トヨタが目指す「幸せの量産」と「モモ」に学ぶ命の時間  

企業の役員や代表として道を切り開いてきた女性たちが、自身のキャリアを支えた本を紹介し、20~30代の働く女性たちにエールを送ります。今回は、トヨタ自動車の執行役員、大塚友美さんです。

自動車メーカーからモビリティーカンパニーへとビジネスモデルの転換を図るトヨタ自動車。大塚さんは、2020年2月よりサステナビリティーへの取り組みを担当、今年6月に執行役員・チーフサステナビリティーオフィサーに就任しました。コロナ禍にミヒャエル・エンデの「モモ」を読み返し、「時間」との向き合い方を見つめ直しています。

新しい役職が目指すもの

――担当されている仕事の内容を教えてください。

トヨタは2020年に「幸せの量産」をミッションに掲げました。長年、世のため人のために何ができるかを志向してやってきたわけですが、それを「SDGs」という世界の共通言語でしっかり社会にお伝えしていくのが、私の役割です。

――SDGsといっても、何をどうすればいいのか、わかりにくいところがあります。

例えば、トヨタでは、福祉車両のエンジニアたちの取り組みがあります。利用者の声を聞きながら作るのですが、高齢者の話を聞くと、地方で移動の手段がなかったり、送迎を頼める家族がいなかったりします。車を作っても問題が解決しないとわかり、エンジニアたちは、過疎地でボランティアの人が中心になって送迎する仕組みを作ったんです。モビリティーカンパニーになるって、幸せの量産って、そういうことなんだと思います。困っている人にソリューション(解決策)をお渡しするのが、私たちのミッション。そう考えると、車を作るまでが仕事と思っていたのが、そこで終わらない。どれくらい大変かということは考えず、助けになるものは何でも取り入れていく。だから、SDGsの課題解決に取り組むことで、モビリティーカンパニーに変わっていくことができると確信します。

――今、具体的にどんなことに取り組んでいますか。

社員一人一人がSDGsに貢献する活動をするよう推進しています。社内でLGBTへの認知・理解を広げる活動をしたり、家族でフードロスに関する講座を受講して食べ物の大切さを子供に教えたり。ビジネスマンとしてだけでなく、一個人として社会課題に対して行動を起こそうというものです。

――大きい組織で、会社のフィロソフィー(哲学)を浸透させるのは大変なのでは。

トヨタがやろうとしていることが、会社の外から、もしかすると会社の中にいても、わかりづらくなってきているかもしれないと考え、2019年に「トヨタイムズ」というオウンドメディア(自社媒体)をスタートさせ、わかりやすく伝える努力もしています。コロナによってオンラインでの会議が日常的になったことで、グローバルなメンバーにも直接伝えることができるようになりました。意思疎通の方法が変わり、改革のスピードアップができていると感じています。

 物語の持つ力に魅せられて

――トヨタに入社したのは、車が好きだったからですか。

大の車好きというわけではなかったのですが、物語が好きで、車の企画をしたいと思っていました。車の企画は物語を紡ぐようなものだと思っていたので。願いがかなって、初代ヴィッツの企画を担当しました。それまでの安くて運転しやすいという従来のコンパクトカーとは異なる路線を目指しました。知的な女性が自分の行動範囲を広げ、自由に楽しく生活する。コンパクトでありながら存在感あるデザインの車に乗り、満足を味わう。そんな想像をしながら進めました。グループインタビューを重ね、多くの女性ユーザーから自分と車の物語を聞いたことも助けになりました。

トヨタ自動車、大塚友美執行役員

――数ある物語のなかでも、「モモ」は大好きな一冊だそうですね。

物語性が面白くて、子供の頃から好きでした。昨年、改めて読んだら、自分の生き方を考えるきっかけになりました。仕事でのメールの処理やミーティング、母の介護であれもこれも片付けなくちゃというときと、頑張っている人の話を心を打たれながら聞いているときや母と何げない会話をしているときとでは、時間の流れ方が全然違います。片方の時間の流れの中だけで生きるのは難しい。だから、二つの時間を行ったり来たりするのを自分で意識しながら、大切な時間の使い方、心の使い方をして生きていきたい。

――コロナによって、働き方や時間の使い方が変わりましたか。

在宅勤務が増えて、家のことと仕事をシームレスに行き来するのが心地いいですね。普通の人の感覚とビジネスマンとしての感覚の融合というか。本社が愛知なので、東京で働く夫と離ればなれに住んでいた時期もありましたが、お昼ご飯を一緒に食べるようになったのも新鮮です(笑)。

――最近読んで面白かった本を教えてください。

斎藤幸平著「人新世の『資本論』」です。話題の本で、「SDGsは『大衆のアヘン』である!」という「はじめに」が衝撃的で読みました。とても刺激的な内容で、今までの延長線上に未来はない、というのをみんなが感じて、だからこそ売れているのだなと思いましたし、会社の今後を考える上でも様々なヒントを得ることができました。

他人へのリスペクトが自分を成長させる

――小町読者は30代が中心です。30代で学んだことは何ですか。

入社10年目でダイバーシティーのプロジェクトを担当し、マイノリティーの方々、メインストリームにいない人たちの持つパワーや突破力に刺激をもらいました。ダイバーシティーは企業の競争力になると、肌で感じました。他人をリスペクトしてそこから学ぶというのは、自分を肯定的に受け止めてオープンに吸収し成長していくことでもあります。

トヨタ自動車、大塚友美執行役員

――今、管理職として大事にしていることは。

背伸びしすぎずに、自分らしく、できることをしっかりやる。今の立場になったときに、社長から「ビジネスマンとしてではなく、ひとりの人間としてできることを考えなさい」と言われて。改めてそうだな、と思っています。ビジネスマンとしてやろうと思うと、自主規制したり思考停止になったりするのが、ひとりの人間としてこれを成し遂げたいというのを駆動力にしていくと、いろんなことが突破できたり、自分にはできないと思っていたことができたりします。

 豊田英二さん(第5代トヨタ自動車社長)の「時は命なり」という言葉があります。マネジャーは、部下の命の時間を預かっている。そう心して、無駄な仕事はさせず、やりがいがあって、成長を感じられて世の中の役に立つ仕事を割り当てることが、上司の仕事。その気持ちをつきつめていけば、会社が変わり、ひいては社会が変わっていくはずです。

「成功をもたらしたこの一冊」シリーズは、こちらから。

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大塚 友美(おおつか・ゆみ)
トヨタ自動車 執行役員・Chief Sustainability Officer

1992 年、トヨタ自動車入社。 初代ヴィッツ等国内向け商品の企画、ダイバーシティープロジェクト等の人事施策の企画・推進、海外営業部門の収益・人事管理、未来のモビリティーのコンセプト企画、GAZOO Racing Company(モータースポーツ・スポーツカー)統括などを経験。途中、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスでMBA取得。2020年2月から Deputy Chief Sustainability Officerとして サステナビリティーへの取り組みを担当。2021年6月より現職。

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