KADOKAWA 文庫の生まれる瞬間に立ち会う喜びと本とめぐる旅

自分らしく生き生きと働く女性たちが、ポジティブな気持ちになれたり、仕事の役に立ったりする「ハッピーアイテム」を紹介します。

らい礼美子あやみこ(26)
KADOKAWA
文芸・映像事業局 文芸統括部 角川文庫編集部

大分県の北東に、ぴょんと飛び出る国東くにさき半島。車がないとどこへも行けないような、小さな町で育ちました。幼稚園の頃から本当に本が好きで、隣町の図書館で20冊も借りて、その日のうちに読み切っちゃうくらい。本が唯一、外の世界を見せてくれるツールでした。作家になりたいと思ったこともあるのですが、書けなかった。本が生まれてくる瞬間に一番近くで立ち会える編集者になりました。

作家に「書いてください」もためらわず

漫画やテレビドラマで見るような、「締め切りが迫っているのに、作家さんと連絡がつかなくて家まで行く――」という経験は、今のところありません。作家さんも人間なので、書けないときは書けないと思います。でも、やはり作家には「書かないといけない瞬間」がある。そこで「書いてください!」と言うのは、編集者の仕事です。年上の作家に言うことも、ためらいません。

また、ドラマ化やメディアミックスの話になりそうなタイミングで、「今がこの作家さんにとって踏ん張りどき」という場合は、「早めに!」と急かすことも。そういうポイントを見極めるのも大切な仕事の一つです。

KADOKAWA編集者の耒礼美子さん

作家とは二人三脚

編集者は、ストーリーを考えるときから作家と関わります。「男性2人のバディもの」「和風シャーロック・ホームズ」「現代版の必殺仕事人をやりましょう」など、具体的なテーマでお願いをすることもあります。作品によっては、「二人三脚でやってきたなぁ」と感慨深くなります。

作家さんが今、「何を書きたいか」「どういうメッセージを伝えたいか」を聞きとり、「私はこうしたらよいと思う」と話し合いを重ね、なんとなく全体像が見えてきたら、プロット(物語の構想)をたてます。出版業界は本当に厳しい。人々に届きやすいと思われる要素を、作品作りの初期段階から入れないといけません。

作家さんのことはリスペクトしていますが、全て、作家さんの希望どおりに作ってうまくいくか、というと、そうではありません。いま、何が売れているのか、何が求められているのかを常に意識しています。

物語のような娯楽は、その時代の人々の欲望を映すものです。読者が求めているものを提供するのも大切です。最近、はやっていると言われるのは、ハッピーエンドでしょうか。現実がつらく厳しすぎるから、物語の中では幸せになりたい。恋愛系でも、一昔前の、「ライバル登場、ケンカして1回別れ、最後で仲直り」ではなく、最初から両思いで、幸せが担保されたものがブームになっている印象です。コロナ禍で、安心したい、幸せになりたいという思いを反映しているのかな、と思います。

一方で、読者が求めているものだけではなく、普遍的な何かを提供することも、大切だと思っています。

本は旅の友

本屋さんにはもちろん頻繁に行きます。文庫、コミックの棚をザーッと見て、単行本を見て、また文庫本を見て。仕事目線で棚を回ります。「この帯、キャッチコピーがうまいな」「装丁やポップが素敵」など、本の内容以外にも目を配ります。書店員さんが手書きしているポップもありますが、編集者が作っていることも多いんです。読書を仕事にしたので、本のあるところで、仕事目線から外れるということはもうできません。

サスペンス、恋愛、ホラー、何でも読みますが、小説ならば何でも好きです。今日は私にとって特別な2冊を持ってきました。1冊目は、子供の頃に読んだミラ・ローベ著の「リンゴの木の上のおばあさん」。私の本好きを加速させた一冊です。そして恩田陸さんの「麦の海に沈む果実」は、私にとってお守りのような存在です。中学2年の夏休みに、「暑いな」と思いながら縁側で読み始めたら、おもしろすぎて止まらなくなり、家の中の涼しい場所をふらふら探しながら、読みました。

これはどんなテンションでも読める本なので、旅行に行くときも必ず持って行くんです。あれ、2013年3月のディズニーランドの半券が挟まっていました。高校の修学旅行に持って行ったようです(笑)。しおりはレシートなど、近くにある紙切れを挟んでしまいます。

読んだ人の心に残り続ける作品を

7月から新たに導入された福利厚生制度で、サブスクリプション(定額料金でコンテンツやサービスを一定期間使えるサービス)の利用時に一定料金を補助してくれる「サブスク手当」が始まりました。ゲーム、ネットフリックス、アマゾンプライム……。サブスクリプションと呼ばれるサービスは、ほとんどが対象になっています。コロナ禍で始まった、本好きにはありがたい制度です。私は、コミック系、雑誌系の読み放題も利用しています。

何よりも本が好きなので、私は今後もずっと編集者でいたい。私が恩田さんの作品に出会ったように、読んだ人の心に残り続けるような、その人の人生ベスト10に入るような作品を作りたいです。

本が生まれてくる瞬間に一番近くで立ち会えるのは編集者です。0を1にする「生む」って本当にすごいことだと思います。私にとって本はなくてはならない存在なので、これからも本が誕生する瞬間に立ち会い、本の世界に少しでも寄与できたらうれしいです。

(読売新聞メディア局 渡辺友理)

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