小原ブラス29歳・関西弁ロシア人がヤモリの絶命で覚悟した孤独

日本ではなぜかロシア人は冷たいとか、笑わないというイメージもあるようだ。メディアに出て、笑うことなくひねくれたことばかり言っている僕も、その原因となっている一人かもしれない。自分で言うのもおかしな話だが、そんなひねくれキャラの僕も、うっかり優しい笑顔を隠しきれない時がある。それは実家に帰って、ペットとして飼っている黒猫や、犬のダルメシアンと触れ合う時だ。

猫や犬、リクガメ、ハムスター、金魚、メダカ、グッピー・・・、色んな生き物をペットとして飼い、どの子にも愛情を注いだし、いやしやぬくもりをもらった。親に聞くと、僕が赤ん坊だった頃はシェパードがいつもそばにいて、面倒を見てくれていた。危ない階段の方にハイハイでいくと止めてくれたし、知らない人がベビーカーに近づくとほえて追い返していたらしい。僕にとって、そばに生き物がいるというのは赤ん坊の頃から当たり前のことだったのだ。

そんな僕は今29歳、生き物と一緒に生活するということができなくなっている。

男性にだけある条件

20歳の頃、実家を離れ東京に出てきた僕は、当然のようにペットが飼えるマンションを住まいとして選んだ。落ち着いたら猫を飼おうと決めていたのだ。

万が一にも飼えなくなるなんていう状況になっては大変なので、収入や生活が安定したと確信できるまで、2年ほどかかったと思う。いよいよ安心して猫を迎え入れる準備が整った時、壁にぶち当たった。

僕は、生き物に値段をつけ、商品として販売し、売れなくなったら処分するというビジネススタイルのペットショップなどと呼ばれる所で、動物を買うことには抵抗がある(もちろん、最後まで引き取り手を探す良心的なショップもあるので、全てのペットショップが悪いというわけではない)。

せっかく飼うのであれば、引き取り手を待っている保護猫がいい。そこで、保護した動物の譲渡を行っている団体にいくつか問い合わせてみたのだが、結果としてお断りをされた。理由は、まさかの「独身の男性にはお譲りできないルールになっている」とのことだった。独身男性が譲り受けるには、収入証明の提出や引き取り後の生活状況の報告、万が一の場合に世話を引き継いでくれる家族がいるなどの厳しい条件があるという。外国人であれば、なおさら無理とのこと。

女性にはないこれらの条件が、男性にだけあるのがなぜなのか。詳しい理由は説明してもらえなかったが、ネットで調べると、仕事で家をあけることが多いとか、虐待をする可能性があるとか、そういうことらしい。

僕は独身の男性である上に外国人というフルコンボ。ペットを飼うに値しない人間だということかと落ち込んだが、信用がなければ仕方がない。ペットショップはこういう人のためのものでもあるのかと理解したが、やっぱり抵抗がある僕はまだ「買う」という決断には至っていない。

この先ずっと孤独に生きていこう

また別の問題が出てきた。それは、何かの呪いにでもかけられているかのように、僕と一緒に暮らす生き物がすべて絶命することに気がついたのだ。

どんなに世話をしても、観葉植物がすべて枯れる。ベランダで野菜を育ててみても1度だって成功したことがない。何の対策もしていないのに、部屋には虫一つ出てきたためしもないし、見つけたと思ったらすべて亡きがらだ。なかなか枯れないと聞いた「サクララン」という植物を置いてみたこともあるが、わずか2週間でしおれてしまった。

たった一度だけ、部屋にヤモリがいるのを見つけたことがある。家の運気を上げる守り神との言い伝えもあるし、ものすごくかわいい。名前でもつけて面倒を見ようと思っていたが、見つけたその日に「ピー」と「ジー」の間ぐらいの音で叫びながら天井から落ちて、腹を上にして絶命した。ヤモリも叫ぶんだ。

あれだけ生き物と一緒に生きてきたのに、今や僕とは人間を含めたどんな生き物も一緒に生活してくれないのか――。これがたまたまなのか、何か悪運に見舞われているのか分からないが、生き物が死んでしまうくらいなら、この先ずっと孤独に生きていこう。そう決意することにした。

心にぽっかりと空いた穴は、偶然街の小さな花屋さんで出会ったサボテンが埋めてくれている。2年ほど前、店の隅に追いやられ、半分変色して元気のなさそうなサボテンがかわいそうに見えた。どうせ枯れるなら買って帰ろうと、店のおじさんに値段を聞くと、「無料で持ってっていいよ」とのこと。なんと譲ってもらえたのだ。

サボテンは比較的育てやすいと思われているが、種類によっては水をあげすぎて枯れたり、エアコンの風に弱かったりする。譲り受けた枯れかけのサボテンにどの程度水をあげていいかも分からなかったけれど、霧吹きをたまに振りかけてあげていると、みるみる大きくなって、ケガをするんじゃないかというくらい立派なトゲも成長した。

部屋を訪ねてきた知り合いは、その鋭利すぎるトゲを見て「かわいくないサボテンだね」と言う。でも、僕はついトゲのある言い方をしてしまう自分と重なるようでものすごく好きだ。

ある日、サボテンを眺めていた友達が「このサボテン、根が土についてなくない?」と疑いを抱いた。すでに2年くらい元気にしているサボテンをなるべく触らないようにしていたから、僕は全然気がつかなかったが、よくみると確かに根っこがひっついていない。試しに持ち上げてみると、すっと持ち上がる。このサボテンは、ずっと根っこをはやすことなく生きているのだ。

小原ブラスのサボテン。根が土にくっついてないので「ど根性サボテン」
根付かぬまま元気に育つ「ど根性サボテン」

昔、アスファルトの隙間に生える「ど根性大根」というのがはやったが、家にいるそいつはそれ以降「ど根性サボテン」と皆に呼ばれるようになった。そのサボテン以外の植物はすべて朽ちていくのだが、ど根性サボテンだけは土に根をはやすこともなくピンピンしている。

こんなことを言ったら、サボテンの愛護団体に「いや土を増やしてあげなさいよ!それはサボテン虐待よ!」と怒られるかもしれないけれど、やっとこさ僕と一緒に生きることに成功している生き物を見つけたのに、今の環境を変えるのも怖い。

振り返ってみると、このサボテンを育てるようになってから、テレビの仕事が増えた気もするし、運気も上がったと思う。ど根性サボテンは僕のラッキーアイテムであり、僕を無条件に受け入れてくれた家族なのだ。

なかなか恋人もできず、かわいいペットを飼うこともできず、偏屈ロシア人と呼ばれながら1人で生きる寂しいゲイだけど、サボテン一つにここまで書けるほどには救われている。孤独とは1人でいることではなく、仲間を求めるのをあきらめた時に感じるものなのかもしれない。

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小原ブラス顔写真
小原 ブラス(こばら・ぶらす)
タレント・コラムニスト

1992年、ロシア・ハバロフスク生まれ。6歳から兵庫県姫路市で育つ。「見た目はロシア人、中身は関西人」として、テレビのバラエティー番組やYouTubeで「ピロシキーズ」として活躍。コテコテの関西弁で政治や社会問題を鋭く斬るコメントで注目を集める。コラムニストとして様々な媒体で執筆、ロシア人の目から見た日本の疑問点や違和感を率直につづる。

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