超カワイイ!悔しいはずの銀メダルを愛でる仕草に五輪の醍醐味

「生まれはロシア、育ちは関西、舞台は東京! ピロシキーズです」
これは僕のYouTubeのオープニングで使っている掛け声だ。関西育ちのロシア人として生きていると、五輪の時期に少し困ったことがある。

それは「(日本とロシアがぶつかる場合)日本とロシアどっちを応援するの?」という質問だ。この質問は日本人だけではなく、ロシア人からもよく聞かれる。もっとも今回ロシアは、国の代表ではなく、ロシア・オリンピック委員会(ROC)という形での参加ではあるのだが。

初めて二者択一を迫られたのは僕が10歳の頃、サッカー日韓ワールドカップ(2002年)の日本対ロシア戦のときだった。その試合の注目度は高く、10回以上はこの質問をされたと思う。あの頃は、ワールドカップとは何かが分からないレベルでサッカーに興味がなかったのだが、それが幸いだったかもしれない。僕は「サッカー見ないから分からない」と答えていたし、実際試合は見なかった。

「深く考えることないだろ。本音を言えよ」と言われるかもしれないが、これは日本育ちの外国人にとってはどうしても、悩まずにはいられない難問だ。だって「お前の本質的な心はどこにあるんだ?」とか「お前は敵なのか味方なのか?」という意味合いと同じと感じてしまうからだ。「日本」と答えれば家族や親戚に顔向けできなくなるし、「ロシア」と言ったら育った国を裏切ることになる。

この手の質問に、今は答え方を用意している。その質問をした相手が日本人であれば「日本」と答え、ロシア人であれば「ロシア」と答えるのだ。相手が気持ちの良いであろう回答をすることで、自分の好感度を維持することだけを考えるズルさを覚えたわけだ。

ロシアのおじいちゃんから「おめでとう!」

そもそもスポーツを応援する心理とはなんなのだろう。見ず知らずの誰が勝とうが負けようが、自分に何か利益になることはない。にもかかわらず、五輪や国際大会で自分の国が優勝すると、我らこそが優秀だと国威を発揚する人が少なくないように感じる。ロシアの組織的ドーピング問題は、応援する側を含めて、ややゆがんだナショナリズムがあったからではないだろうか。

日本に20年以上住んでいると、ロシア人がいくら金メダルをとろうが、ロシアの国際的な地位や評価が上がることはないというのがよく分かる。その逆もしかりだ。なのに、なんで「ロシア!ロシア!」「ニッポン!ニッポン!」と目を充血させながら応援するのだろう? 理解できない自分の心の狭さに少し寂しい気持ちすら湧き起こる。

体操の男子団体総合はわずかな差でROCが金メダル、日本が銀メダルを取った。リオデジャネイロ五輪に続き、日本の連覇を期待して注目していた人も多いのではないだろうか。

「ブラス君、ロシア金だったよ!おめでとう!」というメッセージがいくつか届いた。なんと返せばいいのだろう? なんの努力もしていないし、試合すら見ていなかった僕が「ありがとうございます」と返すわけにもいかない。メッセージにはなんの悪気もないし、コミュニケーションの一つということもよく分かる。だから余計に返事に困ってしまう。強いて言うならば「僕のことを気にかけてくれて、ありがとう」かな。

ちなみに先日、ロシアに住むおじいちゃんからも電話で、「おいブラス、日本がめちゃくちゃメダルを取ってるな。日本人がんばってるぞ、おめでとう!」と祝福された。おじいちゃん、僕の手柄ではないから、日本のみんなに一応伝えておくよ。

スポーツに国を背負わせて競い合うことで、熱狂や感動を生む一方、行き場のない嫌悪や憎しみが、SNSによるアスリートへの誹謗中傷となって表れている。金メダリストへ非難や嫌がらせの言葉を投げ、敗退した選手を人格否定したりするケースもあるという。そんなことに何の意味もないのだから、どうか冷静になってほしい。

表彰式で銀メダルをほおずり

全米女子オープンで優勝したゴルフの笹生優花がフィリピン代表だったり、米国育ちの大坂なおみが日本代表として出場したり、名前を聞いただけでは日本代表とは想像できない選手だっている。選手のバックグラウンドが複雑になってきて、国籍の意味が曖昧になってきているとも言えるかもしれない。

こんなふうに、五輪そのものを否定するようなことばかり言っていると、日本のメダルラッシュに水を差すようで嫌なやつだと思われるかもしれないが、国という枠組みにこだわらない人が増えてきているのは事実だと思う。将来、国際的なスポーツイベントがどのような変化を見せていくのか僕は楽しみだ。国を背負って競い合う仕組みが衰退するのか、もしくは新しい応援の仕方ができるのか。

とはいえ、東京五輪にまったく関心がないかと言われるとそんなことはない。めちゃくちゃ楽しんでいる。例えば、柔道男子60キロ級、日本の高藤直寿選手と台湾の楊勇緯選手の決勝は最高だった。

東京オリンピック柔道男子60キロ級で決勝を戦った高藤直寿選手と台湾の楊勇緯選手
柔道男子60キロ級決勝で戦った高藤直寿選手(右)と台湾の楊勇緯選手(日本武道館で、竹田津敦史撮影)

楊選手が指導3つを受けて高藤選手が金に輝いたのだが、目を引いたのは試合内容ではなく、表彰台での選手の立ち振る舞いだ。延長の末、指導で負けてしまった楊選手の悔しさときたら想像に難くない。東京オリンピック柔道男子60キロ級で銀メダルを獲得した台湾の楊勇緯選手

にもかかわらず、銀メダルを首にかけた楊選手は、両目を閉じて愛おしそうに銀メダルをほおずりしていたのだ。超カワイイ! その時どんな気持ちなのだろうと考えると、本当にいいシーンだと思った。これこそが、五輪の醍醐味なのではないだろうか。

多くの競技で、試合後にたたえ合う選手たちの姿があった。ソフトボールの日本対メキシコ戦では、ファウルチップに直撃した球審が倒れると、日本選手たちがすかさず駆けつけて介抱。陸上男子800メートル準決勝では、もつれあって転倒したアメリカとボツワナの選手2人が声を掛け合い並んでゴールした。

競技そのものより、ふとした選手の仕草や表情に垣間見える人間性こそが見ていて楽しい。そこに国境はないのだ。どの国に所属していようが、どのコミュニティーの出身であろうが、ズルをすることなく、努力を重ね、徳を積んできた人が、いい成果を得られますように。がんばれ!アスリート!

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小原ブラス顔写真
小原 ブラス(こばら・ぶらす)
タレント・コラムニスト

1992年、ロシア・ハバロフスク生まれ。6歳から兵庫県姫路市で育つ。「見た目はロシア人、中身は関西人」として、テレビのバラエティー番組やYouTubeで「ピロシキーズ」として活躍。コテコテの関西弁で政治や社会問題を鋭く斬るコメントで注目を集める。コラムニストとして様々な媒体で執筆、ロシア人の目から見た日本の疑問点や違和感を率直につづる。

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