企業が注目のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とは?

企業の研修や採用などで、「アンコンシャス・バイアス」という考え方が注目されている。英語で「無意識の偏見」や「思い込み」という意味だ。こうしたことに注意を払って企業活動を見直すことが、女性や外国人など多様な人材の活躍、ビジネスや組織の発展につながるという。

「思い込み」への気付き促す

「メルカリ」の研修。参加者に「バイアスに気付こう」と話すベッカーマンさん(右)(東京都港区で)=木田諒一朗撮影

フリーマーケットアプリ運営の「メルカリ」(東京都港区)で11月16日、アンコンシャス・バイアスについて学ぶ研修が行われた。同社政策企画チームの社員ら15人がオンラインと対面の両方で参加した。

「外国人社員はみんな文句しか言わないなぁ」

「僕は男性だから論理的に説明してもらわないと」

パソコンの画面に、架空のプロジェクト会議での会話が示された。参加者は会話を読んだ後、どこに思い込みが潜んでいるか、気になった点について意見交換し、自分の日頃の言動についても振り返った。研修の講師を務めた社員のゲイブ・ベッカーマンさん(29)は、「大事なのはバイアスに気付くこと。判断や言動がバイアスによって影響されていないか、自分でチェックする習慣をつけましょう」と参加者に語りかけた。

多様性の尊重

同社では、東京のオフィスだけで約40か国の社員が勤務する。多様な経験や視点を尊重した組織を作るには無意識の思い込みに気付くことが必要だとして、2年前から、採用や人事評価に関わるマネジャーを対象とした研修を行っている。受講者の一人で広報担当マネジャーの志和あかねさん(39)は、「自分と共通点がある人に親しみや好感を持ちやすいと知り、採用を担当する際、客観的に志願者を見ているか注意するようになった」と話す。

人事制度にも反映され始めている。同社には、同僚や上司の推薦で社員がマネジャーに昇格できる制度があり、昨年12月からは、同僚や上司が、多数派である日本人の男性社員を推薦する場合は、女性や外国籍などの少数派の社員ではなくその人を選んだ理由を文書で明示することになった。

また、「メルカリ」のアプリで利用者の性別を入力する際、性的少数者への対応として、男女に加えて「無回答」の項目を設けるなど、利用者へのサービス面でも変化が表れている。同社では「採用や昇格のチャンスがより公平になり、多様な利用者に配慮してサービスの質が向上するなど、効果が見え始めている」としている。

企業の取り組み

こうした研修は、グーグルなどの大手外資系企業から始まり、パナソニック、東京海上日動火災保険、味の素など多くの日本企業で行われるようになってきた。採用時に、履歴書の顔写真や、性別、性別が類推できるファーストネームの記入をなくした例もある。

企業の研修を行う「アンコンシャスバイアス研究所」代表理事の守屋智敬さんは、「人は無意識のうちに都合のよい解釈をするもの。過去の経験による思い込みは、ビジネスチャンスや組織の発展の可能性を狭めてしまうこともある」と、企業での取り組みの重要性を指摘する。

根強い男女の役割意識 内閣府初調査

内閣府は9月、「アンコンシャス・バイアス」に関する初の調査結果を発表した。20~60代の男女に、性別による役割や思い込みに関する36項目を尋ね、約1万人から回答を得た。

「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」という考えについて、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が、男性で50%、女性で47%。「家事・育児は女性がするべきだ」も、男性の30%、女性の23%だった。管理職が多い50、60代の男性は、性別によって役割をわける傾向が強いなど、世代間の意識の差も見られた。

内閣府男女共同参画局は、「共働き家庭が約半数を占めていても、いまだ『女性は家事』『女性に理系の進路は向いていない』などの固定観念があることは、女性の人生、社会全体に多大な影響を与えかねない。企業や組織、教育現場で周知していく」としている。

安心して働ける職場作り…立正大学心理学部長 上瀬由美子さん(社会心理学)

アンコンシャス・バイアスは、偏見や思い込みが自分には気付かない形で、判断や行動に影響を与えていることを説明する言葉だ。20世紀後半から、人種や性別に対する差別を背景に、米国の社会心理学者らが研究をリードしてきた。2000年前後から、米国企業で教育的な取り組みが始まり、注目を集めるようになった。

幼い頃からの経験や知識などから思い込みが生じ、物事の判断に影響を与える。例えば、電車で座っているときに白髪の人が目の前に立ったら、髪の色だけで高齢者と判断し、さっと席を譲るなど、とっさの判断につながる。生活していく上で、考える手間が省けて効率的な面がある。

立正大学心理学部長 上瀬由美子さん(社会心理学)
立正大学心理学部長 上瀬由美子さん(社会心理学)

一方で、いつでもどこでも誰にでも、相手を傷つけたり、ストレスを与えたりすることも起こり得る。思い込みを全てなくすのは現実的ではないが、特定の人を排除し、苦しむ人を生み出すことのない組織や制度作りが求められる。

日本の企業も取り組み始めたのは、働く人の多様化が進んでいるからだ。労働力不足に対応するため、女性や外国人の定着が不可欠になっている。しかし、立場の弱い社員は、社内で問題があると感じても自ら声を上げにくい。企業が組織的に無意識の思い込みに気を配ることは、少数派も安心して力を発揮できる職場作りに役立つ。優れた人材の確保にもつながるだろう。

(読売新聞メディア局 谷本陽子、バッティー・アイシャ)

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