大西麻貴 建築で色んな世代が快適に過ごせる「理想郷」示したい

熊本地震震災ミュージアム(熊本県南阿蘇村)の設計を手がけるなど、注目を集める建築ユニットを同世代の夫と共同主宰する大西麻貴さん(38)。男性社会といえる建築界で頭角を現す気鋭の建築家だ。しなやかな感性とユニークな着眼点で、建築の新たな地平を切り ひら こうとしている。

吉川綾美撮影

転機は二つ

20代を振り返って大きな転機は二つあります。一つは、後に夫となる百田をパートナーとして共同設計を始めたことです。大学在学中に学生向けの建築コンペで一緒に応募したことがきっかけでした。1人で考えるタイプだったのですが、百田は周りを巻き込みながら楽しむタイプ。閉じた世界が広がりました。

もう一つは東日本大震災です。ちょうど社会人としてスタートした時期で、仮設住宅の一角に子どもの集会所を作るプロジェクトなどに携わりました。大学で学び、使ってきた「言語」が住民の方に通用しないという経験をしました。それまで自分の中の物語を形にする、私的な視点で建築を創っていたのですが、もっと対話しながら、地域に長く愛される建築を創ることを考えるようになりました。

建築ができていく過程は、本来祝祭的です。人を未来に向かって前向きにさせる力があると思います。最近の仕事では、地元設計事務所との共同企業体(JV)で共同設計している熊本地震震災ミュージアムの体験・展示施設があります。開場を2023年度内に控えています。雄大な阿蘇山を望み、周囲のランドスケープ(風景)と呼応した施設です。震災の記憶をつなぎ、災害は自然の恵みと隣り合わせであることを体感できる場になればと願っています。

仕事が生き方に

夫と一緒に仕事しているので、プライベートとの切れ目がなく、仕事そのものが生き方のようになっています。30代になってから、人間関係のつながりを、より実感できるようになりました。学生時代に参加した建築コンペで縁のあった施工会社さんには今でもサポートしていただいています。当時からの友人たちもそれぞれの分野で活躍していて、一緒に仕事する機会が増えました。人のつながりにすごく助けられています。

40代に向けては、今の時代の「理想郷」を提示してみたい。そう考えたのは祖母の死がきっかけです。病院や施設など生まれる時も死ぬ時も、人間の周囲には何がしかの建築、空間があります。人が最もたたえられるべき最期は、どういう場所で迎えるべきか。そうした発想から、色んな世代が無理なく、心地よく過ごせるモデルを創りたいと思いました。

今後、自分に子供ができるかもしれないし、できなかったら、他の方の子供を一緒に育ててもいい。介護も家族だけで解決せずに、プロの力を借りるなど仕組みと空間の両面から提案できることもあるはずです。そうした理想郷のプロジェクトに取り組んでみたいです。

◇ ◇ ◇

【取材後記】

答えにくいだろうことを、あえて聞いてみた。女性が比較的少ない職業だと、仕事の中身だけではなく、女性であることを強調されることがある。女性ならではの視点とか、正直どう思うか。

「男女というより、新たな価値観に向かうために、今の社会モデルを一度問い直してみる。そのために女性の視点に立ってみる、ということなのかな」

率直に、よどみなく答える姿が印象的だった。

キャリアを重ねながら仕事へのアプローチを柔軟に変える一方、一貫して小説からイメージを膨らませる手法を大切にしていると話してくれた。特に影響を受けたのが、実験的文体で知られる英女性作家バージニア・ウルフの「波」という。「建築にも『文体』がある。優れた建築家ほど、その人にしか持ち得ない文体を持っている」

自分ならではの文体を貪欲に模索しつつ、よりよい社会とは何かを提案する。そのバランス感覚が、大西さんがデザインする建築空間の心地よさにつながっているのだろう。

(読売新聞文化部 木村直子)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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大西 麻貴(おおにし・まき)
建築家

1983年、愛知県生まれ。2008年、夫の百田有希さんと共同主宰の「大西麻貴+百田有希/o+h」を設立。横浜国立大学大学院の客員准教授なども務める。

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