インターネットを通じて資金を集めるクラウドファンディング(CF)のサービス提供会社「レディーフォー」最高経営責任者、米良はるかさん(33)。大病を乗り越えて30代を迎え、誰もがやりたいことを実現できる社会のために、人生をかけて取り組みたいという。
資金募るサイト

個人や企業などの活動や夢をネットで発信し、思いに共感し、応援したいと思う人から資金を募るサイトを運営しています。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、難民キャンプにマスクを届けたり、生活が困窮する学生を支援したりする様々なプロジェクトが、このCFからスタートしました。昨年4月には、サイトに「コロナ基金」を設立し、8億7000万円が集まりました。「共助」の意識が予想を超えて根付き始めたと感じています。
大学院在学中の22歳の時、IT起業家が集まる米スタンフォード大に留学しました。学生がCFを通じて1000万円の資金を調達しているのを目にし、ネットで個人と個人がつながる時代が来ると確信しました。
帰国後にベンチャー企業のもとで日本初のCFサービスを作り、26歳の時に仲間たちと独立しました。
大病乗り越え
支援資金の規模は順調に増えました。でも、目先の数字を追いかけることで手いっぱいの日々。創業経営者にとって会社が自分の子どものように思え、私がいないと潰れてしまう、一人で全て背負ってやらなきゃ、と。
そのさなかに、首の付け根の違和感に気づいたのです。血液がんの「悪性リンパ腫」と宣告されました。29歳で未来の保証がないことに絶望し、会社の仲間に報告した時には号泣してしまいました。
経営陣の一人が「会社は僕らが守るから」と声をかけてくれました。そのとき初めて「一人じゃない」と気づきました。半年間、抗がん剤治療で強制的に会社から離れましたが、会社は順調に成長しました。自分の焦燥感は根拠のないものだったと知りました。
病気にならなければこれほど仲間を信頼出来なかった。そして、病気になったから会社から「子離れ」できました。
仕事で出会った人たちに刺激され、社会の構造的な問題に強く関心を抱くようになりました。低収入の一人親世帯にお金がまわらない、短期の利益が見込めない研究に資金が集まらない……。病気を経て、大事なものをともに守り、支え合う仕事への思いは募ります。
30代になり、今の仕事は、やるべきことを自ら選んだという意識を強く持つようになりました。仲間とともに、ここまでやりきったと言えるところまで突き進みたい。
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【取材後記】上品な濃紺のジャケットにパンツ姿で撮影現場に現れた米良さん。小顔な上、160センチの身長が小柄に見える抜群のスタイル。思わず「かわいい!」と感嘆してしまった。
実は、新型コロナの感染拡大を受けて取材はオンラインで行い、実際に会うのはこの時が初めてだった。「社会へのインパクトを最大化したい」。社会問題の解決に向けて野心的に挑戦する米良さんの存在感の大きさに圧倒された。
がんの再発に関する不安を尋ねた時、「医者が大丈夫と言えば大丈夫。経営より答えを教えてくれる人がいる分、精神的に楽。不安がっても人生、ポジティブなことはないでしょう?」と笑った。
客観的な分析や迅速で冷静な判断が求められる経営者ならではの厳しい立場が垣間見えた瞬間だった。それでいて、仕事は誰かのためではなく「自分がやりたいからやっている」との言葉に、誠実な人柄と覚悟が伝わってきた。(読売新聞科学部 石川千佳)
「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。