【SDGsの基礎】コロナ禍にDV相談「最多」が示す2つの意味

SDGsは、これからの暮らし方や働き方の指針となる世界の共通目標です。でも、どうやって関わればいいのか分からないという人も多いのでは? 働く女性がこれだけは知っておきたいSDGsについて、日本総合研究所の村上芽さんが解説します。今回は「女性と暮らし」をテーマに、日常生活を脅かすDV(ドメスティック・バイオレンス、配偶者や恋人からの暴力)を考えます。

【質問】
昨年末に第1子を生み、育休中の20代女性。大手金融機関に勤める30代の夫は、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が増え、「仕事の邪魔だから泣かせるな」「黙ってどこ行くんだ」などと激しくどなるように。子どもに手を上げるのではないかと、顔色をうかがい、おびえながら過ごす生活です。いつか、平穏な暮らしを取り戻せるでしょうか。

内閣府男女共同参画局の調査によると、2020年度のDVの相談件数が、今年1月までの10か月間で、前年同期に比べて約1.5倍の162000件に上っています。相談件数は昨年11月時点で2019年度の総数を上回り、過去最多を更新しました。このままのペースで増え続ければ、20年度は約18万件に膨らむと推計できます(棒グラフの斜線部分)。

DV相談の増加はコロナだから?

これは、新型コロナの感染対策による外出自粛や在宅勤務で、夫婦で家にいる時間が長くなったことが影響していると考えられています。

確かに、「前年同期比1.5倍」と聞くと、新型コロナの影響が大きいように思うかもしれません。ところが、相談件数の増加は、2002年から続いているほぼ一貫した傾向ということも分かります。

2020年度には、「配偶者暴力相談支援センター」のみだった相談窓口に、新たに電話やメールなどで相談できる「DV相談+(プラス)」が加わったことも、相談件数の増加につながる要因の一つと考えられます。

また、新型コロナの生活への影響については、「これまでも起こっていたけれど、十分に注目されていなかった事柄が噴出している」とよく指摘されます。つまり、DVもコロナでにわかに注目が高まったように見えますが、実は、これまでも深刻だった実態が浮き彫りになったとも言えます。

内閣府が発表した家庭内暴力の相談件数の推移
DVの相談件数推移(内閣府男女共同参画局の資料に基づき作成)

なお、2019年度は相談件数の約98%が女性からの相談でした。2020年度のデータでは内訳が明示されていませんが、被害者のほとんどが女性という前提で話を進めていきます。

減少する数字が意味すること

長期的な数字の推移を見ると、「DVの相談件数」は増加傾向にありますが、一方で減り続けている数字もあります。

内閣府の資料によると、例えば、「配偶者暴力防止法(DV防止法)に基づく保護命令事件」(裁判所が加害者に対し、被害者へのつきまといなどを禁じる命令)の件数や、夫などからの暴力を理由に「婦人相談所における一時保護」を受けた人数は、いずれも2014年頃から減少しています。

DVに関連するこのような数字が減っている状況を考えると、相談件数が増えていることは、より深刻な事態が起きるのを未然に食い止めている可能性もあると言えそうです。

では、SDGsは女性に対する暴力について、どのように扱っているか確認しましょう。

5番目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」では、「人身売買や性的、その他の種類の搾取など、全ての女性及び女児に対する、公的・私的空間におけるあらゆる形態の暴力を排除する」とあります。「公的・私的」としているように、家庭内でも暴力は認めないという姿勢を明確に示しています。

さらに、16番目の「平和と公正をすべての人に」という目標にも、「あらゆる場所において、全ての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる」とあります。SDGsは被害者の性別を問わず、身体的・精神的・性的な暴力を受けることのない社会づくりを求めているのです。

被害者の沈黙を破るきっかけ

国際的にみても、セクハラや性的暴力被害を、「#MeToo」という言葉で告発することが大きな運動になったのは、2017年とごく最近のこと。つまり、被害を公にすることには大きな代償を伴い、被害者が泣き寝入りせざるをえなかった状況は全世界でほぼ共通しています。

「相談してみる」ことは、「何か言ってみる」ことの第一歩とも言えます。相談窓口が充実することは、沈黙を破るきっかけになります。

長引くコロナ禍で、経験したことのないストレスを抱えている人も少なくないでしょう。不安やいらだちが、暴言や暴行となって身近な家族へ向けられるのかもしれません。たとえ、不自由のない暮らしが夫のおかげと引け目に思っても、「相談してみる」ところから始めるのは何も悪いことではありません。

SDGsが掲げる17のゴール
SDGsが掲げる17のゴール

SDGsSustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、2015年の国連サミットで採択された、30年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。「飢餓をゼロに」「平和と公正をすべての人に」など17のゴールと169のターゲットで構成され、経済、教育、環境、人権などについて、政府、企業、市民がともに取り組む課題が示されています。

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村上芽
村上 芽(むらかみ・めぐむ)
日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー

京都大学法学部卒。日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、2003年に日本総合研究所入社。ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の支援、気候変動リスクと金融などが専門。著書に「図解SDGs入門」(日経BP)。

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