中小企業も来年4月からパワハラ防止法の対象に 何をどう準備する?

職場のパワーハラスメントを防ぐことを企業に義務付ける改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)。来年4月からは企業の規模を問わず、中小企業も対象になります。働く人の心に深い傷を残すパワハラ被害については、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にも多数寄せられています。企業には何をどう準備することが求められているのでしょうか。

2020年6月に施行された同法は、職場のパワハラ防止のために「雇用管理上必要な措置を講じる」ことが事業主に義務づけられています。来年4月から企業の規模を問わなくなることで、中小企業の中には対策を迫られているところも少なくありません。

「何から手を付けていいかわからない」も多く

産業医や保健婦の紹介など、働く人の健康管理を企業から受託しているドクタートラスト(東京都渋谷区)では、来年4月の義務化を前に中小企業の担当者がどんなことに悩んでいるか調査しました。実施時期は8月から9月。同社のメールマガジンを通じて問いかけ、全国の113社から回答を得ました。

法改正について「概要だけ知っている」が39%で最も多く、続いて「内容も含めて知っている」(36%)、「あまり知らない」(18%)、「初めて知った」(7%)の順で、回答者の8割弱は知っていました。しかし、対策の準備状況については「ある程度準備は完了、または予定通り」(35%)、「すでに体制が整っている」(13%)と対策をしている企業は合わせて半数近くありますが、残りの企業は「何から手を付けたらいいかわからない」(23%)、「これから着手する予定」(22%)となっており、準備半ばというケースが少なからずあることがうかがえます。

ハラスメント対策の専門講師として、年間180日以上企業や自治体に研修をしているキャリアコンサルタントの山藤ざんとう祐子さんに企業の対応について話を聞きました。

山藤さんは、「ハラスメントは働く人の人生を狂わせ、企業を滅ぼします。企業の規模を問わず、法の対象となることは以前からわかっていることなので、企業としてまずは就業規則などにパワーハラスメントをした場合には懲罰の対象となる項目を入れるなど、パワハラを許さない姿勢なのだ、ということを明らかにすることから始めてほしいです。ほかにも、相談窓口の設置や、社内への周知など来年4月までにやるべきことは盛りだくさんです」と話します。

心に傷を残すパワハラの実態

「発言小町」には、職場でパワハラを受けたという投稿が少なくありません。

「パワハラの記憶から立ち直りたい」というタイトルで投稿したトピ主「ゆー」さんは30代の女性。臨時職員として働いていた以前の職場の様子をこんなふうに書いています。

上司が大声を出して相手を威嚇することが日常茶飯事。ターゲットにならないように、ビクビクしながら過ごす日々でした。30人ほどの部署で4年間に20人以上の人が辞めていきました。最後の1年間は完全に私がターゲットになり、人間関係の切り離し、アップデートされた仕事の仕方を聞いても教えない、他の部署の人がいる前で怒鳴どなりつけ、それを周りも一緒になって笑いたてるなど本当に散々でした。

職場でわらいものになる
画像はイメージです

幸い、「ゆー」さんの場合は、運よく転職。「もう過去のことだから……」と気持ちを切り替えようとしましたが、当時のことを思い出すたびに「悲しさや怒りがこみあげてくる」と言います。また、当時、職場には黙っていましたが、ストレスが原因だったのか、手の震えや不眠に悩み、心療内科で、軽い安定剤と睡眠薬を処方されていたと振り返ります。

山藤さんは、「この投稿を見る限りでは、上司側に日常的に大声を出すなどの行き過ぎた行動があったようですし、仕事の仕方を聞いても教えないなど、まさにハラスメントと思われても仕方ない面はありますね」と話します。

どんな要素があったらパワハラになるのか

山藤さんによると、パワハラとは、次の三つの要素すべてを満たすものを指します。

職場において行われる
<1>優越的な関係を背景とした言動
<2>業務上必要でなく、相当な範囲を超えたもの
<3>繰り返し行われることで、働く人の就業環境が害されているもの

「パワハラは、上司から部下だけではなく、同僚同士、あるいは部下から上司にも、起きる可能性はあります。ただ、こう話すと、『ちょっと叱られただけでも、最近の若者はパワハラって騒ぎだすから』と嘆く管理職の方もいますが、例えば部下に問題行動があったとき、上司は指導をしますよね。それはOKなんです。けれども、『君は新人以下だ』とか『やめちまえ』とか、暴言を吐いたり怒鳴りつけたりする必要が業務上どこまであるでしょうか。ダメ出しとその理由をはっきり言う必要はありますが、人格を傷つけるような発言までする必要はありません。やり過ぎになってはいけないんです」と山藤さんは話します。

正論を言えば「ロジハラ」(ロジックハラスメント)と言われ、精神的に打撃を与えれば「モラハラ」(モラルハラスメント)と言われることもあります。「現在の日本では、ロジハラやモラハラについては、法整備まではされていません。法律は、だれかの何かを守るために作られているものです。だから、いたずらに言葉を怖がるのではなく、法律を味方につけるつもりで、パワハラについて何を定めているかを職場で学び合いましょう」と山藤さん。

パワハラについて学び合えば、職場での「指導」を標準化させることもできると言います。逆に、そういう学びの機会のない企業では、いざパワハラ案件が起きると、問題を放置してしまい、社会的な信用を失ってしまうことにつながると言います。

また、法改正によって、職場でパワハラが起きたとき、企業は「迅速かつ適切な措置を講じること」「相談者のプライバシーを保護し、不利益な取り扱いをしないこと」が義務付けられました。山藤さんは「相談した人の評価を下げたり、異動や解雇の対象としたりすることは『不利益な取り扱い』として、違法性が問われます。また、当事者に問題行動をやめさせるためにも、社内の懲罰規定はあったほうがいいです。とにかく『私の常識はみんなの常識』という思い込みをいったん捨てて、時代に合った職場環境を整えていくことが大切だと思います」と強調します。

時間がたってからしか声を出すことができなかったトピ主さんのようなケースもあります。パワハラ被害をなくすために、いまどんなことができるのか。みんなで考えるしかないのかもしれません。

(読売新聞メディア局 永原香代子)

【紹介したトピ】
パワハラの記憶から立ち直りたい

ざんとうゆうこ さん
山藤祐子(ざんとう・ゆうこ)
ハラスメント対策専門家/キャリアコンサルタント

 1968年生まれ。ダイヤモンド・コンサルティングオフィス合同会社 代表、一般社団法人日本セルフエスティーム実践協会(JSEL) 理事。アパレル店長、ベンチャー企業取締役、人材派遣会社のコーディネーター、大手転職エージェントのキャリアアドバイザーなどを経て、同社を設立。年間180日以上、企業や自治体にハラスメント対策の研修を行っている。新人から管理職まで幅広いテーマの依頼が多い。近著に「トラブル回避のために知っておきたい ハラスメント言いかえ事典」(監修、朝日新聞出版)がある。

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