「クリエイティブリユース」という言葉を知っていますか? 例えば、業務用の卵ケースで作ったランプシェードや、デニムの端切れをつなぎ合わせたトートバッグ、捨てられたぬいぐるみを張り地に使ったイス――。クリエイティブリユースは、家庭や企業から排出された廃材や端材を、人間の創造力によって魅力的な作品に生まれ変わらせる取り組みのこと。人とものとの新たな関係を築いて、暮らしを豊かにする、リサイクルの概念を超えた廃棄物の再利用法として注目されています。
「どこかで見たことある」ゴミがお宝に
東京の日本橋高島屋内にある「高島屋史料館TOKYO」では、クリエイティブリユースを紹介する展覧会が8月まで開催中です。展覧会を監修したのは、ミュージアム・エデュケーション・プランナーの大月ヒロ子さん。2013年に国内初のクリエイティブリユースの拠点「IDEA R LAB」を岡山県倉敷市に開設し、地域ぐるみで活動に取り組んでいます。
会場には、ポップな色づかいの素材が整然と並んでいます。缶のプルタブ、牛乳瓶の紙ぶた、ペットボトルのキャップに、ワインボトルのコルク栓、ガスメーターの数字盤、パーマをかけるときに使う筒状のロッド、テレビのリモコンの部品、飲食店向けの食品サンプルなど。
いずれも地元の工場や店舗、地域住民から提供してもらった廃材です。倉敷の拠点にある「マテリアル・ライブラリー」を再現したコーナーで、いずれもワークショップで工作などに使う材料だといいます。「どこかで見たことがある廃材も、色や形、素材、大きさなどで分類して展示すれば、きらりと光る宝の山になり、創造力を刺激されます」と大月さんは話します。

東京などで美術館の学芸員や空間デザインの仕事をしてきた大月さんが、クリエイティブリユースの面白さに気づいたのは、1980年代。子供向けの美術館を作るための準備で、大月さんは、米ボストンにあるチルドレンズ・ミュージアムを訪れました。館内には廃材ショップがあり、ゲームや学習教材の部品、紙箱、木材など、街じゅうから集められた廃材が豊富に取りそろえられていて、それらを使って子供たちは、目を輝かせながら工作を楽しんでいたそうです。「創造力を働かせ、遊びながら、環境についても考えることができる取り組みにひかれました。今でいうSDGsですね」
日本にもこうした場を作りたいと考えた大月さんは、99年に大阪府にオープンした大型児童館をプロデュースした際、廃材で工作ができる工房を設けました。さらに、世界各地で実践されている「クリエイティブリユース」の活動拠点を訪ね歩いたそうです。東日本大震災を機に、「やりたいことをしなきゃ」と決意し、故郷の倉敷に戻って、2013年にクリエイティブリユースの実験場である「IDEA R LAB」を開設しました。
ワクワクと人のつながり生まれる

高島屋史料館TOKYOの展示では、海外のクリエイティブリユースの先進地の作品や商品も展示しています。
例えば、フィンランドの空軍のパラシュート生地の端材で作られたシースルーのワンピースや、コンピューター部品で作った鍋敷き。南アフリカで作られたショルダーバッグは、車のナンバープレートが材料です。スイスのデザインデュオが手掛けた、ままごと用のキッチンは、オリーブオイルの缶や瓶のふたを再構築して作ったもの。大月さんは「クリエイティブリユースによる作品は、個人の楽しみのためだけでなく、一点もののアート作品になって美術館に収蔵されたり、デザイン性の高い商品として販売されたりする可能性もあるのです」と説明します。
クリエイティブリユースは、ものを循環させるリサイクルとは異なります。工場や店舗などを回って、廃材を集めることで対話が始まり、地域を深く知ることにつながります。人が集まって一緒に手を動かせば、コミュニティーが育まれます。不要と思われていた廃棄物が、人と人とのつながりや、次のものづくりをも生み出します。 身の回りの必要ないと思うゴミも、よく観察すると、暮らしを楽しむための材料として活用できるかもしれません。「生活にクリエイティブリユースを取り入れ、ワクワクしてみませんか」と大月さんは呼びかけています。
(読売新聞メディア局 谷本陽子)
展覧会「クリエイティブリユース ―廃材・端材からはじまる世界―」
【会期】前期は6月13日まで
後期は6月16日~8月29日(展示の入れ替えあり)
月、火休館
【会場】高島屋史料館TOKYO(東京都中央区)
【入場料】無料