中村寛子 フェムテックで体の悩み共有し、価値観を変えたい

女性の健康を技術で支える「フェムテック」は成長著しい注目の分野だ。関連商品の販売や企業支援などを行う「フェルマータ」の共同創業者、中村寛子さん(37)は、タブー視されがちな女性の体の悩みや課題を共有しあえることを目指す。

生理痛は我慢?

学生時代、重い生理痛に悩まされていました。イギリスの大学に留学中、冷や汗をかきながら苦しんでいると、ホームステイ先の家族に「なんでピルを飲まないの」と言われ、初めて低用量ピルを知りました。生理痛は我慢するものと思っていただけに、飲み始めてから生活の質が格段に上がり、衝撃を受けました。

吉川綾美撮影

卒業後に帰国し、デジタルマーケティングの企業に就職しました。生理痛でピルが必要になっても、日本では処方が基本です。昼休みにタクシーを飛ばしたり、有休を取ったり。仕方がないと思いつつ、「もっと気軽に買えないものか」と疑問を持ちました。

31歳で会社を退職しました。20代は始発で出社して終電で帰るような無理もしたためか、疲労が蓄積し、倒れてしまったのです。

それから1年間休養し、2018年に始めたのが、多様な視点で社会の課題をとらえ、対話を深めて未来のビジネスを考えるプロジェクト「マッシングアップ」です。

価値観変える

自分の経験から取り上げたかったテーマの一つが女性の健康です。生理や妊娠、更年期など自分の体にもかかわらず、話せる場が少ないからです。また、女性の活躍推進と言われながら、女性の健康が無視されていることも実感しました。

以前から同じ問題意識を持つ友人の杉本亜美奈さんと何かできないかと、19年フェムテックについて勉強しました。調べてみると、女性が我慢していた健康課題を解決してくれるフェムテック商品が米国などで多く開発されているのに、アジアにほとんど入っていない。言語や薬事承認の壁もあるけれど、一番は価値観にあると思いました。

当初、商品を開発するつもりでしたが、まず海外の商品を紹介しながらアジアのフェムテック市場を育てることに切り替え、10日間で事業計画書を作成。杉本さんと会社を設立しました。

昨春、フェムテック商品専門のオンラインストアを作り、吸水ショーツや月経カップなどの販売を開始。東京・六本木に店舗も構え、商品に触れられるようにしました。

少なくとも日本で、フェムテックには女性の心身にまつわる価値観を変えていくムーブメントという重要な側面もあると思っています。そして女性のみならず、個々の問題に向き合い、体を知るきっかけとなる産業に育つと信じています。誰もが生きやすい社会を目指していきたいです。

◇ ◇ ◇

【取材後記】中村さんがかつて経験したことや感じた疑問は、多くの働く女性が一度は経験したことがあるものかと思う。我慢して自分の健康をないがしろにしてしまったり、キャリア形成とライフステージがかみ合わなくて悩んだり――。しかも、こうした課題は、女性同士であっても、なかなか他の人とは共有しにくい。

同じ働く女性としてフェムテックの必要性を訴える中村さんの姿に、声を上げてもいいんだと気づきをもらえる人は多いはず。

フェムテックの切り口は女性の健康問題の解消だけれど、目指すところは、性別に関係なく、個々が抱える問題に焦点が当てられるようになること。そして個々が認められる社会になることだと、中村さんから教えてもらった気がする。社会の多様性につながっていく産業だと分かり、中村さんとフェムテックのさらなる成長に期待したいと思った。(読売新聞教育部 金来ひろみ)

「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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中村 寛子(なかむら・ひろこ)
フェルマータCCO

1984年、千葉県生まれ。イギリスの大学卒業後に帰国し、デジタルマーケティング企業に入社。2019年、杉本亜美奈さんと「フェルマータ」を設立。法人営業やイベントの企画運営を統括する。

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