ESGは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の頭文字。財務情報だけでなく、地球温暖化対策や女性の活躍推進などの取り組みを重視する投資をESG投資という。2006年に国連が提唱し、広がっている。
共同設立者の村上由美子さんと関美和さんは、金融業界で共に苦労してきた二十数年来の友人です。3人は生まれた年も月も一緒なんです。村上さんはゴールドマン・サックスなどを経て、OECD(経済協力開発機構)東京センターの所長を務めました。翻訳家でもある関さんは、米金融機関の東京支店長などを経験しています。3人とも多様性や企業統治について早くから着目し、経験も知見も豊富です。

2年ほど前に村上さんから提案があり、ファンド設立を考えました。人生100年時代ですから、長年サラリーマンとして学んだことを生かし、次のステージでは自分で何かやってみたいと、決意しました。
「大企業でもESGは浸透していないのに時期尚早なのでは」という声もありました。ただ、大企業が簡単には変われないことは、これまでの経験でわかっています。次世代の起業家のビジネスにESGを組み込んでいく方が、我々には面白い。何より、日本の未来に貢献したいと思いました。
気候変動のリスクは、誰もが実感しています。考え方の多様化の推進、デジタル化に伴う個人情報保護やサプライチェーン(供給網)なども含めたチェック態勢、労働環境の改善――。政府も脱炭素社会に向けた政策を打ち出すなど、ESGはますます重要になります。
ESGが言葉だけではなく、ビジネス戦略のコアな部分になっていなければ、意味がありません。ビジネス自体にポテンシャルがあり、成長可能性の高い起業家をサポートしながら実践していきたい。
国内のベンチャー企業への投資は拡大し、人材の流れも変わりつつあります。大企業で一生働くのではなく、もっとダイナミックな組織に行きたいという若者が増えています。社会への影響や会社を動かす使命が大事になっているのです。
女性リーダー、投資家という可能性
ファンド設立の反響は大きく、多くの起業家から相談を受けています。あらゆる分野や市場の事情が聞けて、とても楽しく、毎日が勉強です。すでに投資も行っています。
新興企業のESGに対する取り組みが高い収益をもたらすことを証明して、日本や世界のムーブメントにしたい。経営にESGを組み込むことの“標準”というのがまだ存在していないので、その研究もしていけたら。大げさだけど、そうでなければ意味がない。とてもワクワクしています。
ほかにも、女性の社外取締役候補の紹介や就任を驚くほど頼まれます。米ナスダック市場が、上場企業の取締役に女性と障害者やLGBTQといったマイノリティーを入れるよう求めるなど、役員構成は必ず問われますから当然です。小さな組織ながら、私たちは人材ネットワークや育成のノウハウも持っています。日本の経済分野での女性リーダーを育てることにつながれば。
そして、私たちの挑戦によって、女性も投資家になれるという可能性を示したかった。世界を見渡しても女性のベンチャー投資家は少ないですから、面白いことができるというメッセージを送りたい。アイデアと熱意のある女性や障害のある人たちにも起業してほしいし、サポートしていきたいと思います。(大手小町編集長 小坂佳子)
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ESG投資と女性活躍
投資に際して、女性の活躍推進も重要な指標の一つになっている。内閣府が2020年度に行った調査研究で、234の機関投資家などにアンケートを行ったところ、55.4%が女性活躍の情報を投資判断に活用していると回答した。活用する理由として最も多かったのは、「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」で88.7%に上った。最も重視している情報は「女性役員比率」(35.7%)だった。