「WHY(なぜ?)」と問いかけてくる上勝町のホテルに泊まる

「HOTEL WHY」。この夏、こんな名前のホテルに1泊した。徳島市内からバスで1時間、さらに地域の有償ボランティアの車に乗って30分ほど。山に囲まれた徳島県上勝町にある、わずか4部屋の小さな宿泊施設だ。

上勝町は2003年に日本で初めて、ゴミをゼロにする「ゼロ・ウェイスト宣言」をした町として知られる。人口は約1500人で、現在のリサイクル率は80%。20年には、ゼロ・ウェイストの拠点が誕生した。住民がゴミを持ち込んで自ら45種類に分別する場所や、不要になったけれどまだ使えるものを住民が持ち込み、使いたい人が持って帰るリユース推進拠点の「くるくるショップ」などがある。これらの施設に隣接した場所に、ホテルも建設された。

ホテルとはいっても通常とは異なり、驚くことばかり。チェックインの際、固形石けんを使う量だけ自分で切る。日頃自分がどれぐらい石けんを使っているかなんて考えたこともなかった。ホテルの人に教えてもらって、茶色っぽいチーズの塊のような石けんを厚さ5ミリぐらいにカット。

部屋で飲むお茶やコーヒーも、同様に受付で飲むであろう量をもらう。とりあえずドリップ用にひいてあるコーヒー豆2杯分、そして地元の阿波番茶の茶葉を3杯分をガラスの容器に入れてもらった。

メゾネットの部屋
シンプルで洗練されたデザインの室内

部屋はメゾネットになっていて、デザインはシンプルで洗練されている。実は、外装には住民が使わなくなった建具などが用いられ、室内にあるソファやテーブルはリサイクルされた材料でつくられた「アップサイクル」のもの。上の階に敷かれたデニムのパッチワークマットもおしゃれだ。

分別用のゴミ箱
分別用のゴミ箱

部屋の片隅には、おしゃれなカゴに入った容器が六つ。自分の出したゴミを6種類に分別し、チェックアウトの際、自らゴミ集積所に出していくためだという。

HOTEL WHY の朝食
地元の食材などを使った朝食が、近くのレストランから運ばれてくる

ホテルには飲食店も自販機もない。部屋には歯ブラシなどの使い捨てアメニティーもない。そしてテレビもない。鳥の声だけが響き渡る静けさの中で、運ばれてきた朝ご飯を食べたり、阿波番茶を飲んだりするのは格別の時間だった。こんな時間を過ごしたのはいつ以来だろうか。

これまで国内外のホテルにずいぶん宿泊してきた。ホテルの宿泊で味わえる「非日常」が楽しかったからだ。その「非日常」には、ふわふわのタオルをどんどん使うとか、アメニティーが使い捨てだったことも含まれていた。必要以上に使うことがぜいたくや豊かさと結びついていたのかもしれない。

一方、ここでは「捨てない」あるいは「無駄に使わない」ことがベースだ。ホテルの正式名称は「ゼロ・ウェイストアクションホテル HOTEL WHY」。私たちが体験することひとつひとつに、「WHY(なぜ)」という、ホテル名のようなクエスチョンマークがつく。つまり、無意識の日常行動に疑問を持ち、再考するきっかけとなっている。

(撮影=読売新聞・鈴木竜三) 

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宮智泉
宮智 泉(みやち・いずみ)
読売新聞東京本社・編集委員

1985年、読売新聞東京本社に入社。生活部長、編集局次長などを経て、2018年より現職。30年近く、女性や家族の問題、暮らしにまつわる記事を書き続けている。中でも、ファッションを通して世界の中の日本の立場やものづくりを追っている。著書に「服を作る-モードを超えて」(中央公論新社)。

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