スタイリストがインスタ駆使して気付いた、やっぱりアナログが好き

インスタグラムが日常の一部になってから、どれくらいたつのだろう。自分が始めた時期を確かめようと過去の投稿を遡っていくと、ちょうど10年前。恥ずかしさ満載のプライベートな写真ばかりだった。なんの有益性もない内容なので、最近知り合った方たちにはぜひ遡らないでいただきたいのだが、投稿を削除するのもなんだか悔しいのであえて残している。

かつては、投稿が自分の身近な友人以外に見られることなんてなかった。好きなことを自由にアップして、自分が楽しければよいと思っていた。かっこよくとか、おしゃれとか、意識したこともなかった。それがいつの間にか面識のないフォロワーが増え、発信自体が表現のひとつに変わった。最近は、仕事や、誰かから見られていることを意識しているものばかりになってきていると、過去の投稿を見ると気づく。そのせいか、ここ数年、自分でもあまり面白くなくなって、投稿数もぐんと減った。

親子の偶然のリンクコーデを投稿。入江さんのインスタグラムより 大手小町 
「足元アニマル親娘」。親子のリンクコーデを投稿。入江さんのインスタグラムより

インスタ経由でロンドンから仕事の依頼

こんなふうに言っておきながら、情報収集に大いに活用しているのも事実。新しいブランドを探すのはもちろん、スタイリングや撮影のヒントもインスタから得ることがある。モデルをキャスティング(起用)する時は、事務所の宣材写真があっても、個人のインスタは必ずチェックする。発信するものからわかるセンスや個性を見たいからだ。

発信の場が増えたことで、たとえコネがなくても活躍できるチャンスは広がったと思う。数年前だが、ロンドン在住のアートディレクターが私のインスタの作品を見てくれて、日本での撮影時のスタイリストとして指名してくれたことがあった。その方はヘアメイクアーティストやフォトグラファーもインスタで見つけていた。インスタで見いだされて、世界的に活躍するようになったデザイナーやモデルも続々登場している。

「インスタ映えファッション」などと呼ばれるように、服のトレンドにも影響を与えている。インフルエンサーたちの装いは、スマートフォンの小さな画面上で映えることが前提。パッと目をひく華やかな色使い、わかりやすいロゴ、キラキラつやつやのヒカリモノが多めだったり、誇張されたシルエットだったり、人気ブランドのアカウントをタグ付けして、アピールすることもマストだ。

SNS上でスピーディーにコミュニケーションが生まれるメリットがあるし、インフルエンサーたちは画面上の見せ方もうまいとは思う。ただ、そうしたインフルエンサーに実際に会うと、おしゃれだと思えなかったりすることもある。

リアルなショーならではの一体感、達成感

皆が自由に海外渡航しづらくなったこの1年余りで、ファッション界では「デジタル」と「フィジカル」という言葉が日常的に使われるようになった。オンライン上で行う「デジタル」ファッションショーと、リアルに観客を招いて見せる「フィジカル」なショーといった具合だ。8月末から9月初旬に開催された東京コレクションではデジタルショーのスタイリングを担当した。事前に収録してから配信するので、撮り直しができたり、見せたい部分をフォーカスして撮影することができたり、ライブではない分、時間をかけてきれいに服を見せられるという合理的な側面もある。だが、個人的にはやはり、フィジカルなショーが好きだ。スタイリングで関わるときの、デザイナー、モデルも含めスタッフが一発勝負の本番に向けて頑張る一体感はとても気持ちがいいし、達成感もひとしおだからだ。

コロナの前は、年に2回、フランスに渡航し、パリコレを見るのが私の中で大事なインプットの機会になっていた。日本にいてもオンライン配信されるショーをなぜ現地までわざわざ見にいくのかというと、やはり現場に行かないとわからない空気感があると思うから。会場の雰囲気や奥行き、体に響く音楽、空気や温度、集まる招待客からもインスピレーションを得られる。行くまでの道のりも含め、現場で感じるライブ感、高揚感、感動は記憶に刻み込まれる。

自分の感情と感覚を大事に

コロナ禍、ファッションと向き合ってたどり着いたのは、結局はアナログな考えだ。自分らしさがあって、すてきだなと感じるのは、全身、上から下までピカピカの最新アイテムでそろえているわけではないのに、センスが良くて今っぽく着こなす人だ。そんな人のアイデンティティーや好きなものはなんだろうとか、それをまとうまでのストーリーにも興味がわいてくるし、その人が注目している新しいモノも気になる。どこにもお手本がない、その人にしか生み出せないような独自の着こなしは、新たなスタイリングを考えるヒントにもなる。ただしインスタ上では、その味のようなセンスがなかなか見えづらい。

洋服をオンラインで買うことも増えたが、オンラインで買ったアイテムには愛着がわかなかったり、どうも自分の一部になっていないように感じたりする。実際に見て、触れて、買ったものには、店員さんとコミュニケーションする中で生まれた感情やアイデア、思い出が詰まっていることを再確認した。

オンライン上のスピード感ある情報を次々と追ったり、論理的に考えられたりできたら良かったけれど、私はそうではない。感覚で生きてきた人間だから、自分の感情と感覚を大事に、一つ一つ丁寧に仕事をしていくしかない。不特定多数に認められようと思うのはやめて、まずは自分自身、それから大好きな身近な人たちだけでもいいので、一生心に残る、感情に訴える物作りを目指したいと改めて考えている。

ほんの数年で、インスタでの発信もスタイリストの仕事の一部になった。新鮮さが求められるのがスタイリストの仕事だから、本当はもっと発信するべきなのだが、最近少しサボり気味。たまにはあげなきゃ、と頑張ってアップしている。

あわせて読みたい

入江陽子さん顔写真
入江 陽子(いりえ・ようこ)
スタイリスト

1985年、広島県生まれ。文化女子大学(現・文化学園大学)卒業。スタイリスト長瀬哲朗氏のアシスタントを経て2013年独立。「NYLON JAPAN」や「GINZA」、「装苑」などのファッション誌や広告、アーティストのスタイリングなどを手がけている。

入江さんのインスタグラム

Keywords 関連キーワードから探す