大手小町で11月、「柔道、阿部詩選手も体験してみた、卵子の数の目安がわかるAMH検査※」という記事を掲載し、Yahoo!ニュースにも配信したところ、「不妊治療で苦労したので、若い人はこの検査を積極的に受けてほしい」「正常値だからといって、妊娠できるわけではないのでは?」など、300件を超えるコメントが寄せられました。早い時期から妊娠・出産の知識を持って、生活習慣や自分の体のことを考え、よくしていく「プレ妊活」「プレコンセプションケア」などと呼ばれる取り組みへの関心が高まっています。AMH検査や、「プレ妊活」などについて、聖路加国際病院(東京)の産婦人科医、岡田有香さん(33)に聞きました。
厚生労働省は12月15日、2022年4月から開始する不妊治療の公的医療保険の適用について、治療開始時点で43歳未満の女性を対象にする方針を、厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会に提案しました。加齢とともに妊娠・出産に至る可能性が低下することを踏まえたものです。
※AMH検査 発育過程にある卵胞から分泌されるホルモン、アンチ・ミュラーリアン・ホルモン(Anti-Mullerian Hormone)の略で、血液を採取することで卵巣の中に残っている卵子の数の目安がわかる検査。卵巣予備能検査とも呼ばれる。
――AMH検査はなぜ必要なのでしょうか。検査の結果はどう受け止めればよいか教えてください。
AMH検査は将来のキャリアプランを考えるにあたり、重要な役割を果たします。すぐに妊娠したいと思っていない人も、「妊娠したいと思ったときに、妊娠できない!」とならないように、この検査を、妊娠のタイミングを考える際の参考として活用してもらえたらと思います。
AMHの数値は年齢が上がるにつれ、徐々に下がっていくことが知られていますが、現在、「検査の数値が低いからこの病気だ」などという明確な基準はありません。低いから妊娠できないとか、高いから妊娠しやすいということもありません。
ただし、自分の年齢の平均よりも数値が高い場合、排卵しにくい「多のう胞性卵巣症候群」の可能性があり、数値が低い場合、卵巣機能が低下する「早発卵巣不全」の可能性があります。いずれの疾患も不妊につながるため、平均より離れた数値が出た人は、卵巣のエコー(超音波)検査や排卵周期の確認、その他のホルモン検査をして、病気かどうかの診断につなげ、場合によっては治療する必要があります。妊娠を希望しない人も、検査を機に治療をしてホルモンバランスを整えておくことは大切です。
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――AMH検査へ助成する自治体も出てきています。福岡市では2021年から、30歳を迎える女性に、AMH検査を500円で受けられるクーポン券を配布しています。
この検査は定期的にやるものではなく、20代など早い時期にまず一回やっておくとよい検査です。自費の検査となるため、金銭面でやりたくてもできないという人もいます。自治体の補助があれば取り組みやすいと思います。
プレ妊活、がん検診やエコーを
――AMH検査以外にも、妊娠する力を知るための検査や指標はありますか。
婦人科検診の際、子宮や卵巣のエコー検査をするとよいでしょう。内診だけではわからない卵巣の腫れや、小さな子宮筋腫や子宮内膜症といった病気もエコーでわかることがあるからです。
20、30代の女性には子宮頸がん検診、乳がん検診も2年に1回は受けてほしいです。子宮頸がんや乳がんは特に30代で増えるがんで、初期はどちらも自覚症状がみられません。早期発見には検査が必要です。もし妊娠中にがんが見つかったり、妊活を始めようとしたときに見つかったりすると、妊娠をあきらめたり、妊活の時期を遅らせたりすることにもつながってしまいます。
――いつか妊娠したいと思っている女性へのアドバイスを。
生殖年齢は昔から変わってはおらず、20代がベストです。35歳からは高齢妊娠と呼ばれる状況に入ります。
卵子の残存数や卵子の質は年々低下するため、妊娠、出産はできれば20代であるほどよく、30代は早ければ早いほどよいということは変わりません。不妊治療をしている夫婦は国内の5組に1組とも言われ、日本の治療の技術は世界一といわれていますが、不妊治療をすれば妊娠ができるというのは間違いです。高齢になってからの治療が多くなると、成功率も低くなります。
不妊治療をした人の妊娠後の流産率をみると、33歳ぐらいまでは約15~19%で推移しますが、34歳から徐々に上昇し、37歳ぐらいからは急激な上昇となります。39歳で31%、40歳で34%、43歳で49%となっています。(2017年日本産科婦人科学会調査より)

生理痛、婦人科医に相談を
――わたしたちはどのように自分の体と付き合っていけばよいのでしょう。
プレコンセプションケア(受胎前ケア、プレ妊活)などと呼ばれますが、妊娠計画の有無にかかわらず、女性は10代の若いうちから、自分の体や健康について知り、向き合うことをが大切です。
不妊治療に携わっていると、生理痛を長年、我慢してきて、30歳近くで妊娠を希望して婦人科に来た時には、すでに子宮内膜症を発症し、不妊になってしまっているケースも目立ちます。内閣府の調査では、生理痛で受診した女性のうち、20代で3割、30代で5割が子宮内膜症や子宮筋腫を原因とする痛みや不調でした。このほか、「働く女性の半数弱は月経異常を感じても、婦人科等を受診しない」「ほとんどの中高生女子は月経痛やPMS(月経前症候群)があっても婦人科等に行かない」という調査結果もあります。
我慢することが当たり前になっている人もいますが、「生理痛がつらいということは普通ではない」、と伝えたいです。生理痛やPMS、月経異常などの不調があったら、婦人科を受診し、子宮や卵巣のメンテナンスをしてほしい。病気にも早く気づけますし、将来の妊娠やライフプランについて考えることにもつながります。月30日のうち7~10日も不調に悩まされる生活は、終わりにしてもらいたいです。
国もプレコンセプションケアの重要性を認識し、10代への教育は始まりつつありますが、20~40代の、働き盛りで子どもを産む年齢の人たちは、知識を教わる機会がないまま年を重ねて来ています。積極的に情報収集し、知識を得てほしいと思います。
(読売新聞メディア局 谷本陽子)