京都・東山の「女坂」を歩いて考えるコロナ禍の女性不況と学び直し

コロナ禍では、不況を表す英語「recession」を基に、「She‐Cession(女性不況)」という言葉が世界で広がりました。女性が働くことの多いサービス業などが大きな打撃を受けたためです。日本では、女性は働いている人の半分以上が非正規のため、正規雇用が8割を占める男性よりも失業や減収などの影響を受けやすく、深刻です。

背景には終身雇用や年功序列がまだ根強い中、出産・育児や夫の転勤などでいったん離職すると、希望の職業に戻るのは難しい現状があります。正規雇用でも、社内で十分に仕事の経験を積む機会が得られず、能力を発揮できずにいる女性もいます。そんな女性たちの再就職や転職、キャリアアップに役立てばと、リカレント(学び直し)の講座を開く大学が増えています。

京都女子大のリカレント

国宝・三十三間堂や京都国立博物館にほど近い、京都・東山の京都女子大を訪ねました。女性が高等教育を受ける機会が限られていた約100年前からの歴史があり、キャンパスに向かう坂道は、生き生きと通学する学生らへの憧れを込めて「女坂おんなざか」と呼ばれます。10月から来春までリカレント教育課程を4コース設け、20~60歳代の女性計64人が受講しています。同大学の卒業生に限定せず、専業主婦や正規、非正規で働く女性たちが対面やオンラインで、会計やIT、組織マネジメントなどビジネスで必要になるスキルを学んでいます。企業の説明会などもあり、就業支援も受けられます。

自らのキャリアを見つめ直す「ライフ・キャリアデザイン」という授業では、竹安栄子ひでこ学長が日本では男女の所得格差が大きいこと、高齢単身女性や母子家庭の所得が特に低いことをデータで示し、「所得を得るのは男性、家事・育児・介護は女性という性別役割分業が女性の貧困を生み出している」と説明しました。男女の格差の解消を進めて合計特殊出生率(女性が生涯に産む子供の推計数)も改善させた世界の先進国との違いを紹介し、こう呼びかけました。「仕方がないとあきらめて、今後も生きていきますか。みなさん方、一人ひとりのこれからの生き方が、この現状を変えることにつながるのです」

学びから得る自信

受講生はメモを取りながら、食い入るように聴いています。昨年離婚し、3人の子供を育てている女性(38)は、「しっかりと続けられる仕事に就きたいが、なかなか見つけられない。シングルマザーの家庭がどれだけ大変か、自分だけでなく、社会全体の問題だということが授業を聴いてわかった」と言います。

この女性は、大学を卒業してまもなく結婚し、自営業を手伝っていたといい、「妻や母としての役割を優先させるのが当たり前で、自分のキャリアをどうつくるかは考えてこなかった」と振り返ります。「社会復帰をする方法も、家庭と仕事を両立する方法もわからず、孤立感があった。外で働いていなかった期間が長くて自信がなかったが、ここに参加して、すごく応援されているという気持ちになった。来春から仕事を始められるよう、準備したい」と話していました。

京都女子大のリカレント
竹安学長の講義を聴くリカレント教育課程の受講生たち

リカレント教育課程は、竹安学長が特命副学長だった2018年度に開設しました。自身も研究者の夫との間に授かった2人の子供を育てながら、現代社会学部の教授を務めてきました。卒業生らの姿から、「社会で持てる力を生かせず、鬱々うつうつとしている女性たちがいる。学び直しを支援するのは女子大学の使命」と考えるようになったといいます。

当初は平日に通学する1コースでしたが、「働きながら学びたい」といった声を受け、土曜日やオンラインで学ぶコースも増やしました。「女性を人材とみなしてこなかったのは、日本社会の損失。必要なトレーニングをし、女性の力を活用しなければ、人口が減少していく日本は立ち行かなくなる」と竹安学長。半年間の学び直しで表情はがらりと変わるといい、コロナ禍の今春も、受講前は無職だった女性たちが次々に就職したそうです。

私たちは今、わずか2年前に想像もしていなかった暮らしを送っています。この先も読めません。最新の知識や考え方を身につけることは、そんな不確かな時代を生きる支えになります。自信を得て新たな挑戦に踏み出す女性が増えれば、特定の層へのしわ寄せを防ぎ、男性を含めた社会全体も強くするはずです。彼女たちの姿にエネルギーをもらい、すっかり前向きな気持ちになって、足取り軽く女坂を下りました。

いま気になっているモノ、ヒト、コトを取り上げ、時代や社会を読み解く「オピニオン」は、30代の俳優、タレント、起業家、スタイリストらが執筆しています。

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沢田泰子編集委員
沢田 泰子(さわだ・やすこ)
読売新聞大阪本社生活教育部・編集委員

1968年、大阪生まれ。91年に読売新聞大阪本社入社。福井支局、京都総局、大阪本社社会部、東京本社教育部を経て、2016年より現職。主に行政や教育分野を担当してきた。誰もがのびのびと力を発揮できる社会になるのが夢。女性を含むマイノリティーの生き様に日々、勇気づけられている。

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