なぜ上司が褒めれば褒めるほど部下の心が折れるのか?

褒め殺しという言葉もありますが、ダメな褒め方は、部下のやる気を損ね、職場の士気低下につながります。職場のコミュニケーションに詳しい公認心理師でメンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さんに、正しい褒め方を聞きました。

それ、本当に褒めてる?

「褒められているはずなのに、メンタルを削られる」――。読売新聞の掲示板サイト「発言小町」にこんな投稿がありました。トピ主「さこ」さんは、褒め方の下手な上司に心が折れそうになっていると訴えます。

「この仕事は目立たないし評価もされないけど、君たちはやっていて偉い」
「自分だったら絶対やりたくない仕事だけど、それを楽しんでやっている君は偉い」

このように、上司の褒め方は「~なのに、偉い」「~だけど、すごい」といった言い回しが目立ちます。悪気はないようですが、この余計な一言が「つもりに積もるとメンタルが削られる」と言うのです。

『職場がイキイキと動き出す 課長の「ほめ方」の教科書』の著書がある船見さんは、「『私だったらやりたくない』というのは、仕事内容そのものに敬意がなく、相手をバカにしています。どんなに褒め言葉を並べても、その気持ちはまったく伝わりません」と指摘します。

正しく褒めればみんながハッピー

船見さんによると、職場の士気を高め、人間関係を円滑にする褒め方には秘訣ひけつがあるといいます。正しい褒め方を教えてもらいました。

〈1〉相手の価値観に合わせ、私を主語に

✕「子育てしているのに、フルタイムで働くなんてすごいね」
〇「子育てしながらフルタイムで働くって大変だと思うけれど、その姿に私はすごく勇気づけられるよ」

「~なのにすごいね」の言い回しは、褒める側の価値観で評価されているような印象があり、相手に違和感を与えかねません。子育てをしながら働く女性をねぎらう意図なのかもしれませんが、「本当は働きたくないけれど、働かざるを得ない状況」だとしたら、嫌みと受け取られてしまいます。

褒めるときに心がけたいのは、「Youメッセージ」を「Iメッセージ」に変えることです。「私」を主語にすることで、褒められたほうは自分が誰かの力になっていると感じます。逆に、「Youメッセージ」の「あなたはすごい」は上から目線と感じられ、反発を招く可能性があります。

<2> 褒める内容を具体的に

✕「あなたはまじめだよね」
〇「きっちり作業をこなすところ、とても尊敬しています」

褒めるときのポイントは、評価する内容を具体的に言うことです。一見、ポジティブと思われる「まじめ」という言葉でも、「バカにされた」と感じる人もいます。

大切なのは「なぜ、まじめと思ったのか」を伝えることです。「あなたは仕事に責任感を持って向き合っているよね」と言えば、バカにされているなんて思う人はいないはずです。

結果のみを評価するのではなく、プロセスについて評価することも大切です。部分的であっても認めていることを、丁寧に言い表すことで、相手は「これで良かったんだ。間違ってなかったんだ」と自分自身を肯定することができます。

<3> 最上級の褒め言葉を、時々、ズバッと

✕「いつも仕事を手伝ってくれて、教えてくれて、助けてくれて、ありがとう」
〇「いつもありがとう。信頼しています」

最上級の称賛とは、一体どのようにすればいいのでしょう?
「部下には『何も褒めるところがない』なんて言う管理職も珍しくありません」。船見さんは上司の問題点を挙げ、「部下は毎日きちんと会社に来ていますね。それだけで実はすごいことなんじゃないですか」と、当たり前と思われる行為や存在に対するリスペクトを求めます。

長々と褒め言葉を並べるのは、わざとらしく聞こえます。一言でズバッとがおすすめです。船見さんの経験でも、普段、ほとんど褒め言葉を口にしない人から、「いつもありがとう。信頼しています」と書かれた年賀状が届き、存在そのものを認められたようで、うれしかったと振り返ります。最上級の称賛は、相手を無条件で肯定することです。

正しい褒め方で社員の意欲がアップするイメージの写真
写真はイメージです

リモート会議でも褒め上手

「認めてくれる人に対して、人は信頼感を持とうとするもの。褒め合うことができている職場は、人間関係が円滑になり、会話が増えることで相談や連携がスムーズに行われ、生産性向上につながります」と船見さん。コミュニケーション不足が懸念されるコロナ禍での在宅勤務やリモート会議などで、「誰かが発言しているときは、大きくうなずいたり、笑顔で反応したりすることを心がけて」とアドバイスします。

褒め上手になる最大の秘訣は、他人のプラスの側面を見つけられる目を持つこと。船見さんは「ポジティブな言葉や表情を積極的に使うことで、自分自身の気持ちも上向きになり、みんながハッピーな職場になるはずです」と褒め方のスキルアップ効果を強調します。

(読売新聞メディア局 渡辺友理)

【紹介したトピ】
褒め下手な人にメンタルを削られます

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船見 敏子 (ふなみ・としこ)
メンタルヘルス・コンサルタント

公認心理師、キャリアコンサルタント、ハピネスワーキング代表。角川書店で雑誌編集に携わった後、フリーライターとして独立。その後、産業カウンセラー、キャリア・コンサルタントの資格を取得し、2005年から現職。著書に『職場がイキイキと動き出す 課長のほめ方の教科書』(左右社)など。

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