北沢里佳 飾るための洋古書、本の新しい魅力引き出す

東京・神保町の老舗洋古書専門店「北沢書店」4代目店主の北沢里佳さん(35)は、洋古書の装丁の美しさに着目した新しいビジネスで注目を集める。固定観念を覆し、「紙の本が売れない」とされる時代の先へと進む。

吉川綾美撮影

店の将来に不安

1902年(明治35年)創業の、英米文学を中心に扱う洋書専門店の長女として生まれました。学生時代は書店の仕事に興味が持てず、アパレル企業に就職。販売員を経験した後、店内装飾の業務に携わりました。仕事にのめり込み、実家からは足が遠のきました。

30歳の時、久々に帰ると、お店にはお客様も社員の姿も見えず、還暦を過ぎた両親だけでなんとか切り盛りしていました。繁盛していた頃の印象が強かっただけに、ショックでした。

今後のキャリアに悩んでいたこともあり、ここで何かできないかと考え始めました。個人がネットで海外から本を安く取り寄せられ、電子書籍も浸透している時代。伝統を守るだけではお客様は来ない。そこで目を付けたのが、洋古書の装丁の美しさでした。

陳列の工夫で残った服が売れた経験があり、本も見せ方次第で、一点物の服のような生き生きとした存在になるはずだと感じました。今あるものに別角度から光を当て、新しい価値を生み出したい、と。

装丁に着目

 

2016年、店の一角で、装飾用の本を販売し始めました。高額な本や仕入れたデザイン性の高い本を手頃な価格で並べたのです。

ネット通販やお店のインスタグラムも開設。雰囲気のある洋古書の写真を投稿しました。それが多くの人の目に留まり、インテリアコーディネーターなど、これまでの取引先とは違う層のお客様が増えました。

ただ、世間の風当たりは強く、「本は読むもの。飾り用だなんてとんでもない」と批判されました。落ち込むと同時に、どこか引け目に感じていたことを暴かれた、と思う自分もいました。

でも、利用してくれるお客様のおかげで、店は存続できている。洋書も文学もハードルが高いと思われがちな世界だからこそ、間口を広げておくことが大事。おかげで洋書を読んでくれる人も増え、自信がつきました。

企業広告やモデルルームの装飾など、法人からの発注も多いです。結婚式場ならハッピーエンドの物語を選ぶなど、空間に適した内容の本を納品。ネットで購入する個人のお客様には、本の概要を記した直筆メモを添えています。小道具屋と違う、書店ならではのこだわりです。

私自身も書店業界も今後、変化していくはずです。でも、人と違う視点で魅力を引き出す楽しさを忘れなければ、どんな変化も乗り越えられると信じています。

◇ ◇ ◇

【取材後記】北沢書店は、英米文学の研究者や大学教授らからも愛顧されてきた、由緒ある書店だ。「書店の娘って『おとなしいお嬢様』というイメージを持たれがちですが、私はそうじゃないかも」。時々冗談を言って笑わせたり、カメラの前でおどけたポーズを取ったり。北沢さん本人は明るく、堅苦しさを感じさせない。

店内のインテリアや書店のSNSからは、天性のセンスの良さを感じる。でも、話を聞けば聞くほど、この新たなビジネスが「おしゃれ」「SNS映え」だけを目的にしたものでないとわかる。どこに需要があるのか冷静に見極め、洋書や店のファンを確実に増やしているからだ。本の内容を吟味して納品するこだわりは、文学に対する誠意でもあると感じた。

「人生100年時代。30代なんてまだまだ新人です」と北沢さん。店頭に並ぶ洋書の内容について、勉強の毎日だという。店主の謙虚な姿勢も、店が愛される理由だろう。

(読売新聞生活部 福元理央)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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北沢 里佳(きたざわ・りか)
洋古書専門店「北沢書店」店主

1986年、東京生まれ。アパレル企業「シップス」勤務を経て、「キタザワ ディスプレー ブックス」を開始。専門古書店の団体「明治古典会」の経営員も務める。

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