ポーラ社長 及川美紀「管理職 100点満点の必要ない」

2020年1月、化粧品大手・ポーラ初の女性社長に就任した及川美紀さん(52)は、日本の大手化粧品会社で初の女性社長としても注目されている。国連の定める3月8日の「国際女性デー」を前に、自らの経験や30代女性へのアドバイスを聞いた。 

甘くみた昇格試験

30代は多くの時間を埼玉県の販売会社で過ごしました。ポーラ専業の販売店を営業車で回り、個人事業主のオーナーをサポートする仕事です。困り事や従業員教育、販売促進など、電話が昼夜なく鳴り、誰より働いている自信がありました。35歳で課長昇格試験を受けた時は「当然、受かる」と甘く考えていたんです。

ところが、結果は不合格。「意識が甘い」「なぜ管理職試験を受けたのかわからない」と 辛辣しんらつ な評価を受けました。当時の私は、その理由がわからなかった。「本社にいないから不利なんだ」「上司の後押しがないから」と周囲に愚痴をこぼし、“ぐれて”いました。

約半年後、私の態度を見かねたベテランのオーナーから呼び出され、「最近のあなたはどうしちゃったの。これ以上がっかりさせないで」と言われました。短い言葉でしたが、心に響きました。大切なビジネスパートナーにそこまで言わせてしまう自分は何なんだ。

考え抜き、独りよがりだったと気づきました。その頃の私の頭の中は、自分がやりたいことをどう実現するかばかり。後輩に声をかけられても「忙しいから5分で話して!」と。これでは、相談もできないですよね。

ポーラ社長 及川美紀さん
ポーラ社長 及川美紀さん

組織が輝くために

自分の意識は「組織が輝くには何をすればいいか」へと変わりました。マネジメントの本を読み、後輩には指示ではなく、目標を共有して意見を求めるようになりました。翌年の昇格試験は組織の成長戦略を提案して合格し、埼玉エリアの責任者を任されました。このときの経験が今につながっています。

ポーラには、女性を応援するDNAが根付いています。本社の管理職の女性比率は30%を超えていますが、総合職従業員の男女比と同等にすることを目指しています。

ポーラ社長 及川美紀さん

慣習変わる時代

その方法のひとつが抜てき人事です。男女共に能力があると見込んだ人を積極的にリーダーとして登用します。女性は自分の理想と比べてしまいがちだからか、「なぜ私なの?」と聞いてくる人が多い。でも、背中を押せば、立派に役割を果たしてくれます。

管理職になったから100点満点である必要なんてありません。やってきたことを信じて挑戦してみればいい。登用は成長を見込んでのこと。自分の可能性と成長を信じてほしい。

今はまだ、経営陣の女性比率が低いため、男性目線の価値基準で評価されることが少なくありません。でも、リモートワークやジョブ型雇用が広がれば、男性社会で生まれた長時間労働などの慣習が変わるでしょう。女性の能力が評価されやすくなると思います。優秀な女性を眠らせていては企業の業績や発想力は上がりません。

私の30代を振り返ると、布団をかぶって消えたくなる失敗がいくつもあります。でも今は、自分に必要なことだったと思います。

◇ ◇ ◇

【取材後記】1時間のオンラインインタビューで、記者は、及川さんの人柄に心をつかまれた。周囲を巻き込むパワフルさと気さくな物言いの両方が、多くの「及川ファン」を作ってきたと想像する。

一方で、冷静に状況を分析する目を持ち合わせる。出世をためらう女性の意識を「自分の理想と比べ、足らないところに目がいってしまうから」と解説してくれた。当事者の側にも、管理職をすすめた上司の側にも、「なるほど」と合点する人がいるのではないだろうか。

コロナ禍で、化粧品業界は逆風の中にある。多難の船出とも言える就任後の1年を、「どうすればこの事態を打破できるか。未来のあり方をものすごいスピードで考えるきっかけができて意味があることだった」と振り返った。

新しい時代をどう切り開いていくか。及川さんのかじ取りに今後も注目したい。(読売新聞経済部 沼尻知子)

「30代へのエール」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。

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及川 美紀(おいかわ・みき)

1969年、宮城県生まれ。東京女子大文理学部卒。91年、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)に入社。商品企画部長や取締役執行役員事業本部担当などを経て、現職。

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