モデル、タレントを経て、最近は女優として注目を集める中村アンさん(33)。飾らない前向きな性格と元気な笑顔が持ち味だが、キャリアのスタートが遅いということに悩みながら自分の進む道を切り開いてきた。
遅いスタート
女優としてやっていこうと決意したのは30歳になってから。「人よりもスタートが遅い」ということに引け目がありました。周囲は「どうしても女優になりたい」と10代の頃から演技に打ち込んできたような人ばかり。実力の差を感じ、お芝居の現場に入るときはいつも「お邪魔します」というような気持ちで楽しめませんでした。
そもそも芸能界に入ったのも大学を卒業する頃。読者モデルの経験はあったものの、就職活動中は客室乗務員や雑誌編集者など、会社員として生きる道も模索していました。スカウトをきっかけに芸能事務所に所属しましたが、約3年間はスケジュール帳は埋まらず。大学時代の友人が社会人としてステップアップしていく姿を横目に、「やはり芸能界は向いていないのかも」と、お風呂の中で落ち込みました。
絶対売れたい
転機となったのは、25歳で出演したテレビ番組です。「このままではダメだ。絶対に売れたい」と決意。一人でも多くの人に中村アンを印象づけるため、明るい色の服や、長い髪をかき上げるしぐさを心掛け、いい女風を演出しました。思ったことを率直に発言するようにしたら「毒舌キャラ」と受けました。
徐々に仕事が増え、目標にしていたファッション誌の表紙を飾り、演技の仕事も舞い込むようになりました。未知の世界でしたが、思い切って挑戦するとやりがいがあり、もっと頑張りたくなりました。
ある時、ドラマ撮影の現場で期待される演技ができず、歯がゆい思いをしたことがあります。「私はもう31歳だから」とこぼすと、監督に「その人のタイミングでやっていけばいい」と返され、胸に響きました。「大学に行ったのは無駄だった。もっと早くから芸能界で頑張っていれば」と後悔したこともありましたが、「市井の人」としての時間が長い分、演技の引き出しは増えたはず、と自分を肯定できるようになりました。
今度、公開される映画では、わがままで勝ち気な「嫌な女」役に初挑戦しました。不安もありましたが、感情を爆発させて臨んだことで、新境地を開けたという手応えがあります。演技に対する引け目も少し 払拭 できたかな。
年齢を理由に何かをあきらめるのはもったいない。私は人より遅れてスイッチが入っただけ。限界を設けるより、自分のペースでいろいろな芝居に挑戦していきたいです。
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【取材後記】取材中、記者の目をじっと見つめ、うなずきながら質問を聞く。ゆっくり言葉を選びながら明確に答える。「『西麻布でシャンパンを飲んでいる派手な女性』みたいな役が似合うと思われるかもしれないけど、学生時代はスポーツに熱中。普通の人として生きてきた時間が長いんです」と笑う。取材前は、いつも明るく、華やかな女性というイメージだったが、実際には知的で落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「女性は結婚や出産といったリミットを勝手に設けられている気がする」と社会に対する違和感も語ってくれた。多くの女性が感じる気持ちだろう。「誰のせいにもせず、自分のやりたいこと、熱意を持てることに挑戦していきたい」と話す姿は、働く女性として芯の強さも感じた。
これから挑戦してみたい役に挙げたのは「タイトスカートを履いてばりばり働くようなかっこいい人」。ぜひ見てみたい。次の作品も楽しみだ。(読売新聞生活部 野口季瑛)
「30代の挑戦」は、各界で活躍する女性たちにキャリアの転機とどう向き合ったかを、読売新聞の30代の女性記者たちがインタビューする企画です。