄理さん撮影
ルアンプラバンにて(玄理さん撮影)

玄理さんのコラムはこちら

俳優の玄理さん
玄理(ヒョンリ)

俳優

1986年、東京生まれ。中学校時代にイギリスに短期留学。大学在学中、留学先の韓国の大学で演技を専攻。日本語、英語、韓国語のトライリンガル。2014年、映画「水の声を聞く」に主演し、第29回高崎映画祭最優秀新進女優賞などを受賞。17年にソウル国際ドラマアワードにてアジアスタープライズを受賞。近年の出演作に映画「スパイの妻」、「偶然と想像」、ドラマ「君と世界が終わる日に」などがある。ラジオ番組「ACROSS THE SKY」(J-WAVE)でナビゲーターを務めている。

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