菊池操 若い女性向けにサポート付きシェアハウスが必要な理由

一般社団法人「アマヤドリ」代表理事の菊池操さん(38)は今年5月、神奈川県内で18歳~20歳代の女性向けサポート付きシェアハウスを始めた。虐待などから居場所を失った女性たちが新たな一歩を踏み出せる手助けをしたいとの思いからだ。

両親との不和

行き場のない女性たちのための家を作りたい――。そう思い続けてきたのは、私自身が子供の頃、両親とうまくいかず、自宅が落ち着ける場所ではなかったからです。

学校のテストも100点を取るのは当たり前で、1問でも間違うと怒られました。4人姉妹の長女ということもあり、厳しくされました。失敗が怖くなり、「自分には価値がない」と思うようになったのです。姉妹同士が仲良しだったのが、心の支えでした。

もう一つ、救いを感じたのは養護教諭の存在です。高校生の頃、登校しても教室に行かない「保健室登校」がニュースで取り上げられ、養護教諭に興味を持ちました。教室や家でない第三の場所で、子供たちの力になれたらと、養護教諭の養成課程がある大学に進学し、2007年に千葉県の小学校に赴任。子供たちの家庭の問題や人間関係の悩みと向き合いました。

吉川綾美撮影

ただ、子供たちは卒業していきます。解決のために継続的に力になりたいのに無力感が大きくなるばかり。6年間勤めて、退職しました。

しかし、その後も教え子らから相談が寄せられていました。さらに、昨年来のコロナ禍で、「親との時間が増えて自宅に居づらい」といった相談が来るようになり、今こそ夢を実現させようと、昨年12月、「アマヤドリ」を設立したのです。

今できることを

虐待の被害者は18歳を過ぎると、公的支援が少なくなると感じていました。一方、民間の支援を受けるには、親との連絡を絶つことなど、大きな決断が必要になる場合もあります。そこまでの決断は出来なくても、少し家族と離れて自分を見つめ直す「家」としてのシェアハウスを作ることにしました。

そのために神奈川県の起業支援プログラムに参加。知り合った仲間や趣旨に賛同してくれた人たちが相談に乗ってくれ、必要な家財道具も寄付してくれました。

シェアハウスでは入居者がスタッフと相談しながら、自立までのお金をためたり、適切な支援先を見つけたりするための仮住まいとして、最長2年間暮らせます。入居相談は40人以上から寄せられ、入居者もいます。

養護教諭やシェアハウス運営。何かをやりたいと思った時、いきなり将来へつながる太い線を描こうとせず、まずは今できる「点」を打ち続ければ、意外なところで、線になる。そう実感しつつ、「点」を打ち続けています。

◇ ◇ ◇

【取材後記】アマヤドリでは、女性たちに①小さな成功を重ねる②人に認められる③自分で決めたことをやるーーの3点ができるよう、定期的な面談などで支援する。中でも大切なのは③という。 誰かに言われたから、または他に選択肢がないからではなく、自分で決めて、挑戦する。それは例えどんな小さなことでも、自己肯定感へとつながる着実な一歩となるだろう。

取材時、菊池さんはアマヤドリの活動について「社会から求められる役割を、ちゃんと自分の意思で担っている気がするんです」と、充実した表情で語っていた。菊池さんが自ら切り開いた人生の足場は、今や他の人を支えられるほど強固になったのだ。 両親との関係は現在は良好で、孫である子供たちにも笑顔を向けているという。菊池さんの一歩が、周囲へも好影響を連鎖させたように思えた。(読売新聞地方部 高梨しのぶ)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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菊池操(きくち・みさお)
一般社団法人「アマヤドリ」代表理事

1983年、東京都生まれ。千葉大教育学部卒。千葉県内の小学校、東京都内の高校で養護教諭を務めた。2015年からは写真家としても活動し、18年に名取洋之助写真賞奨励賞受賞。

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