山本芙由美 LGBTQのろう者支援で性の多様性を手話に取り入れる

生まれつき耳が聞こえないろう者で、LGBTQ(性的少数者)でもある山本芙由美さん(39)は、LGBTQのろう者を支援する団体の代表として、性の多様性に対応した手話の開発や啓発に取り組み、誰も疎外されない社会を目指す。

「ろうLGBTQ」

私も両親もろう者で、手話は第一言語です。自分がLGBTQと自覚したのは高校生の頃でした。

ろうLGBTQという「二重のマイノリティー(少数者)」は当時、社会に全く認知されておらず、情報が少ない中で当事者たちは孤立していました。親に拒絶され、苦しみ、自殺した友人もいました。

日本の手話は男女二元論が前提で、多様な性のあり方を表現するのは困難でした。「おかま」といった差別的な手話表現や、社会の偏見・誤解もあります。

宇那木健一撮影

私自身は女性で、恋愛対象は性を選びませんが、見た目で性を判断されたり、手話で結婚が男女を合わせる表現などに抵抗がありました。トランスジェンダーの知人が性別適合手術を受けたり、裁判所などで性別変更手続きをしたりするときも話が通じにくくて大変でした。20代は銀行で働いていましたが、そうした葛藤は常にありました。

社会全体の課題

転機は2014年。32歳の時、ろうLGBTQの仲間たちと協力して、性的少数者を示す手話表現を考案し、冊子にまとめました。反響は大きく、「こんなのが欲しかった」という声を聞いて、「社会にろうLGBTQを可視化させよう」と決意したのです。

それからは駆け足でした。同年に「Deaf LGBTQ Center」を設立し、活動のため、仕事も退職。かなりの覚悟でしたが、「自分のことは自分で決める。お金も何とかなる」という気持ちでした。

33歳から日本財団の支援で米国に2年間留学。世界で唯一のろう者の総合大学であるギャロデット大学などで、多様な性のあり方や価値観について専門的に学びました。帰国後は、性の多様性の表現や知識、手話通訳者向けの情報をさらに充実させた手話の冊子発行や講演活動、当事者間の連携支援を行っています。

20代は、問題意識や目的を見つけるまでの学びと吸収の時代。30代の10年間はその実践だったと思います。

差別や 誹謗ひぼう 中傷も受けます。「あなたたちのような人がいるから子どもが増えない」といった声が寄せられ、カミソリ入りの手紙が届いたこともありました。傷ついて、やめようと思ったことも何度もあります。それでも怒りをエネルギーに変え、「(ろうLGBTQとしての)自分の問題は、社会にとっての問題でもある」と信じてやってきました。

現在、東南アジアや米国などの当事者と連携を始めており、将来は世界に広げたいと思っています。「誰も疎外されない社会を作りたい」。それが願いです。

◇ ◇ ◇

【取材後記】今回初めて、手話通訳を介した取材を経験した。複雑なテーマだけに「どこまで通じるだろう」という取材前の不安は、杞憂だった。手話通訳の方が私の質問を耳で聞きながら、同時に手話で山本さんに伝え、ほぼリアルタイムの会話で取材が進む。口や音、顔の表情も使う豊かなコミュニケーションだった事も驚きだった。山本さんが取り組んできた新たな手話表現や、ろうLGBTQについての活動の成果を身をもって感じる事ができたと思う。「二重のマイノリティー」でさらに、子どものころからのリウマチで思ったように体を動かせないという山本さん。それだけに、目的を見つけた時の覚悟、「駆け抜けた30代」の強さと行動力に、私も遅まきながら力をもらった。願いでもある、「誰もが疎外されない社会」は、つまるところ、私たち自身も疎外されず、また私たちが誰もを疎外しない社会だと思う。山本さんから投げかけられたメッセージとして、胸に刻みたい。(読売新聞科学部 井上亜希子)

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山本芙由美(やまもと・ふゆみ)

1981年、京都市出まれ。「Deaf LGBTQ Center」(本部・神戸市)代表。児童指導員としてろうの子どもを支援する傍ら、ろうLGBTQの支援啓発活動を行っている。

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