ファッション記者が考える、捨てる服と捨てられない服の間

黒のジャケットに合わせた、真っ赤なタータンチェックの細身のパンツに目を奪われて、思わず「かっこいいですね」という言葉が口をついた。

ファッションデザイナーの高田賢三さんがフランスから帰国した際に、インタビューしたときのことだ。当時、高田さんは79歳。にっこり笑いながら、買ったのは1980年代だということや、気に入っていたので捨てずにサイズも直してはき続けていることを教えてくれた。

高田賢三
インタビューに答える高田賢三さん(2018年10月22日撮影)

高田さんは昨年、新型コロナウイルスに感染し、他界した。残念でならないが、あのときの装いが目に焼き付いている。いいデザインは、時代を経ても色あせない。そして、時代の空気や自分の体形、気分に合わせて着こなしているからこそ、服がその人を引き立てる。そんな着こなしを、その人の「スタイル」と呼ぶのかもしれない。

ゴミかリサイクルか

服の大量生産、大量廃棄が問題になって久しい。リサイクルの機運が高まり、横浜市にある繊維リサイクルの工場を訪ねたときには、まだ着られるのにリサイクルに出された服が天井に届くほどうずたかく積み上げられていた。そのまま海外に輸出されるか、ウエス(雑巾)などの製品に加工される。多い時には1日に100トンもの衣類が運び込まれるという。

これだけ多くの服がリサイクルされているのに、実際には捨てられる服の方が多いのだという。環境省の調査では、いらなくなった服をゴミとして処分する人が68%にのぼり、古着として売った人は11%、地域や店頭での回収に出した人は11%だった。

それでも、人には捨てられない服や大事にしている服がある。

破れたヨットパーカや、穴のあいたカーディガン……。2014年にアメリカで出版されてベストセラーになった「Worn Stories」(エミリー・スピヴァック著)では、60人余りのアーティストやデザイナーたちが「大事にしている一枚の服」について語る。服と着る人の人生が交錯する。ちょうど、本がベースになったドキュメンタリー番組「ぬくもり物語」として、今年4月からネットフリックスで配信されている。

自分にとっての捨てられない服とは何だろう。

例えば、胸元に大学名の入ったネイビーのヨットパーカ。色はあせ、よれよれになっているが、時々出しては着る。12年前、カリフォルニア大学バークレー校の大学院に半年間派遣されたときに、大学の売店で買ったものだ。学生たちを始め文化や国籍の異なる多くの人たちと出会い、それまでの価値観が大きく変わった場所だ。

ファッションは移りゆくものだが、服は着る人の歴史や生き方、アイデンティティーをも表す。大切な一着がきっと誰にでもあるし、そういう服のある人生はきっと豊かに違いない。

あわせて読みたい

宮智泉
宮智 泉(みやち・いずみ)
読売新聞東京本社・編集委員

1985年、読売新聞東京本社に入社。生活部長、編集局次長などを経て、2018年より現職。30年近く、女性や家族の問題、暮らしにまつわる記事を書き続けている。中でも、ファッションを通して世界の中の日本の立場やものづくりを追っている。著書に「服を作る-モードを超えて」(中央公論新社)。

Keywords 関連キーワードから探す