セイコー・庭崎紀代子 アナログを大切に素直にありのままを見る

企業の役員や代表として道を切り開いてきた女性たちが、自身のキャリアを支えた本を紹介し、20~30代の働く女性たちにエールを送ります。

グランドセイコーを世界的なブランドへと成長させた立役者の一人、セイコーホールディングス常務取締役の庭崎紀代子さんは、誰にでも等しく接することを大切にしています。その姿勢を確かなものとした一冊が、松下幸之助著「人生心得帖」だったそうです。

――いつ、どんなきっかけで読んだのですか。

6、7年前、ニューヨークに出張する飛行機の中で一気に読みました。会社のOB・OGと親しくしていて、お宅にお邪魔した際に、読んだ方がいいよと渡されたんです。私は「会員制クラブ」と呼んでいるのですが(笑)、会社で嫌なことや相談したいことがあると、OBに話を聞いてもらったり、アドバイスをもらったりしているんですね。元気になれるセラピーのような存在といいますか。

パナソニックの創業者、松下幸之助(1894―1989年)の「人生心得帖」(PHP研究所)は、初版が1984年に刊行されました。豊富な体験、鋭い洞察をもとに生き方の指針をつづったロングセラーです。

本を手にして身構えてしまったのですが、読んでみたら、ビジネスマンとして、上司として、女性役員としてどうということではなく、その前に人としてちゃんとしなさいという内容で、背中を押された気がしました。

意志をもって進めば、周りが助けてくれる

――具体的には、どのような部分に背中を押されたのですか。

もともと私は、誰に対しても等距離でいたいというのがモットーです。相手がCEOでも、若い社員でも態度を変えたくないし、言いたいこともぽんぽん言うタイプです。この本には、何ごとにもとらわれない素直な心で物事をありのままに見ていくことの大切さが書かれていました。自分と同じことを松下さんも思っていたのだと、感慨深かったですね。松下さんは家が貧しくて学校に行かれず、病弱でもあったけれど、意志を持って淡々とやっていれば、ちゃんとみんなが助けてくれると書いています。共感できる部分がたくさんありました。

――セイコーウオッチで腕時計のブランディングを推進し、女性初の役員になりました。キャリアの転機を教えてください。

入社後しばらく所属していた時計以外を扱う部門で、イタリアのジュエリーブランドを担当したことです。若くても一人で一つのブランドを任される部署でした。イタリアに自分で買い付けに行って、値段も自分で付けて、販促キットや宣伝ツールを作り、営業マンと一緒に売りに行く。それがキャリアの中で糧になっています。物を作ってからお客様に売るところまで全体を見ながら考えることが経験できました。

――大の旅行好きだそうですね。新型コロナウイルスによって海外旅行にも行けませんが、リフレッシュはどうしていますか。

この10年ほどは、年末年始に夫と両親と4人でサンフランシスコに行っていたのですが、今回はかなわず、残念でした。95年ごろに購入したマガジンハウスの「ガリバー」というガイドブックは、今でも大切に持っています。紹介されている店が、どれも自分の感性に合ったんです。当時、主人と2人で行った場所に、今でも行っています。最近になって、このガイドブックを手がけたのが知人だったとわかって驚きました。

旅行は大好きで、3連休あればどこかに行っています。計画を立てているときが至福の時間です。今は海外に行けませんが、想像するだけで楽しい。新型コロナが落ち着いたら、イタリアに行って、朝食のおいしいホテルでゆっくりして、街を歩きたいですね。

面白いことは外に転がっている

 

セイコーの庭崎紀代子さん

――若い人へ、キャリアを積むためのアドバイスを。

楽しそうに仕事をしていた方が得ですよ、と伝えたい。管理職の側から見ても、大変な中でも楽しそうにしている人には、チャンスを与えやすいですから。生き生きとやっていると、良い流れを引き寄せます。そして、人と会って話すことを大切にしてほしいですね。自分の発想やアイデアを豊かにするのに、いろんな人と話をするのは、とても刺激があります。外にはいっぱい面白いことが転がっています。

そして、「これをやりたい」という強い熱意があるなら、失敗を恐れずにやってみてほしい。私自身、いろいろチャレンジして失敗もたくさんしましたが、上司に恵まれ、おおらかに見守ってもらいました。仕事は旅と一緒で、計画を立てているときの楽しみと、実際に行動を起こしてみた結果の面白さがあります。いろいろ試すから失敗もする。でも、だからこそ人が思いつかないようなことをやって、褒められると「しめしめ」と思うし、ミッションを達成した喜びも大きい。

――コロナで社会が一変しました。「時はあなたが刻む」。緊急事態宣言の解除から間もない昨年6月10日の「時の記念日」に出した広告コピーが目を引きました。2021年は、どんな挑戦をしたいですか。

苦しいときこそ、企業としてのメッセージをきちんと発していくべきだと思っています。コロナで、あらゆるものがデジタルに置き換えられましたが、へそ曲がりなので、今年はよりヒューマンなものを求めたいですね。会議もリモートになり、DX(デジタルトランスフォーメーション)で便利になったけれど、逆にアナログ的なものにすごくひかれます。そして、受け身ではなく能動的に動いていきたい。自分の感情や思いは、外に向かって発信するときに絶対に表れますから。自分がポジティブでいられる環境を作って、様々なアプローチでお客様にセイコーというブランドの魅力を伝えていきたいですね。

(聞き手・読売新聞メディア局 小坂佳子)

「成功をもたらしたこの一冊」シリーズは、こちらから。

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庭崎 紀代子(にわさき・きよこ)
セイコーホールディングス常務取締役

1986年に服部セイコー(現セイコーホールディングス)入社。2013年にセイコーウオッチ執行役員兼広報・PR部長、同社取締役などを経て19年にセイコーホールディングス広報室、スポーツ・企業文化部統括部長兼スポーツ・企業文化部長、20年から現職。

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