篠田ちひろ カンボジア発のコスメを通じて現地の雇用を支えたい

カンボジアでハーブを使った化粧品店などを展開する篠田ちひろさん(37)は現地の人の生活向上のために活動する社会起業家だ。新型コロナウイルスの影響で休業に追い込まれたが、現地の雇用を回復させたいと、一日も早い再開を目指す。

吉川綾美撮影

30か国訪問

世界遺産アンコール遺跡があるシエムレアプを拠点に事業を行っています。家族の事情で2020年4月に帰国後、コロナの感染拡大で行き来できず、今は浜松市から遠隔で経営している状態です。

海外に関心があり、大学で途上国支援のボランティア活動にのめり込みました。アフガニスタンでの学校建設や、インドなどでのスタディーツアーも企画。一人旅で30か国も訪問しました。

転機は就職活動。海外と取引のある企業を受け、志望の人材派遣会社から内定をもらったものの、本当は何をしたいのか、迷いが生じたのです。突きつめた結果、起業で持続可能な途上国支援がしたいと気づき、内定を辞退。フェアトレード先進国の英国で実務を学び、08年にシエムレアプに移住しました。

この地を選んだのは、学生時代に初めて訪れた時に印象深かったから。観光地といえど道路は穴ぼこだらけで、夜は真っ暗。でも、貧しいはずの人々は幸せそうでした。日本に比較的近く、成長可能性を感じたこともあります。

スパを開業

事業の種を探す中で、「チュポン」と呼ばれるハーブを調合したスチームサウナに出会いました。1000年以上続く伝統療法で、美肌や疲労回復に効能があるとされています。09年、現地に会社を設立し、チュポンをヒントにハーブの入浴剤などを開発。10年から販売を始めました。

最初は赤字でしたが、観光客向けに入浴剤作りの体験ツアーを催すなど、集客の仕組みを構築。12年には路面店を、15年にはチュポンを体験できるスパを開業しました。

社員も40人に増え、社内では無料の食事を提供し、読み書きができない社員にクメール語教室を開催。社内貯蓄制度も設け、金銭教育もしています。

30代は「これを成し遂げた」と言えるものを作りたいと思っていました。事業は軌道に乗り、まさに実績に。そんなところに起きたのが、コロナ禍です。観光客が途絶え、昨年3月から休業に追い込まれました。社員も一時解雇せざるを得ず、何もできない自分に憤りを感じています。

ただ、自分で選んだ道です。今は踏ん張り時。現地の雇用を少しでも回復できるよう、昨年12月、日本国内にカンボジア雑貨の輸入販売会社を設立しました。お客様が喜び、雇用が増え、地域の課題の解決につながる「三方良し」の循環を早く取り戻したいと思っています。

◇ ◇ ◇

【取材後記】

取材中、2000年代初頭のシエムレアプの思い出話に花が咲いた。篠田さんが初めて訪れた頃、記者もたまたま行ったことがあったからだ。

カンボジアの北西部にあり、悪路を何時間も車に揺られないとたどり着けない。アンコール遺跡はすばらしかったが、街はほぼ未開のジャングルといった印象だった。当時を知るだけに、そこで事業を興そうと思い立ったことに、驚嘆の念を覚えた。

今はホテルやレストランが立ち並ぶ街になったという。「シエムレアプがちょうど観光地として発展し始める時期だったから良かったんです」と謙遜する。

両親は当初は反対だったらしい。でも、本人は気にしていなかったと、笑う。今は実績もできて、見守ってくれているのだそう。会社員の夫も応援してくれている。「私は自由にやれないとだめで、目標に向かって、夢中になっているときが幸せなんです」と、カンボジアに思いをはせていた。

(読売新聞社会部 大重真弓)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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篠田 ちひろ(しのだ・ちひろ)
クル・クメール・ボタニカル代表

1984年、山口県生まれ。青山学院大経営学部卒。2009年、カンボジアに「クル・クメール・ボタニカル」を設立。20年、日本に作った会社「クラール・インドシン」は、仏語で「インドシナの彩り」の意。

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